麦を作りたいから調べてみた・その2【藤本一志の就農コラム 第18回】

こんにちは。岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。

前回は「麦の栽培」について書きました。

冬の間に農作業がないこと・小麦需要が高まっていることから、私自身「麦を作りたい」という気持ちが強くなり、まずは岡山県南部で栽培できる麦について調べてみたのです。

そのうちにわかってきたのは、岡山県南部で育てられるのは小麦と二条大麦であるということ。特に岡山市は全国でも有数の二条大麦の産地であり、高い反収と作付面積を誇っていることもわかりました。

ただし、小麦・二条大麦ともに収穫作業が稲の播種・田植えと重なるので、そこは要検討案件だとして締めくくりました。

さて、今回は具体的な栽培スケジュールや収益性について調べたので、それをまとめてみようと思います。


麦→米の切り替えが大忙し! 麦の栽培暦から考える二毛作

実際に二毛作をしようと思うと、5〜6月はどんなスケジュールになるのか。

前回調べた内容を元に考えてみました。

まず、小麦と二条大麦の栽培スケジュールは以下のようになります。

  • 小麦:11月中旬播種、6月上旬収穫
  • 二条大麦:11月中旬播種、5月下旬収穫

収穫期が稲の播種・田植えと見事に重なっています。

例年、稲の播種をするのは5月20日前後。二毛作をするとなると、小麦は収穫直前、二条大麦は収穫期ということになります。

また、麦を収穫してから田植えまでの間に、田起こしと代かきをしなくてはなりません。例年であれば、5月上旬からゆっくりと田起こしをしていましたが、二毛作となると麦を収穫してすぐに、スピード感をもって田起こしをする必要があります。

二条大麦であれば少し余裕がありそうですが、小麦となるとその期間がとても短くなります。田起こし・代かきが雑になり、稲作に影響が出るようでは本末転倒です。

兼業であるがゆえ、限られた作業時間の中で他の仕事と調整しながら二毛作に取り組むのは、スケジュールという点から見るとかなり厳しいように思えます。

5月上旬からのんびり始める田起こしも、二毛作では6月の田植え前にスピーディに行う必要がある。

収益性は低い、またはマイナス

続いて、麦栽培の収益性について、農林水産省の「麦の参考統計資料」を元に試算してみました。なお、私の所有するすべての農地(3ha)に作付けするという仮定で試算しています。

まずは小麦についてです。

岡山県のここ数年の小麦の反収は340kg、平均単価は160円/kg。平均単価は、民間流通の価格に経営所得安定対策交付金を加えた金額です。3haすべてに作付けすると、収量は1万200kg、売上は約163万円となります。

これに対し、2.0~3.0haの作付面積における生産費は6万5000円/10a。3haに換算すると195万円となり、なんと約30万円の赤字となりました。

「規模が小さすぎるのかな? 」と思い、作付面積ごとの生産費が最も安くなる5.0~7.0haで試算してもやはりマイナスという結果に。反収の増加や産地形成などの課題があるのかもしれません。また、独自の販売網を形成するなどの工夫も必要だと思われます。

一方の二条大麦はというと、ここ数年の岡山県の反収は380kg、平均価格は145円/kgでした。この平均価格は、経営所得安定対策交付金を含まない金額です。作付規模別の生産費はデータが見つからなかったため、今回は小麦のデータ(6万5000円/10a)で代用しようと思います。

すると、収穫量は1万1400kg、売上は165万円。ここに交付金(3万5000円/10a)が加わることで、総売上は270万円となります。

一方の生産費は195万円。トータルで75万円の利益が発生するという結果です。

産地としてある程度のブランド力はあるはずなのに、助成金を入れないと利益が発生しないのは正直残念でした。「麦は金にならないから辞めた」という父の言葉に、今さらながら納得した感じです。

そんな中、助成金を受ければ利益が見込めるというのは救いだとも感じました。しかし、「兼業で稲作と作業競合する忙しいスケジュールの中で作る意味があるのか」という疑問は残ります。


まずは自給するところから

意気揚々と調べ始めたにも関わらず、スケジュールが詰め詰め・採算性も低いという何とも言えない結果となってしまいました。

“農業”として麦を栽培するのは、現状では厳しい。

それでも、なんとか麦を作りたい。

ここで、そもそもどうして麦を作りたいと思ったのか、その根本に立ち返って考えてみることにしました。

冒頭でも書いたように、麦を作りたいと思った大きな理由は、冬場は農作業がなく、小麦需要が高まっているから、です。でも、もっともっと掘り下げると「自分で作った小麦でパンを食べたい」という思いに行き着きました。

つまり「小麦を自給したい」のです。

中途半端に面積があるから「出荷しよう」と思っただけで、元々の目的は自給でした。「お金を出して買った方がラク」と思うかもしれませんが、家庭で小麦が自給できればいろいろと面白そうです。

まず、パンや麺類だけでなく、天ぷらや揚げ物などの家庭料理を自家製の小麦粉で作れます。「これ、うちで作った小麦を使ってるんだ」という状況が当たり前になると考えただけで、なんだかワクワクしませんか?

それに、小麦の価格変動に左右される心配もなくなりますね。

ここ数年は、毎年のように異常気象が発生して、農作物に被害を与えています。海外産の小麦に依存していると、この先は不安定な食料事情に悩まされることも考えられます。もし小麦が自給できていれば、その心配は減るでしょう。

そして、最も大きな理由は「食育につながる」ということです。

米が作られる過程は、小学校で誰もが勉強しますよね。しかし、パンができるまでの過程はどうでしょうか?

今後パン食が拡大する中で、小麦からパンができるという過程を子どものうちに学んでおくことは、食育という観点からとても重要だと思います。

私はまだ独身ですが、いつか自分の子どもができたときに「パンは小麦からできているんだよ。小麦ってこうやって作るんだよ」と、日常的に教えられたらいいなと思ったのです。

軽い気持ちで始めた麦栽培検討会ですが、思わぬ方向に話が進んでしまいました。

兼業農家で土地があるのだから「まずは自給を楽しむことから始めよう」というのが、今回の結論です。収益につなげようと考えるのは、もっと先の話。

最近では、家庭でも使える電動石臼機も販売されています。まずは1反程度の広さに作付けして、小麦粉を作ってパンを焼ければいいなと思います。

自家製小麦粉でピザを焼くことにも憧れます。

次回は販売体制の構築に向けた動きを

小麦の話は今回で終了です。2021年は播種期を過ぎてしまったので、2022年あたりから少しずつ始められればと思います。

さて、次回は「米の販売」に関して進めていきたいと考えています。

2021年の目標でもある、販売体制の構築。実は、その参考になりそうな勉強会が真庭市で開催されたのです。

内容は、「BASE」というネットショップについて学ぶというもの。以前から気になっていたサービスですので、この機会に勉強したことをご紹介したいと思います。

では、今回はこのあたりで。ありがとうございました。


農林水産省「麦の参考統計資料」【PDF】
https://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/mugi_zyukyuu/attach/pdf/index-90.pdf
【スマホでお店を作ってみよう】ぽちっと みかもっと | ManiColle
https://manicolle.cocomaniwa.com/event/20210219/

【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。