人とのつながりで開く就農への道 ~地域おこし協力隊として目指すブドウ農家~ 【藤本一志の就農コラム 第8回】

岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。


第7回に引き続き、岡山県久米南町地域おこし協力隊の景山さんのインタビューをお送りします。

前回は、景山さんの地域おこし協力隊になるまでの経験や思いについて紹介しました。

はじめは「人に褒められたい」という純粋な思いから。そして、周りの人に農家になることを応援されながら成長し、人とのつながりの中で、地域おこし協力隊として農家を目指す道を見つけました。

さて、無事に協力隊となった景山さんは、現在どのような活動に取り組んでいるのでしょうか。また、目指す農業とは?


関係人口を増やす


景山さんの協力隊活動の目標は「農業分野から久米南町の関係人口を増やすこと」です。

関係人口とは、移住や観光ではなく、継続的に地域や地域の人々と多様に関わる人口のことです。例えば、私は学生時代に真庭市に通いながら地域活動をしていたので、当時は関係人口にカウントされていました。

景山さんは定住人口を増やすのではなく、農業を通して久米南町に継続的に関わる人を増やすことを目標に、協力隊活動に取り組んでいます。

要するに、「人と町とをつなげる活動」です。

「久米南町って、いろんな形の農業があるんです。ブドウやキュウリの専業農家さん、有機農業の農家さん、自家菜園をされている方。農家さんには、アルバイトが欲しかったり、イベントで一緒に農業を楽しみたかったりと、いろんな要望があります」

協力隊として久米南町全体の農家を見ているからこその言葉です。自分の憧れていた「農家」がこれほどまで多様なことがおもしろいと言わんばかりに、彼女の目は輝いていました。

「農業に関わりたいと思ったときに、いきなりアルバイトで本格的な作業をすることが合わない人もいるじゃないですか。でも収穫してバーベキューしましょうとか、野菜や果物を使ったお菓子作りを作りましょうって形だったら、料理に興味ある人も来てくれるかなと思って。それで、ほかにも農業やってみたいってなれば、町内の農家さんにつなげられるなと思って活動しています。

久米南町は農業の形が多様だから、しっかり関わりたい人はアルバイト、少し興味がある人は収穫体験などの楽しい体験をしてもらうなど、その人にあった農業の形を提供して、農業に関わるきっかけを作りたいと思います」

このように、多様な農業の形と、多様な農業へのニーズを掛け合わせて、農業に関わる人が少しでも増えるよう、彼女は活動しています。

実際に、彼女自身も3反ほどの畑を借りて野菜を栽培しています。

景山さんが管理する畑。この日はズッキーニの受粉・収穫をしていました
畑に行くと、ナスやピーマン、ズッキーニ、カボチャなど、たくさんの野菜が見事に育っていました。昨年はこの畑に、岡山市内から大学生が2人、定期的に作業に訪れていたそうです。

「関係人口、2人ゲットです(笑)」

照れ臭そうな表情から、少しずつ活動が前進しているといううれしさが感じられました。


ブドウ農家への道


一方で、ブドウ農家に関しては、ご主人がメインで取り組んでいます。3月に前職を退職し、農業研修生となりました。現在は久米南町のブドウ農家のもとで修行に励む日々です。

当初は、景山さんは協力隊、ご主人は前職を続け、資金が貯まってからブドウ農家になろうと考えていました。しかし、地元農家の集まりに景山さんが参加したところ、

「『お金が貯まってから農家になるなんて遅い』って言われました。1年でも2年でも早く苗を植えたほうがその後の収入が増えるんだから、ローンを組めばいいんだ。これは借金じゃなくて投資なんだから。どうせお金に代わるんだから、早くやればやるほどいいぞって、言われました。だから夫を説得しました(笑)」

それまで穏やかに話していた景山さんが、急に熱くなるのを感じました。

それほど地域の農家さんが、親身になって景山さんを応援しようとしてくれていたんだと、感じました。

そして、急遽方向転換。ご主人を説得し、景山さんは協力隊として活動、ご主人は研修生として修行し、現在の形でブドウ農家を目指すことにしたのです。

「お金のことなど、乗り越えないといけない課題はたくさんあります。でもありがたいことに、地域の皆さんが本当に親身になってアドバイスしてくれるんです。久米南町に通っていたから、いろんな人を紹介され、その人たちに支えられて農家への道を歩めています」

