農家にとって理想の通信販売サービスを考えてみた【藤本一志の就農コラム 第20回】

こんにちは。岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。

前回は、BASEでの通信販売サイトの開設をレポートしました。

実際にやってみて、BASEは手軽に始められて、小回りがきくことがメリットだと感じました。

さて、今回は他の農産物通信販売サービス、いわゆるネット直販サービスについても調べてみたので、その内容や考察をまとめようと思います。

ここ半年ほどは農閑期で、現場で作業することがほとんどありませんでしたが、そんな時期だからこそ今まで気になっていたことを一気に調べたりしながら、これまでにない有意義な農閑期を過ごしています。



今回調べたサービスは4つ

今回調べた通販サイトは次の5つです。


農家や漁師から直接産品を購入できるのはもちろん、占いなどの“体験”を販売しているサービスもあり、本当にさまざまな商品を取り扱っています。

産直のシステムが、そのままネット上にある感じですね。

また、農家・漁師とコミュニケーションがとれるサービスもあります。

農家「朝採れた野菜をすぐに配送しました。」
お客様「おいしかったです。ごちそうさまでした。」

このようなやりとりはもちろん、

農家「天候不順で生育が遅れているので、お届けが遅れそうです。大丈夫ですか?」
お客様「大丈夫ですよ。楽しみにしています。」

といった話を、チャット形式で行うことができます。

実は、私もいち消費者として「ポケマル」を利用していて、農家さん・漁師さんとコミュニケーションをとっています。どんな方が野菜を作っているのかがわかるとやはり安心できるので、いいサービスだと感じています。


それぞれの特徴を整理

それでは、実際に私が調べたそれぞれのサービスについて、整理した特徴をご紹介していきます。どれも農家から直送するサービスです。農家は作物を収穫後、袋詰め、発送手続きを行います。発送手続きの際に、サービスによっては送り先が書かれた伝票を発行してくれるものもあります。

“思い”をもった中小規模農家向け「ポケットマルシェ」


参考:株式会社ポケットマルシェ / Pocket Marche, Inc.
【特徴】
  • 生産者と消費者がコミュニケーションをとれる
  • 出品者登録には審査が必要
  • 登録料、基本使用料、振込手数料:無料
  • 販売手数料:売上額の15%
  • 1配送につき87円(税別)追加で支払うことで、伝票を発行してくれる
  • ヤマト運輸と提携しているため、送料が少しお得

調べていくなかで1番気になったのが、審査が必要であるという点です。

要項には「自身が農業・漁業に従事している証明」とありました。

この証明に関してはまったく知識がないので、登録するとすれば、勉強できるいい機会になりそうです。わが家の場合は祖父が経営者として登録されているので、今度見せてもらおうと思います。

また、中小規模の農家でも出品しやすいような仕様だと思いました。

1日あたりの在庫数の設定や、新規注文の受付を停止する機能など、自身の生産規模に合わせた運用が可能だからです。実際、ポケマル利用者の中で、年間売上規模が500万円未満の農家・漁師の数は登録生産者のおよそ半分です。

また、ポケットマルシェ代表の高橋博之氏の記事「なぜポケットマルシェを始めたのか」からも、ポケマルが規模や数量よりも、生産者の思いを大切にしていると感じることができます。14年間生産現場を歩き続けてきた、高橋氏ならではの考えだと思います。

ポケマルは、書類のことがわかればすぐにでも出品できると思います。

こだわりの強い農家向け「食べチョク」


参考:食べチョク|農家・漁師の産直ネット通販 - 旬の食材を生産者直送
【特徴】
  • 認知度・お客様利用率・SNSフォロワー数が日本の産直ECサイトの中でNo.1
  • 生産者と消費者でコミュニケーションがとれる
  • 出品者登録には審査が必要
  • 複数の農家でグループ出品ができる
  • 登録料、基本使用料、振込手数料:無料
  • 販売手数料:販売価格の20%
  • 1配送につき76円(税込)追加で支払うことで、伝票を発行してくれる
  • ヤマト運輸と提携しているため、送料は少しお得

全体的な内容はポケマルと似ていますが、食べチョクはポケマルよりも“こだわりの強い”農家向けのサービスという印象を受けました。

これは、農作物の出品基準として「農薬や化学肥料の使用を削減または管理」とあるからです。

また、出品している農家さんを見ても、“がっつり”取り組まれている方が多い印象でした。

兼業で、2拠点生活の私には少しハードルが高いと感じました。

利用料金が高いが解析機能が魅力「ツクツク!!」


参考:ツクツク!! | モノ・コト・ゴチソウ・オメカシの「おすそわけマーケットプレイス」
【特徴】
  • 食べ物以外の商品も販売している
  • 初期費用:33,800円(税込)、月額使用料:8,800円~(税込)、振込手数料:550円(税込)
  • 送料は通常通り
  • メルマガ配信やマーケティングデータ解析ができる

