農産物ECでの花き輸送中の課題がデータロガーで明らかに!【生産者目線でスマート農業を考える 第14回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は「ブドウ農園でのセンサー+自動換気装置に加えて必要な“ヒトの力”」と題して、スマート農業には、機器だけでなく、生産者や普及指導員などとの情報交換による改善が重要であることを紹介させていただきました。

最近、スマート農業の事例を見聞させていただいていますが、全般的に生産面に偏っているような気がしています。

そこで、今回は、物流や商流までも含めた取り組みとして農産物のEC(電子商取引)が盛んになっていることから、栃木県宇都宮市のユリ生産法人で、データロガーを使ったユリのトレーサビリティデータを分析する実証実験についてご紹介します。

今回の事例:栃木県宇都宮市のユリの輸送状況のデータロガーによる分析事例


栃木県は首都圏に位置する地理的優位性と冬場の日照量が多い気候条件から、収益性の高い花きの生産振興を進めており、なかでもユリは近年作付けの増えている品目の1つです。需要面では、コロナ禍において葬儀や結婚式といった業務用が激減している一方で、ステイホーム等により廉価な家庭内需要用が伸びるといった変化が起きています。

また、コロナ禍においては、できるだけ人手を介さずに生産コストを削減し、安価な輸入品に対抗することが求められていました。

そこで、国内トップクラスの生産本数を誇るユリ生産農家である、有限会社エフ・エフ・ヒライデ代表取締役の平出賢司さん(栃木県農業士)はこれらの課題を解決するために、令和3年「スマート農業実証プロジェクト」に応募し、提案内容が評価されて採択されました。

有限会社エフ・エフ・ヒライデのほか、株式会社farmo、株式会社イーエムアイ・ラボ、株式会社ノーザンシステムサービス、株式会社ビビッドガーデン、栃木県農政部経営技術課、栃木県河内農業振興事務所、栃木県農業試験場、宇都宮市役所農業企画課・農林生産流通課、税理士法人アミック&パートナーズ 栃木、および弊社がこのプロジェクトのコンソーシアムメンバーになっています。

主に取り組んでいるのは、以下の4つのスマート技術です。

  1. AI搭載の門型防除用走行ロボットによる自動予察と薬剤散布
  2. 施設園芸用環境計測装置ファーモによるモニタリングとデータのシェアリング
  3. 営農・労務管理ソフト「AGRIOS」による作業効率化
  4. 産直ECの導入とロガーを使った出荷情報トレーサビリティシステム

実証圃ハウス(筆者撮影)
有限会社エフ・エフ・ヒライデの平出賢司さんと奥様の平出美樹さん(エフ・エフ・ヒライデ提供)

今回は、このうち、(4)の産直ECの導入とデータロガー活用を紹介します。

エフ・エフ・ヒライデは、販売に関して、これまでは市場出荷が中心でしたが、コロナ禍にあって、最近では個人宅への直接販売を強化しています。

しかしこの1年、EC販売が伸びていく中で、業務用の配送とは異なる、配送中のユリの温度変化、落下などの事故、顧客の受け取り後の管理など、出荷後の商品劣化のリスクが顕在化しているそうです。

そこで、試験的に株式会社ビビッドガーデンの産直通販サイト「食べチョク」を使い、温度、湿度、照度、重加速度を記録可能なデータロガーを導入して商品に同梱。配送中のデータをモニタリングし、産直ECの有効性とトレーサビリティの課題解決の実証を行っています。

平出賢司さん(筆者撮影)

発送1件ごとにロガーを使って加速度、温湿度変化などをチェック


実証試験に使われるデータロガー(筆者撮影)
データロガーは、10㎝×5㎝×3㎝ほどで、タバコの箱より少し大きい程度です。これをユリの商品を収める箱内に固定・発送し、商品到着後、消費者に返送してもらい、取得日、取得時刻、温度、湿度、照度、加速度(運搬中の衝撃の度合いが分かる)のデータを取りました。

花束にロガーを設置している様子(平出賢司氏提供)
下のデータは、栃木県宇都宮市のエフ・エフ・ヒライデから、6月下旬、東京都内のある消費者に、ロガーを試験的に送った時のものです。

