収穫の秋と新たな課題【藤本一志の就農コラム 第13回】

こんにちは。岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。


10月上旬、岡山市でもやっと稲刈りが始まりました。

わが家の田んぼでも稲刈りが始まったのですが、実は稲刈りをするのはこれが初めて。というのも、稲刈りの作業自体はそこまで負担ではないのです。

本当に負担が大きいのは籾摺り、つまり出荷作業です。

30kgもの米袋を何百と運ぶため、かなりの体力を要します。そのため、今までは出荷作業を手伝い、稲刈りは祖父に任せていました。

しかし、今年こそはチャレンジしてみようと、祖父にお願いして稲刈りのやり方、コンバインの運転の仕方などを教えてもらいました。

ということで、今回は稲刈りをテーマに話を進めていこうと思います。


試練の多かった2020年の米作り

今年の稲刈りは、例年よりも少し早めに始まりました。

いつもは10月10日頃に中生品種の「ヒノヒカリ」を刈り始めますが、今年は10月6日。どうして早くなったのかは分かりませんが、振り返ってみると、今年は厳しい年でした。

まずは梅雨の長雨です。

今年は梅雨明けが平年より10日ほど遅くなりました。そのため、日照不足によって光合成が進まず、稲の生育に遅れが生じていました。

しかし、8月になると一転し、最高気温が35℃を超える日々が続きます。これで生育も進むかと思いきや、今度は気温が高すぎて高温障害の危険性が出てきました。

高温障害とは、気温が高すぎて稲の蒸散が根からの吸水を超えることで、生育が進まなくなることです。結果として、未熟米の割合が多くなるなどの、品質低下につながってしまいます。

近年の夏は非常に暑く、岡山県南部では最高気温が35度を超える日が続きました。そのため、数年前から稲に「高温障害」が発生しているのです。

また、夏を過ぎると害虫の「トビイロウンカ」が大発生しました。

トビイロウンカは中国から飛来し、気温が高いと大発生する害虫です。こちらも数年前から被害が多く見られ、防除のための農薬を撒いたにも関わらず、今年も被害を受けてしまいました。

それでも、厳しい環境を乗り越えて、今年も無事に稲は実りました。

いざ田んぼの前に立つと、「さぁ、刈るぞ! 」と胸が高鳴ります。


ちなみにわが家の田んぼでは、「ヒノヒカリ」と「アケボノ」という2つの品種を育てています。

「ヒノヒカリ」はコシヒカリの子にあたる品種で、艶のある炊きあがりが特徴です。主に白米として食べられます。

一方の「アケボノ」は岡山県固有の晩生品種。食味はヒノヒカリに劣りますが、汁をよく吸うため、丼料理やカレーなどに使われています。収穫時期はヒノヒカリの後で、例年10月20日前後から始まります。


コンバインに乗るのは手刈りをした後

さて、冒頭でも述べましたが、私は稲刈りが初めてです。そのため、祖父にいろいろと教えてもらいながらの作業となります。

まず意外だったのが、コンバインで刈り取る前に、手で稲を刈り取ること。これが結構時間がかかりました。

どうして手刈りをするのかというと、コンバインが旋回する場所を作るためです。コンバインは機械の中でも大型で、小回りが利きません。

そのため、いきなりコンバインで刈り取ろうとすると、田んぼの端まで刈り取って旋回するときに、周りの稲を倒してしまいます。それを防ぐために、コンバインの前に手で刈り取る必要があります。

具体的には、

  • コンバインが田んぼに入るスペース
  • コンバインが旋回するスペース(主に田んぼの端)

を手で刈り取ります。

田んぼの端というのは、四角形の頂点にあたる場所です。しかし、デコボコしている田んぼだと、手刈りする場所は増えます。今回私が稲刈りした田んぼは角が多く、7カ所ほど手刈りしました。

そして、手刈りの際に目の当たりにしたのが、祖父の手際の良さです。

農業歴が50年を超えているだけあって、とても素早く、稲を刈り取っていきます。力の使い方がうまいのか、太い株でもザッと、一瞬のうちに刈り取ってしまうのです。

私はというと、ザッザッというように、のこぎりの要領で、1本の株に対して何回も鎌を動かして刈り取っていました。さすがに遅いと思われたのか、珍しく祖父の方からやり方を教えてくれました。

