都会と田舎での「二拠点生活」の実態【地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム 第5回】

岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。

6月に入り、1年で最も忙しい時期を迎えました。


二拠点生活をしている私は、2つの場所を行ったり来たりしています。

移住支援の仕事がある日は真庭市(メイン拠点)、農作業がある日は岡山市(サブ拠点)へ。毎週のように、岡山県を南北に、車で2時間弱の距離を走り回っています。

今回のコラムでは、実践者の一人としてこの生活のリアルな姿をお伝えしようと思います。

都会と田舎での二拠点生活を考えている方、興味がある方の参考になれば幸いです。


本格化する二拠点生活

「二拠点生活」とは、2カ所の地域に拠点を持って生活をすることをいいます。

平日は都会で仕事をして、休日は田舎で農業や趣味を楽しむといったライフスタイルが一般的です。私の場合は逆で、田舎(真庭市)で働きつつ都市近郊(岡山市)で農業をしています。

住居について


拠点については、真庭市では賃貸を、岡山市は実家を拠点にしています。そのため、居住にかかる費用は、今のところ真庭市の賃貸のみとなっています。

その賃貸は、学生時代より活動していた団体の拠点でもあるので、家財道具は元よりそろっていました。

二拠点居住をするとなると、拠点にかかる費用がネックになってきます。私も、当初はアパートを借りて住もうかと考えましたが、費用面を考えて断念しました。

学生団体の拠点であれば、OBであるため顔が利くこと、住居費が安いこと、学生側が管理人を欲していたことなど、双方の要望が一致し、住めることになりました。

仕事について


仕事の方は、移住支援・農業・ライターと3つを組み合わせてやりくりしています。

住居費が抑えられた分、2つの拠点間を移動しながら少しずつ貯金ができるほど、家計は充実しています。そして今までは、拠点間の移動は月に1、2回程度でしたが、6月に入り、毎週のように往復するようになりました。

6月は、岡山県南部の稲作農家にとっては農繁期です。5月に撒いた苗も立派に育ち、田んぼに水を入れて田植えをします。この田植えをするまでに、田んぼに肥料を鋤き込み、代掻きをするという工程があります。

そのため、田植え前になると空いている時間で農作業をする必要が出てくるのです。私の場合は、移住支援の仕事がない日は必ず、施肥や代掻きをするために農場のある岡山市へ向かいます。田植えが終わるまでは休みという休みがほとんどない、1年で最も忙しいシーズンを過ごすことになります。

トラクターを使っての施肥。農繁期で移住支援の仕事がない日は、岡山市(サブ拠点)での農作業に追われている

拠点間の移動について

拠点間の移動は車で2時間弱。遠いように思えるかもしれませんが、高速道路は使っておらず、慣れてしまえば「すぐに行ける」と思える程度の距離です。

実際に拠点間を移動する日はどのようなスケジュールで移動するのか、ご紹介しましょう。

拠点間の移動(真庭市→岡山市)は基本的に夜、移住支援の仕事が終わってから行います。そして、それまでに準備をしておくことがいくつかあります。

最も大切なのが、家の片づけです。片付けといっても、洗濯物や賞味期限の近い食材を使い切るといった、生活の基本的なことばかりです。これは、私の場合、農業をして帰ってくると、疲れてあまり動く気にならないためです。

以前、片づけをせずに岡山市へと移動し、農作業が終わってから真庭市に帰ると、疲れて動けないという日がありました。

その結果、洗濯物が溜まってしばらく洗濯に追われたり、食材を腐らせてしまったりということが……。この失敗以降、拠点間移動の際には事前に片づけをし、スムーズに真庭市の生活に戻れるよう、心がけています。

他にも日程調整やメイン拠点でしかできない仕事を片付けるなど、やることは盛りだくさん。それらをきちんと済ませてから移動しています。

移動日のスケジュールは、その日の移住支援の仕事が終わり次第、夜のうちに岡山市へ移動します。そして翌日の朝から、岡山市で農作業に励みます。農作業をするのは1~2日で、農作業が終わったら、真庭市に戻ります。この時の移動も夜に行っています。

朝に移動をしてもいいのですが、通勤ラッシュに巻き込まれてしまうことと、朝起きられるかという不安があるため、拠点間の移動は夜にしています。

真庭市では自給的に野菜を栽培中。今年の初収穫はナスでした。

二拠点生活に向いている人・向いていない人

実際に二拠点生活を送ってみると、向き・不向きのあるライフスタイルだと感じます。私なりに、こういった生活に向いている人・向いていない人を考察してみます。

まず、二拠点生活に向いている人は、以下のような人だと思います。

長距離移動が苦にならない人


二拠点生活には、当然長距離移動がつきもので、移動には時間と費用がかかります。私は一人旅が好きなこともあり、長距離移動は苦になりません。そのため、移動に対してある程度の時間と費用であれば特に気にならないのです。

私の場合は車移動ですが、鉄道やバスなどの公共交通機関を使うのも方法の一つです。公共交通機関を使うことのメリットは、移動時間を仕事や読書、睡眠に活用できるというところにあります。もし移動時間を気にされているなら、さまざまな移動手段をシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。

何事も前向きに楽しめる人


二拠点で生活するとなると忙しさは尋常ではなくなります。2つの場所で、それぞれ違う生活を送るわけですから、家の管理や近所付き合い、仕事など、やるべきことは山ほどあります。そのため、何事も楽しめる人に向いていると感じます。

私は3つの仕事をしながら、空いた時間で趣味や友人との交流を楽しんでいます。以前に比べて余暇は減りましたが、好きなことを仕事にしているため心にゆとりができたようで、何事も楽しめています。そのため、忙しさよりも、毎日が充実しているという実感の方が大きいです。

柔軟にスケジュール管理ができる人


3つ目のスケジュール管理ですが、二拠点生活で農業に取り組むとなると非常に重要となります。なぜなら、農業は天候に左右される仕事だから。天気が悪くなって、急に作業日程が変わるといったことはよくあります。

そのため、特に農繁期は作業日程がずれても、柔軟に対応できるような余裕のあるスケジュールを組む必要があります。

以上が、私が考える「二拠点生活に向いている人の特徴」です。反対に、向いていない人は、拠点間の移動が苦痛になる人、急なスケジュール変更などへの対応が苦手な人だと思います。

移動に関しては、車以外にもさまざまな方法があるので、自分に合った移動手段を探してみるとよいでしょう。また、スケジュール管理は、自分のペースに合った生活を送ることが重要だと感じます。

私の場合はスピード感のある生活が向いているため、忙しくても問題ありませんが、田舎ののんびりとした生活を味わいたいのであれば、余裕をもった生活ができるよう暮らしをデザインしていくことが重要だと思います。

草刈りは田舎のライフワーク。夏場は畑の草刈りに追われること必須。

二拠点生活は忙しいけど充実している

二拠点生活は、都市部で働きながらも自然や農業にふれあえる、魅力的なライフスタイルです。私はこのライフスタイルを知ってから、農業をしながら自分の好きな真庭市に関われる仕事ができると思い、その実現に向けて動いてきました。

不思議なもので、言い続けていたら、いつの間にか理想としていたライフスタイルが実現していました。忙しくもありますが、非常に充実した毎日を送っています。

もし、二拠点生活に興味があるならば、まずは気になる地域に通うことから始めてみてはいかがでしょうか。
【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。