取得したデータはエクセルで、図は、その一部になります。


温度・湿度は輸送時にユリが梱包された箱の中の温度のことで、ユリが届くまでの鮮度に関わります。照度は箱の中の光の量ですが、梱包前と梱包後のデータのため、特に気にする必要はありません。

ただし、移送時の箱への衝撃や走行時の箱の揺れなどを示す加速度のデータから、想像以上に衝撃を受けていることが分かりました。

加速度のX、Y、Z方向について(「忍の里」提供)
加速度の計測方向は上図のように、ロガー本体の前後方向がX軸、左右方向がY軸、上下方向がZ軸になります。なお、各軸の+方向は上図の通りです。

エクセルの表から加速度のみを抽出して、グラフ化したのが、下の図になります。

データロガーの加速度変化(平出賢司氏提供)
平出さんによると、通常、宇都宮の営業所で荷受け(発送当日) → 鹿沼のセンターで積み替え(当日夜間10時前後) → 東京のセンター(翌日) → 東京の営業所 → ドライバー持ちだして配送のルートだそうです。

これによって、以下のことが分かったそうです(平出賢司さん談)。

  • 運送中に相当する時間帯は、加速度変化の多い6月28日15時~6月29日17時頃までと類推できる。
  • 加速度値の大きい6月28日 22時37分13秒の時は、鹿沼センターでの積み替えの時間に相当する(類推)ため、放り投げ、落下などがあったことが類推できる。
  • 配達のためドライバーの持ち出した6月29日の午後の時間帯の加速度変化が大きい。
  • 加速度の値がほぼ平らになった時間帯は、観賞の場所に置いてある状態
  • 加速度の大きい部分が=商品事故に繋がる可能性の大きいターム(期間)になる。

これらのデータをもとに、品種や季節ごとに適した鑑賞方法の提案や手入れの方法などを提案し、顧客満足度の向上に繋げることを目標にしています。

課題と今後の方向


今回の実証試験では、ロガーを30個ほど用意し、常連の消費者に協力してもらい、データロガーの返送を依頼しています。データ取りは今後も繰り返し行う予定です。

温度、湿度、重加速度を記録可能なデータロガーのコストは1個約2万円と、実証用のため、比較的高価です。しかし、今後量産されるとさらに安価になり、他の農産物でも手軽に実験できるようになると思います。

「今まで稀にですが、ユリが輸送中、花がダメージを受けるなどのトラブルがありました。クレーム処理の証拠としては難しいかもしれませんが、衝撃の起きるタイミングと強さのデータを集めることで、事故を防ぐ梱包の開発などに繋げることができると思います。

また、鑑賞時のデータを解析することで、鑑賞する場所の環境と日持ちの相関を知見として集積、消費者への提案に生かす(日持ちの明知化)ことで満足度を上げることができるのではないかと思います」と平出賢司さんはデータロガーの活用方法について期待しています。

今後さらなる実証が必要ですが、「この結果をもとに、運送会社の関係者に取り扱いの仕方を徹底することができます。また、消費者に正しい管理方法を伝え、ユリ鑑賞をより長い時間、楽しんで欲しいと思っています」と平出賢司さん。

農林水産省は2025年までにすべての担い手がデジタル技術を導入することを目標にしています。従来、生産面のデジタル化が中心で、販売面は遅れている感がありました。

コロナ禍をきっかけに農産物のEC販売が増加しているなか、ユリ以外の農産物でも消費者に対するきめ細かなサポートは欠かせません。

今後の農業経営では、このような事例のように、販売面を含めたデジタル化を進め、経営戦略に生かすことが求められています。

本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(課題番号:花3C1リ、実証課題名:ポストコロナに対応した切り花のスマート農業技術生産および商流による「スマートリリー」ビジネスモデルの実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。

有限会社エフ・エフ・ヒライデ
https://www.ffhiraide.net/
株式会社ビビッドガーデン
https://vivid-garden.co.jp/
食べチョク
https://www.tabechoku.com/

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
AI・IOTでDXを推進する企画・セールス・エンジニア大募集