消費者、生産者、それぞれが感じる新米の“調味料”【藤本一志の就農コラム 第14回】

こんにちは。岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。


真庭市では朝晩の気温が一桁に突入し、冬の足音が日に日に近づいています。

さて、前回は稲刈りを通して感じた課題について記しました。

稲を刈り取って、乾燥、籾摺り(もみすり)と進めるとなると、かなりの時間がかかります。2拠点居住・複業を続けるにあたり、これまで見落としていた、大きな課題でした。

今回は、その課題は置いておいて、今年の新米を食べて感じたことを書いていこうと思います。

毎年、新米を楽しみにされている方は多いでしょう。ただ、一口に「新米」と言っても、その味・表情は様々です。その違いはどこからくるのでしょうか?


稲刈りの後の籾は、乾燥させて籾摺りへ

新米の話をする前に、稲刈りの後、刈られた籾がどのようにして白米になるか、お話ししたいと思います。

刈り取り後の籾は水分を多く含み変質しやすいため、乾燥させる必要があります。乾燥には、「自然乾燥」と「機械乾燥」の2つの方法があります。

自然乾燥とは、天日で乾かす方法をいいます。「はざかけ」と呼ばれ、良い天気が続くと、しっかり乾燥して高品質なお米に仕上がります。一方で天気が安定しないと、品質の低下を招くデメリットもあります。

機械乾燥は、乾燥機に籾を入れて乾燥させる方法です。素早く乾燥させられるため、現在ではこちらが主流となっています。

刈り取った籾は、一晩乾燥して、貯蔵室に送られます。

我が家の籾貯蔵室。籾摺りの前は中に入れないほどいっぱいになっている。
そして貯蔵室がいっぱいになると、籾摺りをします。貯蔵しておいた籾を機械に通し、籾を剥いで玄米にしていきます。玄米にしたら別の機械を通り、袋に詰められます。袋詰めも機械で行われ、規定である30kgを自動的に計測してくれます。

人の出番はここからです。

玄米の詰まった30kgの米袋を運び、出荷の体制に整えます。我が家では、JAに卸すものはフォークリフトのパレットの上に、直売用は米用冷蔵庫に。ほとんどの作業が機械化されており、人の出番はほんの少し。それでも、30kgの米袋を100、200と運ぶのは大変な作業です。

ただ、「この作業が終われば新米を食べられる」と思うと、最後まで頑張ろうと気合いが入ります。

籾摺りの様子。画面中央が自動計測機。

今年の新米は落ち着いた味

籾摺りしたての玄米をその日のうちに精米し、すぐに白米でいただくのが我が家の定番。「今年の新米はどうだろう」と、ワクワクしながら炊きあがりを待ちます。

炊きあがったら、少し蒸らして炊飯器をオープン! 香ばしい香りとともに、白く輝くお米が姿を見せます。

私は、毎年この瞬間が楽しみでなりません。

今年の味はどうかな? 茶碗によそい、一口パクリ。

最初に感じたのは「……あれ? いつもより大人しい。」というものでした。いつもなら、新米は口の中での主張が激しいのです。味と香りが引き立っていて、口の中に瞬時に広がります。

しかし、今年の新米にはそれがありませんでした。どこか落ち着いていて、味・香りはいつもより控えめ。でも、噛めば噛むほど味が口の中いっぱいに広がり、じっくりと何かを訴えるような、そんな味です。

ふと、今年の厳しい気象条件のことを思い出し「粘り強い味だ」と感じました。

令和2年 岡山県産ヒノヒカリ

1年間の思い出は生産者にとっての調味料

去年と今年では、不思議なことに新米の味が違います。確かに、品質の差はあります。

今年は長雨・高温・害虫の3重苦で、いつもより品質が落ちていると、籾摺りの段階でわかりました。白濁米が多く、米としての「見た目」が悪かったのです。でも、味は例年のものに劣らずにおいしい。

では、何がおいしくさせているのか?

私は、1年間の作業で感じたうれしさや苦労が、よりお米の味を引き立たせているのではと思い至りました。

毎年、新米を食べるときは、その年の米作りを振り返ります。「今年はスムーズに作業が進んだ」とか、「今年は害虫にやられた」とか。酸いも甘いも、そんな思い出たちが、米のおいしさを倍増させてくれているのだと思ったのです

今年であれば、厳しい条件の中でも、最後まで、粘り強く育ってくれた。そんな「粘り強さ」を知っているからこそ、控えめで、落ち着いた、深みのある味を感じたのだと思います。

そして、私としては、今までで最も米作りに関わった時間が多い年でした。時間をかけて関わってきた分、思い出という名の調味料が、米の旨味をさらに引き立てたのでしょう。

作物を育てた思い出は、食べるときのおいしさを引き立てる──。

農家さんだけでなく、家庭菜園をされている方も、経験があるのではないでしょうか。

自分で手塩にかけて育てた作物は、この上なくおいしい。それは、作物を育てる中でのうれしかったことや苦労したことが、最高の調味料になっているからです。

「思い出は生産者にとっての調味料だ」と、今年の新米を食べて実感しました。


消費者にとっての調味料は生産者とのつながり

同じことを、消費者目線に置き換えて考えてみました。

以前のコラムでも触れましたが、自分の知っている人が作った作物は、おいしく感じられます。私の経験では、知り合いの桃農家さん・ブドウ農家さんの桃やブドウ、実家の祖母が育てた野菜は、不思議とおいしいのです。

また、先日知り合いの八百屋さんで野菜を購入しましたが、どの野菜もしっかりと味が乗っていて、普段スーパーで買う野菜と比べるととてもおいしく感じました。

それらの作物を、どうしておいしく感じたのか?

それは、食べるときに「生産・流通に関わった人の顔」が浮かんでくるからではないでしょうか。

「あの人が作った果物だから」

「あの人が選んだ野菜だから」

ただ食べるのではなく、作ってくれた人・届けてくれた人のことを思いながら食べる。その思いが、食材を引き立てる最高の調味料となっているのです。

今後農業を続けるうえで、品質はもちろんですが、作物とともに過ごす時間、そして顔の見える関係性を大切にしていこうと思いました。



さて、今回は新米をテーマに書かせていただきました。

現在、学生時代の友人・知人を中心に、ご注文いただいた方に新米を配達しています。次回はその様子をお届けできたらと思います!

出荷用のお米の一部。今後は直売を増やしたい。
【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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