知り合いの農家さんで使っている方がいるので調べてみました。

しかし、調べてみると、初期費用と固定費が想像よりも大きくて驚いてしまいました。

初期費用は3万円、固定費も月1万円程度となると、兼業農家が使っていくには厳しそうです。

購入者の属性を調べることができるデータ解析機能はうまく使えば強いと思いましたが、ある程度の認知度がある方でなければ効果は薄いように感じました。

手軽に使える農産物販売のためのスマホアプリ「OWL」


参考:【公式】産直アウル(OWL)|生産者の応援にも繋がる新鮮食材の産直宅配通販サイト
【特徴】
  • スマホアプリ
  • 生産者と消費者でコミュニケーションがとれる
  • 審査不要
  • 登録料、基本使用料、振込手数料:無料
  • 販売手数料:売上金の10%
  • 送料は通常通り
  • 自動伝票発行サービスあり

農家向けのサービスの中では一番手軽に始められると思いました。

手数料が安く、注文が入ると伝票も発行してくれますし、登録には審査も不要なので、出品したい方は誰でも登録するだけです。

しかし、ポケマルや食べチョクと違って、販売・購入にはアプリをダウンロードする必要があります。販売ターゲットが「OWLアプリを利用している方」に絞られることは、農家にとって大きなデメリットといえるかもしれません。

実際にOWLを使っているという声も身近では聞かないので、私が選ぶ確率は低めです。

リクエスト方式がおもしろい「ゴヒイキ」


参考:【ゴヒイキ】農家直送!旬な野菜・果物のネット通販リクエスト宅配
【特徴】
  • リクエスト方式で販売:ほしい金額に見合った量を購入できる
  • リクエスト方式によっては、無名でも注文が入る可能性がある
  • 販売手数料:200円
  • 送料は通常通り

農家向けというよりは、消費者向けのサービスだと感じました。それは農家が決まった量を出品するのではなく、消費者からの注文に合わせた量を準備する必要があるからです。

しかし、小規模兼業農家だと小回りのきいた対応がとれそうなので、検討する価値はありそうです。

なにより、リクエスト方式という発想がおもしろいです。


小規模兼業農家が挑戦しやすそうなのは……

さて、いろいろと特徴を見ていきましたが、BASEも含めて手数料などをまとめると以下の通りです。


整理してみると、小規模兼業農家にはBASEとポケマルが合いそうだと思いました。

BASEのメリットは手数料が安いこと、在庫管理や不特定多数に見られにくいといった、小回りのきいた運用ができることです。他のECサイトだと、まったく知らない人に見られることもあります。しかしBASEは、サイトのURLを知っていないと、まず検索されることはありません。だから私のように「まずは知り合いの範囲から始めたい」という方にはぴったりだと思います。

伝票の発行は自分でする必要がありますが、今のところ苦にならないので、あまり気にしていません。

ポケマルは審査が必要なものの、伝票発行サービスがあること、食べチョクと比べると手数料が安く審査がやさしい点が始めやすいなと思いました。

また、農業に対する思いを表現できる点も、いいと思った理由です。

私がこのコラムで綴っているような思いや農業に対するこだわりを、商品紹介ページや自己紹介ページに書くことができるのです。ただ作物を売るのではなく、そこに思いを載せられるので、より安心して消費者に食べていただけるのではと感じました。

小規模兼業農家向けに、おすすめランキングも作ってみました。

  1. BASE
  2. ポケマル
  3. OWL
  4. 食べチョク
  5. ゴヒイキ
  6. ツクツク!!

私は慣行農法なのでこのようなランキングになりましたが、農薬や化学肥料を削減されている方ですと、食べチョクが上位にくるかもしれませんね。


2021年はBASEをメインに、ポケマルは余裕があれば申請する


2回にわたって、通信販売サービスについて調べてみました。とりあえず、2021年はBASEをメインに使っていこうと思います。

ポケマルも使ってみたいのですが、まずは「農業に従事している書類」とは何か、明らかにしてから考えることにします。5月中旬からは農繁期で実家との行き来も増えるので、その時に祖父に聞いてみようと思います。

まずは5月10日前後の塩水選。それから播種、施肥と続いていきます。

今年もやっと米作りが始まります!!


株式会社ポケットマルシェ / Pocket Marche, Inc.
https://www.pocket-marche.com/
食べチョク|農家・漁師の産直ネット通販 - 旬の食材を生産者直送
https://www.tabechoku.com/
ツクツク!! | モノ・コト・ゴチソウ・オメカシの「おすそわけマーケットプレイス」
https://home.tsuku2.jp/
【公式】産直アウル(OWL)|生産者の応援にも繋がる新鮮食材の産直宅配通販サイト
https://owl-food.com/
【ゴヒイキ】農家直送!旬な野菜・果物のネット通販リクエスト宅配
https://gohiiki.com/

【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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