スマート農業の本質は経営をスマートに考えること【生産者目線でスマート農業を考える 第27回】
こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。
政府が推進しているスマート農業実証プロジェクトは2019年度から開始され、2022年度まで全国約200地区で行われてきました。また、このプロジェクトと並行して、都道府県独自のプロジェクトが実施されています。
ここ数年、全国でスマート農業関係のプロジェクトが数多く実証されてきたため、生産者にスマート農業が広く認知されてきました。
筆者が訪問した福井県や三重県などでも、普通作物を中心に自動操舵トラクターやドローンによる農薬散布のように、従来の技術に比べて効果がわかりやすい技術は急速に普及しています。
一方、高価格なスマート農機がフルセットで導入され、過剰投資になってしまった場合には、経営的にマイナスになるとの課題も指摘されています。
また、最近スマート農業論議が盛んですが、スマート農業という言葉が持つ意味について「農業機械化である」とか、「データを活用した農業である」といった、部分的な議論が行われていないでしょうか?
筆者はスマート農業の本質は、経営のあり方を徹底的に考え、スマート農業が必要なら導入する、つまり経営をスマートに考えることであると考えています。それを裏付けるような兵庫県三木市の集落営農組織の現場を見聞しましたので、ご紹介します。
兵庫県三木市にある殿畑営農組合は、1996年(平成8年)3月に設立されました。組合員は全戸二種兼農家で28戸、経営面積は計25haです。
経営作目は山田錦:19ha(湛水直播が15ha)、黒大豆:6ha(枝豆「ひかり姫」が1ha)です。導入されたスマート農機は、直進アシスト付多目的田植機(8条)、直進アシスト付35PSトラクターと、直進アシストを備えた2台だけとシンプルです。ロボットトラクターではなく、自動運転機能もありません。
組合長の山﨑広治さんは「スマート農機を導入する際には先進地視察をしたり、兵庫県加東農林振興事務所に問い合わせ情報収集しました。また、スマート農機を導入した場合の経営シミュレーションを行うなど、組合員内で徹底的に議論しました。その上で、補助事業を活用して投資負担を減らし、2台のスマート農機を導入することを決めました」と語ります。
補助事業とは、令和2年度の国の「次世代につなぐ営農体系確立支援事業」と、令和令和3年度水田麦・大豆生産向上事業です。
「うちの組合のメンバーは、全員農業外の仕事を持っています。必ずしも熟練者ばかりではないので、耕うん作業や直播作業を誰でもできるようにすることを優先しました」と、直進アシスト機能の農機を導入した理由を山﨑組合長は説明します。また、現時点では、営農履歴を記帳するようなシステムは導入されていないそうです。
スマート農機の効果はたちまち現れました。農業経験の浅い、若い兼業者が仕事のない土日に自らトラクターや直播機を使うことができるようになったのです。初心者を含め、誰でもラクに耕うんや直播作業ができれば、将来にわたって多様な担い手がこの組合を持続できることになります。
この実証試験には、兵庫県立農林水産技術総合センターをはじめ県の研究機関なども大きく関与しており、行政の支援も重要のようです。
殿畑営農組合では5月にドローンによる肥料散布のデモが行われ、若い女性がドローンを操作し、数分で肥料散布が終了したと聞いています。その時、山﨑組合長は「肥料散布に大変な労力をかけている従来型の農業ではなく、これが新しい農業の姿だ」と確信されたそうです。
通常、このようなスマート農業のプロジェクトを自治体や組合と協調して進めるには、関係者と調整を取りながら、リーダーシップをとる普及指導員の役割が重要です。山﨑組合長自身、兵庫県庁の課長も歴任され普及指導員も経験されています。
今回の事例以外の国や県などが推進するスマート農業のプロジェクトでも、普及指導員や営農指導員がこの役割を担うことになると期待されています。この場合、スマート農業の技術についての知識や理解より、コミュニケーション能力が重要になりますが、現実はこの点が軽視される傾向があると筆者は感じています。
東京農工大学の澁澤栄先生がかねてより「スマート農業はテクノロジーでなくマネジメントである」と主張されていますが、スマート農業導入を含めた経営計画の設計や調整などマネジメントを重視した殿畑営農組合の事例はまさにその実践例であると思います。
最近、盛んに言われるデータを活用したスマート農業も、どんなデータを収集するか、そのためにセンサーなどどのようなスマート機器が必要か、徹底的に検証することが重要になるのではないでしょうか?
しかし、データを活用した農業の議論は、生産者の記帳やセンサーによるデータ取得が前提となっていることが多いのです。データ収集が、効率化や将来のために今本当に必要かどうかが不明確で、農繁期などの多忙な時期に負担がかかる場合、生産者特に小規模農家や高齢者は嫌がります。
殿畑営農組合では、前述の通り記帳用アプリを入れていませんが、表計算ソフトを使いスマート農機の導入を含めて、今後の経営のシミュレーションを行っています。データ活用の農業の優良事例だと思います。
兵庫県は県独自のスマート農業プロジェクトを進めており、山﨑組合長のスマート農業への考え方が兵庫県内に広まることが期待されます。
このように、スマート農業導入前に経営のあり方を徹底的に検証するというスマート農業の導入手法が普及し、スマート農業など革新技術が各地域で活用されれば、新しい形の農業が今以上に広く全国に展開できるのではないでしょうか?