教わった後は力の入れ方や体の使い方も分かり、ザッと1発で刈り取れました。改めて、祖父のすごさを感じた瞬間でした。

そして、手刈りが終わるといよいよコンバインでの稲刈りが始まります。

手刈りの跡。少し広めのスペースができるように刈り取る

収穫の安心感と新たな課題

コンバインの運転も当然初めてでしたが、数回往復しているうちに、すっかり慣れました。祖父の的確な指示のおかげで、簡単にコツをつかむことができたからです。

意外なことに、コンバインには直進アシスト機能がついていたのですが、使いにくかったため、途中からは手動で運転しました。

そして、コンバインの上から見る風景は絶景です。

辺り一面の金色の海。わが家の田んぼだけでなく、お隣の田んぼも、そのまた向こうの田んぼも。

田植えのときも思いましたが、機械の上からしか見ることのできない、農家だからこそ見えるこの風景が、私は大好きです。そして、この風景を目にしたと同時に、今年も無事に育ってくれてよかったという安心感が芽生えました。

まだ刈り取りは始まったばかりなので気は抜けないのですが、もうすぐ新米をいただけると思うとワクワクしました。

刈り取った籾をタンクに詰め込む 
一方で、新たな課題も見えました。それは、稲刈りに必要な日数が想像以上に多かったということです。

わが家の田んぼはわずか3haですが、今の設備で稲刈りがすべて終わるのに10日ほどかかります。そして、乾燥や出荷も含めると、それ以上の日数が必要となります。

稲は収穫すると乾燥させなくてはいけません。

田舎に行くと、竹竿などに収穫した稲が掛けられている光景を見たことがある方も多いでしょう。あれは刈り取った稲を天日干しにして乾燥させているのです。

しかし、それは昔ながらのやり方で、今では乾燥機を使うのが主流です。私の家でも、刈り取った稲は乾燥機に入れるのですが、この乾燥機の容量が想像以上に小さかったのです。

乾燥機に入った籾の量は、面積にして0.3haほど。田んぼの半分程度です。そして、乾燥には早くて1晩かかります。

乾燥が終わり、乾燥機から中身を貯蔵室に移し、ようやく次の稲刈りを開始。

この作業を、11月上旬まで繰り返し行います。もっと大型の乾燥機があれば短縮できますが、今の設備ではさらに大型の乾燥機を設置するのは難しいです。

そして、日数がかかるが故に、農業をしながら距離の離れた真庭市で働くことが難しくなります。

でも、なんとか実現したい。

今までの作業では、平日は真庭市で仕事をし、休日は岡山市に帰って農業をすることが可能でした。課題もいくつかありましたが、解決方法も見えていました。

しかし、今回の場合はそれが通用しません。思わぬところに課題がありました。


解決のカギはリモートワーク?

それでもやはり、将来的には岡山市で農業をしつつ、真庭市で移住サポートの仕事を続けたいと思っています。

では、そのためにどうするか?

現時点での解決策は、リモートワークかなと思っています。

真庭市での仕事は、デスクワークが中心。外に出て情報収集や地域活動をすることもありますが、基本的にネット環境があれば仕事はできます。

ただ、会社に出勤したほうが便利なことが多く、なにより会社の雰囲気が非常に良いため、毎週出勤しています。

なにより、おもしろい人たちに出会えます。

しかし、稲刈りシーズンだけは、少し働き方を変える必要がありそうです。リモートで仕事ができるようになれば、少しは変わるかもしれません。

今年が初めてで慣れていない部分も多くあるので、まだ「リモートワークが必要だ! 」と声を大にしては言えませんが、あくまで1つの方法として、頭に留めておきたいと思います。

さて、今回は初めて稲刈りをして、そこで考えたこと・感じたことを書いてきました。

まだ稲刈りは始まったばかりなので、まだまだ新たな発見があるでしょう。

次回の記事でも、稲刈り、または出荷についてお伝えできればと思います。

刈り取った後の風景。田んぼの中に入ると、農家ならではの思わぬ風景と遭遇する。
【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便