ドローン実演会への参加と新たな決意【藤本一志の就農コラム 第11回】

こんにちは。岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。


前回の記事では、農薬について、現段階での私の考えを書かせていただきました。その中で、「ドローン」についても少し触れました。

「憧れはあるけど、昔ながらの作業で見られる景色が見られなくなるのは寂しい」と。

こんなことを書いていたら、たまたまドローンの実演会に参加する機会をいただきました。

そこで今回は、ドローンの実演会に参加したときの様子と、参加したことで芽生えた思い・考えについて記していこうと思います。


実は興味があったドローン


実際のところ、ドローンには以前から興味を持っていました。

2020年の8月まで実際に農薬散布の作業をしたことがなかったので、「田んぼの中に入るより、ドローンでやったほうがラク」だと思っていたのです。

しかし、操縦には資格が必要なこと、資格取得と機体の購入に多額の費用がかかるといった理由から、積極的に「欲しい! 」とは思っていませんでした。

また、ドローンが飛行しているところを見たことがなかったということも大きな理由です。完全に頭の中のイメージだけで考えていました。

田んぼの中に入って行う「昔ながらの農薬散布」でも、体力的には余裕がありますし、今すぐにドローンを導入する必要はないと思っていました。

しかし、実際にドローンの実演会に行くと、私の考えは大きく変わることになります。

前回紹介したわが家の農薬散布。人が田んぼに入って散布する

想像を超えた農業用ドローンの性能


私の住んでいる岡山県真庭市では、中山間地域でもスマート農機を導入することで、経営的に持続可能な農業を実現しようとする動きがあり、その取り組みを定期的に一般の農業者に公開する「真庭スマート農業塾」という会が開催されています。

ちょうど第2回が9月の初旬にあり、テーマが「ドローンの紹介と実演」でした。噂に聞いていたドローンを生で見られると思い、私はワクワクしながら参加してみることにしました。


実演会の会場に着くと、大小2台の農業用ドローンがお出迎えしてくれました。

どちらも想像以上に大きい。これでどうやって農薬を散布するのだろう?

第一印象はそんな感じです。

近寄ってよく見てみると、中央に白いタンクが付いていて、タンクからプロペラの方向に向かって、黒いホースが伸びているのがわかります。

初めて見るドローンを興味津々にのぞき込んでいると、ついに実演会の時間に。ドローンの説明があった後、飛行に移ります。

まずは飛び立つ前に、タンクやホースの中に残っている農薬を取り除くため、放水を行います。

タンクの中を水で満たし、コントローラーを操作すると……先ほど見ていたホースから放水が始まりました。初めて見るその光景に、私は思わず感動してしまいました。

そして、放水が終わったらいよいよ飛行へ。

「上がります」というかけ声とともに、スッとドローンが空中に浮かびます。そして、田んぼの上空でプロペラを回転させながらピタッと止まりました。

「何か操作しているのかな」と思いきや、メーカーの方はコントローラーを操作している様子はありません。どうやら、コントローラーを操作していないときは、ドローンが勝手にホバリングするように設計されているようです。

「賢いなぁ」と感心していると、ドローンが動き始めました。50aある田んぼを、あっという間に端まで飛行。そして、横にずれて戻ってきます。

その時間、わずか40秒。人間が田んぼに入って作業するよりはるかに早いです。

なんと、1haをわずか10分で終わらせるスピードで、私の田んぼの規模なら30分で終了。人が田んぼに入るやり方だと、私の場合は1haに30分~1時間ほどかかっていました。

移動時間やバッテリーの充電を考慮しても、ドローンを使えば作業時間を大幅に減らせることは間違いないでしょう。また、スピーディに農薬を散布するため、散布量も人が行う場合に比べて減少します。使う農薬の量が減るため、薄めるのに必要な水も減らすことができるでしょう。

実際に使ってみないとわかりませんが、農薬の使用量を減らせる可能性が感じられました。

このような性能と圧倒的なスピードから、私はすっかりドローンの虜になってしまいました。

ホバリングしたあと、ドローンは田んぼの端まで一気に飛行した。

ポイントは「空いた時間で何をするか? 」


しかし、いざドローンを導入しようと思っても、多額の費用が必要となります。

農業用ヘリコプターに比べれば安いですが、安いものを購入しても資格取得の費用とあわせて100万円は必要でしょう。

今回紹介されたドローンは200万円だったので、ある程度の性能を求めるのであれば田植え機やトラクター並みの金額が必要です。

しかし、実演会の中で1つ、重要なことに気づきました。

それは、ドローンの資格を持つことで、空いた時間で作業の請負ができるということ。

私の田んぼの周りでは、農薬散布の作業をJAや大規模専業農家さんに依頼して、代わりにやってもらっている方がいます。今はラジコンヘリコプターで行っていますが、今後はラジヘリより価格が安く、コンパクトで持ち運びのしやすいドローンに変化していくでしょう。

しかし、ドローンの資格を持つ人はまだまだ少数。そして「20代の若手」というジャンルで見ると、さらに少ないと考えられます。

これは、チャンスです。

農薬散布という作業は、田植えや稲刈りといった作業に比べると地味で面倒な作業です。

田植えや稲刈りの時は、家族総出、または近所で助け合って作業するでしょう。しかし、農薬散布を田植えなどのようにみんなで行うことはありません。でも、稲を無事に生育させるという点において、非常に重要な作業です。農業の担い手が減っている今、農薬散布はどんどん外注化が進んでいくと考えられます。

私たち家族もそうですが、農家は先祖から受け継いできた土地を、簡単に手放すということはしません。農作業が負担になっても、できない作業から徐々に外注化していくのです。

農薬散布も、その一つとなっていくでしょう。

私がドローンの資格を取得して機体を購入すれば、作業の請負ができるようになります。作業をする代わりに報酬をいただくという、簡単なビジネスも成り立ちます。

ドローン導入によって空いた時間で、ほかの農家さんをサポートするのです。

今までは「ドローンを購入すること」が目的でした。しかし、実演会に参加したことで、「ドローンを使って空いた時間で何をするか? 」ということを考えるようになりました。

「購入するには○○円必要で」という考えから、「1ha=○○円で請負うと、〇〇haで回収できる」という、経営的な考えへと変化しました。


資格をとってほかの農家さんをサポートしたい

私の好きな、金色の稲穂。この風景を次世代につなげたい
経営的なことも大切ですが、私は、自分が稲作に取り組むことで、私の大好きな「金色(こんじき)の稲穂が揺れる風景」を次世代につなぎたいと思っています。

そのためには、自分の田んぼも大切ですが、地域の田んぼも大切にしなくてはいけません。しかし、今は技術も経験も乏しいため、自分の田んぼで精一杯。

とても、「地域のため」と言えるほどの器は持ち合わせていません。

それでも、将来的には地域農業の担い手の1人として、稲作に関わっていきたいと考えています。

ドローンは、その入り口なのかもしれません。

私がドローン操縦士になることで、ほかの農家さんの作業の一部を私がお手伝いする。

そうすることで、「面倒な作業は藤本がやってくれるから、田植えと稲刈りはがんばろう」と思ってもらえたらうれしいです。そうして、地域の農業が次世代につながっていけばいいなと思います。

風景をつなぐためにも、ドローン操縦士の資格を取得しようと決意したのでした。


【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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