政府が推進しているスマート農業実証プロジェクトは2019年度から開始され、2022年度まで全国約200地区で行われてきました。また、このプロジェクトと並行して、都道府県独自のプロジェクトが実施されています。
ここ数年、全国でスマート農業関係のプロジェクトが数多く実証されてきたため、生産者にスマート農業が広く認知されてきました。
筆者が訪問した福井県や三重県などでも、普通作物を中心に自動操舵トラクターやドローンによる農薬散布のように、従来の技術に比べて効果がわかりやすい技術は急速に普及しています。
一方、高価格なスマート農機がフルセットで導入され、過剰投資になってしまった場合には、経営的にマイナスになるとの課題も指摘されています。
また、最近スマート農業論議が盛んですが、スマート農業という言葉が持つ意味について「農業機械化である」とか、「データを活用した農業である」といった、部分的な議論が行われていないでしょうか?
筆者はスマート農業の本質は、経営のあり方を徹底的に考え、スマート農業が必要なら導入する、つまり経営をスマートに考えることであると考えています。それを裏付けるような兵庫県三木市の集落営農組織の現場を見聞しましたので、ご紹介します。
今回の事例:兵庫県三木市の集落営農組織によるスマート農機導入における営農戦略
兵庫県三木市にある殿畑営農組合は、1996年(平成8年)3月に設立されました。組合員は全戸二種兼農家で28戸、経営面積は計25haです。
経営作目は山田錦:19ha(湛水直播が15ha)、黒大豆:6ha(枝豆「ひかり姫」が1ha)です。導入されたスマート農機は、直進アシスト付多目的田植機(8条)、直進アシスト付35PSトラクターと、直進アシストを備えた2台だけとシンプルです。ロボットトラクターではなく、自動運転機能もありません。
組合長の山﨑広治さんは「スマート農機を導入する際には先進地視察をしたり、兵庫県加東農林振興事務所に問い合わせ情報収集しました。また、スマート農機を導入した場合の経営シミュレーションを行うなど、組合員内で徹底的に議論しました。その上で、補助事業を活用して投資負担を減らし、2台のスマート農機を導入することを決めました」と語ります。
補助事業とは、令和2年度の国の「次世代につなぐ営農体系確立支援事業」と、令和令和3年度水田麦・大豆生産向上事業です。
「うちの組合のメンバーは、全員農業外の仕事を持っています。必ずしも熟練者ばかりではないので、耕うん作業や直播作業を誰でもできるようにすることを優先しました」と、直進アシスト機能の農機を導入した理由を山﨑組合長は説明します。また、現時点では、営農履歴を記帳するようなシステムは導入されていないそうです。
スマート農機の効果はたちまち現れました。農業経験の浅い、若い兼業者が仕事のない土日に自らトラクターや直播機を使うことができるようになったのです。初心者を含め、誰でもラクに耕うんや直播作業ができれば、将来にわたって多様な担い手がこの組合を持続できることになります。
この実証試験には、兵庫県立農林水産技術総合センターをはじめ県の研究機関なども大きく関与しており、行政の支援も重要のようです。
「多機能な機械ありき」から「実効性ありき」のスマート農業へ
殿畑営農組合では5月にドローンによる肥料散布のデモが行われ、若い女性がドローンを操作し、数分で肥料散布が終了したと聞いています。その時、山﨑組合長は「肥料散布に大変な労力をかけている従来型の農業ではなく、これが新しい農業の姿だ」と確信されたそうです。
通常、このようなスマート農業のプロジェクトを自治体や組合と協調して進めるには、関係者と調整を取りながら、リーダーシップをとる普及指導員の役割が重要です。山﨑組合長自身、兵庫県庁の課長も歴任され普及指導員も経験されています。
今回の事例以外の国や県などが推進するスマート農業のプロジェクトでも、普及指導員や営農指導員がこの役割を担うことになると期待されています。この場合、スマート農業の技術についての知識や理解より、コミュニケーション能力が重要になりますが、現実はこの点が軽視される傾向があると筆者は感じています。
東京農工大学の澁澤栄先生がかねてより「スマート農業はテクノロジーでなくマネジメントである」と主張されていますが、スマート農業導入を含めた経営計画の設計や調整などマネジメントを重視した殿畑営農組合の事例はまさにその実践例であると思います。
最近、盛んに言われるデータを活用したスマート農業も、どんなデータを収集するか、そのためにセンサーなどどのようなスマート機器が必要か、徹底的に検証することが重要になるのではないでしょうか?
しかし、データを活用した農業の議論は、生産者の記帳やセンサーによるデータ取得が前提となっていることが多いのです。データ収集が、効率化や将来のために今本当に必要かどうかが不明確で、農繁期などの多忙な時期に負担がかかる場合、生産者特に小規模農家や高齢者は嫌がります。
殿畑営農組合では、前述の通り記帳用アプリを入れていませんが、表計算ソフトを使いスマート農機の導入を含めて、今後の経営のシミュレーションを行っています。データ活用の農業の優良事例だと思います。
兵庫県は県独自のスマート農業プロジェクトを進めており、山﨑組合長のスマート農業への考え方が兵庫県内に広まることが期待されます。
このように、スマート農業導入前に経営のあり方を徹底的に検証するというスマート農業の導入手法が普及し、スマート農業など革新技術が各地域で活用されれば、新しい形の農業が今以上に広く全国に展開できるのではないでしょうか?
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