兼業農家にはどんなスマート農業機器が必要か【藤本一志の就農コラム 第10回】

岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。


田植えが終わってから、田んぼでの作業は少しお休み。ひたすら水管理をする日々が続きます。

ただし、私は農地から離れた真庭市にいるので、水管理は祖父がしています。真庭市という遠隔地にいながら、田んぼの水管理ができないかを考える日々です。

そこで、今回のコラムでは、私なりに考えた兼業農家に必要なスマート農業機器について記そうと思います。


代車でやってきた田植え機の性能に驚く


そもそも私はスマート農業というものにあまり興味がありませんでした。

よく耳にしたのが、直進アシスト付きの田植え機や、自動運転のトラクターです。「便利そうだな」と思う反面、「値段が高い」「自分は運転できるから必要ない」と思っていました。

しかし、田植えの終盤で、スマート農業に興味をもつきっかけとなる出来事が……。

田植え機が壊れたのです。16年もの間使い続けている、使い慣れた田植え機が壊れてしまいました。現在生産されていないモデルなので、部品を取り換えて復活することも叶いません。

壊れてしまった田植え機。私の愛車でした。
急いで代車を手配してもらうと、翌日には代車がやってきました。

その代車の運転で、私は田植え機の進化を体感したのです!

それまで使っていた田植え機は、田んぼの端まで植えて旋回するときに、レバーを操作して田植え機後部の植え付けアームを上にあげて旋回します。そして、次の植え付けラインに田植え機を合わせて、再びレバー操作で植え付けアームを降ろして、植え付けを開始。レバー操作の際は、田植え機を停止、または低速運転に切り替えます。

この「旋回時の操作」は、慣れたら大したことはありませんが、地味に時間をとられます。田植えの中で、効率化したい作業の一つです。

ところが、代車の田植え機は、この旋回時の操作が省略されていました。

田んぼの端まで植えて、旋回しようとしてハンドルを回すと、植え付けアームが自動で上がります。そして、次の植え付けラインに田植え機を合わせると、自動で植え付けアームが降りてくれます。

これで、レバー操作と田植え機を停止させる必要がなくなり、作業スピードが上がりました。今まで体験したことのない機能を目の当たりにし、私は思わず楽しくなってしまいました。

まるで、子どもの頃に初めて遊園地のアトラクションを体験した時のような、そんな気分です。

それ以来、スマート農業に興味が出てきました。

今までは「GPS付き直進アシスト」のような「最先端」の機能しか知りませんでしたが、他にもたくさんの機能があると、代車の運転を通して気づけたからです。

そして、偶然にも、真庭市でスマート農業に取り組んでいる団体とつながることができました。


スマート農業実演会に行ってみた


真庭市でスマート農業に取り組んでいる団体は、「スマート農業実証プロジェクト」というプロジェクトの一環として、国や研究機関と連携しています。

「中山間地域である真庭市でも、スマート農業による効率的な経営が可能か」ということをテーマに、スマート農業に関するデータの収集や、スマート農業機器の実演などを行っています。

その取り組みの一環として、一般の農家向けに、スマート農業機器を紹介する実演会がありました。私はすぐに、その「スマート農業オープンラボ」に行ってみることにしました。

会場で紹介・実演されたのは、ラジコン草刈り機とGPS付きトラクター。ラジコン草刈り機は、クボタのARC-500。傾斜地でも稼働できるものです。草刈り機が通った後は、草が見事に刈られていました。

そして、スピードが非常に速い。人が刈る何倍もの速さで、草を刈ってくれます。また、傾斜地であろうと、きれいに草が刈れていました。

私は刈払い機で草刈りをするのが大好きなのですが、機械のスピードと正確性に思わず「欲しい! 」と思ってしまいました。傾斜のある法面の多い、中山間地域の稲作には非常に便利な機械です。

ラジコン草刈り機。すごいスピードで草を刈っていきました。
一方のGPS付きトラクターは、中に人が乗っていましたが、ハンドルを握っておらず、人が操作しなくてもまっすぐ進むということがアピールされていました。