久米南町のブドウ農家の平均耕地面積は78a。ブドウ農家としては広すぎます。そのため、人を雇うことが前提となっています。

そんな地域で、何度も何度も言われたことが「できるだけローンを組んで、現金を手元に残せ」ということ。

現金を使うのは人件費のみ、あとの必要資材などは、ほとんどローンを組んでしまうのが久米南町のブドウ農家さんのやり方だそうです。

景山さんご自身も、現在はローンを組んで、将来のために「投資」をしています。

私は、久米南町は地域ぐるみで若い夫婦の挑戦を応援する、素敵な町だと感じました。景山さんの嬉しそうな姿を見ていると、彼女の思いと行動力が、地域の方々から応援される理由なのだと感じます。

ブドウの様子をチェックする景山さん

ブドウ農家×プラットフォーマー


では、景山さん自身は、どのような将来を描いているのでしょうか。

「ブドウ農家になっても、現在協力隊として取り組んでいる、人つなぎの活動は続けたいと考えています。当然、その時には協力隊ではありませんが、『農家』として、関係人口を増やせたらな、と。今は協力隊活動の比率が大きいですが、将来的にはブドウ農家と協力隊活動の比率を9:1くらいにしたいと思っています」

そのうえで、久米南町への思いも口にします。

「農業を通していろんな人とつながれば、その人に合った久米南町の農家さんを紹介できます。例えば、しっかり農作業がしたい人はアルバイトを募集している農家さんへ、農作物や土にさわって楽しみたい人には農業のイベントを紹介するといったように、農業に関わる人つなぎをして久米南町に貢献したいと思っています」

ブドウ農家だけではなく、久米南町全体の農業のサポートもする、プラットフォーマーのような取り組みを視野に入れているそう。

「私もですけど、農家さんって人が来てくれるとうれしいんです。今関わりのある農家さんも、新しい人を連れて行くと喜ばれます。私がブドウ農家になっても、新しい人が来てくれたらうれしく感じるんだと思います。そうやって新しい風をどんどん入れていきたいです」

彼女を通じて、農業に関わりたいと思っている人が1歩を踏み出すきっかけを作れる、そして久米南町の農業が盛り上がる。ゆくゆくは久米南町で、またはほかの土地で、農業に取り組む人が増える。

景山さんが小学生の時に感じた「農業の高齢化」という問題を、みんなを巻き込むことで解決しようとしているように感じました。私は、彼女の原点とリンクしていることが不思議でした。

「確かにそうですね。でも、近い年代の人を呼びたいって思いが強いです。農業をしていると、どうしても同じ人とばかり話すようになるので。高齢化の解決というよりも、『息抜きになる』って意味合いの方が強いです」

どうやら、「今を楽しむ」というスタンスが、現在の彼女の原動力のようだです。

景山さんの育てたズッキーニ。畑の中で元気よく輝いていました

言い続けること、行ってみること、通うこと


2回にわたって、久米南町地域おこし協力隊、景山美香さんのインタビューをお届けしました。

彼女から感じたのは、ぶれない軸と素直な心。

ずっと「農家になりたい」と言い続ける。

ゆるゆると歩んできたかと思えば、気づけば農家への道を見つける。

久米南町という町を知り、行ってみる。

現地の農家と知り合い、通う。

そして、人とのつながりの中で、自らの夢を叶えようとしています。

私は移住に関する仕事をしていますが、そこで実感するのは「もともと移住先の人とつながっている方が、移住後の生活はうまくいくことが多い」ということです。

景山さんのお話から、農業も同じだと感じました。

景山さんのように、自分が就農しようと考えている地域の人々とつながっておけば、いろいろとサポートをしていただけます。そこには、「チャレンジを応援しよう」という気持ちや、「地域農業の後継者となってくれ」といった思いがあるのでしょう。

そして、人とのつながり作りにおいて、地域おこし協力隊はとても最適な仕事といえます。

景山さんが「いろんな農家さんに行ける」と話していたように、自分が就農する地域だけでなく、もっと大きな「自治体」という意味での地域を見て、そこに住む人々とつながれます。

そして、そのつながりは就農をサポートしてくれる強力な味方となるでしょう。

農業を始めようと思っても、一人では難しいのが現状です。

しかし、人とつながって、信頼関係を築くことができれば、道は開けるでしょう。

目指す農業の形は違えど、生き生きと嬉しそうにしゃべる彼女を見て、私も農業と地域づくりをもっと楽しもうと感じた取材でした。

彼女が作るブドウが楽しみです

久米南町地域おこし協力隊 - Facebook
https://www.facebook.com/kumenan

【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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