残念ながら途中で大粒の雨が降り始め、試乗はできませんでしたが、スマート農業に触れるいい機会となりました。


水管理の季節


さて、わが家の田んぼは、田植えが終わって以降はずっと水を入れたり抜いたりしています。私は移住支援の仕事で真庭市にいるため、岡山市にある田んぼは祖父が面倒をみています。

水管理とは、田んぼの水位を調節することです。浅すぎる場合は給水、逆に深すぎる場合は排水します。

1枚1枚の田んぼを回り、各田んぼで給水栓の操作、または水門の操作を行います。

移動しながら田んぼを見て回らなくてはいけないので、これがかなり手間がかかるのです。田植えや稲刈りに比べて目立たない作業ですが、その年の米の生育・収量を左右する、非常に重要な作業です。

わが家でこの水管理を担当する祖父も高齢になってきました。いずれは私が引き継いでいかなくてはいけません。でも、真庭市で移住支援の仕事も続けたい。

そこで、水管理を遠隔地からできる方法はないか、模索し始めました。

企業のサイトで探す。実際に使っている農家さんを訪ねて話を聞く。

性能・価格・使用方法、製品によってさまざまです。そういった情報に触れる中で、興味が持てる製品をいくつか見つけました。

そして、私は「なぜ今までスマート農業に興味を持てなかったのか」ということに気づいたのです。


兼業農家に必要なスマート農業機器


私が今までスマート農業に興味を持てなかった理由、それは「自分の経営規模とかけ離れた性能の機械ばかり見ていたから」です。

私の農地面積は、わずか3haです。兼業農家として農業を営む分には、ちょうどいいくらいの面積です。

しかし、スマート農業の最先端を走る機械は、どれも「大規模専業農家」に向けて開発された製品です。当然、私のような兼業農家に見合うはずもありません。自分の目線より高いところばかり見ていれば、興味が持てないのは当然です。

おそらく、私のような兼業農家に必要なスマート農業機器は、「水管理」に関する機械ではないでしょうか。中山間地域で傾斜地の多い兼業農家さんだと、「ラジコン草刈り機」も必要かもしれません。

スマート農業に対応した田植え機やトラクター、コンバインといった大型機械は、基本的に運転手が1人の兼業農家には必要ないと思います。もちろん、農業法人などで複数のドライバーがいる場合は、ドライバーの腕に左右されないために、GPS付きの大型機械を導入する必要があるでしょう。

しかし、兼業農家の場合、それぞれの役割は決まっていることが多いのです。わが家では、ドライバーは私です。そのため、私が運転できるうちは、大型機械をスマート農業化する必要はありません。

それよりも、遠隔地からでも給水・排水ができる水管理機器や、傾斜地でも素早く刈れるラジコン草刈り機の方が、兼業農家には求められると思います。

離れていても水管理ができれば、例えば普段は都会で働き、農繁期になると実家を手伝いに帰っている方でも、都会にいながら田んぼの管理ができるようになります。

また、田んぼの畦畔や法面を「ラジコン感覚」で草刈りができれば、労力の削減だけでなく、ちょっとした楽しみになるかもしれません。今までは嫌々草刈りをしていたが、ラジコン草刈り機になってからは、草刈りが楽しくなったという人も出てくるでしょう。

そうして、少しでも「兼業農家向けの」スマート農業機器が開発されれば、実家の田んぼを継ぐ人が増えるのではないでしょうか。

農地の大規模集約は、確かに重要です。しかし、兼業という関わり方ができるのもまた、農業の魅力ではないでしょうか。

そんな多様な関わり方ができるように、田植えや稲刈りといった「目立つ」作業だけではなく、水管理や草刈りなどの「目立たない」作業にも、スマート農業は必要です。

10年後、20年後に、今ある「当たり前」の風景が変わらず残っているように。

金色の稲穂が揺れる季節が変わらずに訪れるように。

そして、多様な農業があふれているように。

「自分に必要なスマート農業とは? 」

来年、水管理のスマート農業化ができるよう、これからも勉強しようと思います。

7月下旬の田んぼの様子。すくすくと順調に育っていました。
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。