生産者にとって本当に役立つ自動灌水、自動換気・遮光システムとは【生産者目線でスマート農業を考える 第18回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

今年の7月にSMART AGRIの「ニュース」として取り上げられていた「ひろしま型スマート農業プロジェクト」の実証現場に行く機会がありました。苗箱(seed box)で種が発芽する様子を県内のスマート農業の拡大になぞらえて、「ひろしまseed box」という愛称で呼ばれています。

広島県では、県内で広く導入が見込めるスマート農業として、「ほうれんそうおよびこまつなの栽培から販売までの効率的な一貫体系の構築」「カット用青ねぎの露地栽培における効率的な一貫体系の構築」「ぶどうの大規模栽培の実現に向けた効率的な作業体系の構築」という3つの実証プロジェクトが進行しています。

その中でも印象的だった、「ほうれんそうおよびこまつなの栽培から販売までの効率的な一貫体系の構築」プロジェクトについてご紹介したいと思います。


今回の事例:広島県安芸太田町の施設栽培における自動灌水&換気・遮光システム


10月中旬、私が広島県でお会いしたのは、ひでファーム(山県郡安芸太田町)代表の渡部正秀さんです。15棟計28a(借地)のハウスで、コマツナ(8割)、ミズナ(1.5割)、シロナ(0.5割)を栽培しています。

第一印象は「若く物静かな方」でしたが、圃場に行って説明を始めると印象は一転。ご自分の農場運営や野菜の生育方法について常に考えており、その思いを熱心に語ってくれました。

渡部さんは、広島県西部農業技術指導所から推薦されてこの広島県のスマート農業プロジェクトに参加されました。(公財)広島市農林水産振興センターで1年間農業の研修をしてから就農され、今年で5年目です。

普段から日常的に営農支援アプリ「アグリノート」を使っていたことが普及指導員さんの目に留まったようですが、「就農後、西部農業技術指導所の指導員にお世話になり、取り組みたいと思っていたスマート農業に声がかかったので大変うれしく思っています」とも語っています。

ひでファーム代表・渡部正秀さん

ひでファームのハウス群

ハウス作業の自動化により作業効率アップ


ひでファームでは、2021年8月から自動灌水システムと自動換気・遮光システムを導入しました。自動灌水システムは生産者が設定した時間になると自動で灌水し、自動換気・遮光システムはセンサーによって自動に作動します。「導入してまだ4か月ほどしか経っていませんが、今まで人力で行っていた作業が減り、時間も有意義に使えてとても楽になった」とその効果を強く実感されています。

ひでファームに導入された自動灌水システムと自動換気・遮光システムは、株式会社ニッポーのシステムを中心に構成されています。

(1) 自動灌水システム

今まで渡部さんは、ハウス内の灌水を散水パイプにより手動で行っていました。そのため、自身に水がかからないよう傘をさしながら、パイプの開閉レバーを操作していたそうです。

手動の灌水レバー(上)と電磁弁(下)

灌水装置

「一番の問題は早朝、コマツナなどの収穫と灌水時間が一緒になり、他の作業ができなかったことです」と渡部さん。

そんな悩みを解決すべく、今回のプロジェクトで導入したのは、日射比例式灌水コントローラー、通称「潅水NAVI」に自動換気機能を付けた実証用の機器。1つのシステムで最大8棟まで操作可能。連結すると16,24棟など拡張も可能です。日射センサーで測定した積算日射量に応じて自動で灌水を行います。

システム構成(株式会社ニッポー提供)

本体の設定はすべて制御盤のタッチキー(押しボタン式)かツマミを回して調節する手動式ですが、操作方法は覚えやすく誰でも簡単に操作でき、“現場での使い勝手を考えた設計”になっているのが特徴です。システムの設定値は、普及指導員の助言などで調整していきます。

また、自動灌水はシンプルなタイマー方式ですが、予約時刻、実施時刻を時計表示で知ることができるため、予約と履歴が一目で確認できます。(株式会社ニッポーのホームページより)。

なお、本年はタイマー潅水機能のみ使用していますが、次年度以降は日射量の強弱に沿って潅水の自動調節を行う予定です。併せて日射量の制御を「飽差」で補正する機能も検証します。

自動灌水システムと自動灌水システムの制御盤など

ニッポー社の木製センサーボックス

センサーボックスの内部は水が入っており灌水補正に用いる

(2) 自動換気・遮光、自動遮光システム

もう一つ、渡部さんが高く評価しているのが、ハウスの自動換気・遮光システムです。ハウスサイドを自動で開閉させることにより換気を行いますが、季節に応じて同じ動作で自動遮光の機能も兼ねています。

「遮光をするのは夏場だけで、夏場はずっとサイドは開けっ放しなので、自動換気装置の必要はありません。そのため、夏場はサイドの開閉モーターを遮光用のモーターに切り替え、自動換気の機能(サイドの開け閉めの動作の指示)ではなく自動遮光として活用します」と広島県農林水産局農業経営発展課 スマート農業推進担当主査の児玉浩さんは解説してくださいました。

「従来手動で行っていた換気と遮光が、センサーにより自動になったので、大きな労力軽減になりました。特に、夏場の遮光作業はグッと楽になりました」と渡部さんは高く評価しています。

自動巻き上げ装置

自動遮光装置

広島県内の生産者、メーカー、統括者によりコロナ禍でも実証を継続


このプロジェクトは、広島県農林水産局農業経営発展課が管轄し、普及組織である広島県西部農業技術指導所がサポートしていますが、実証に関わる各企業を一つにまとめ上げる“インテグレーター”を県内の企業である三栄産業株式会社が行っている点も特徴的です。メインプレーヤーが広島県内に存在していることで、コロナ禍でも問題なくプロジェクトを進めることができているわけです。

実証圃のある安芸太田町

三栄産業株式会社 みんなの情報システム部部長 沖川淳さんは「私たち三栄産業株式会社のスタッフも毎週圃場に通っていますが、広島県西部農業技術指導所の普及指導員さんたちも週1度は現場に来て、アドバイスしてくださるので大変助かっています」と、自治体の手厚いサポート体制の重要性も語っています。

一方で、生産者は渡部さんと「合同会社穴ファームOKI」が参画し、複数の生産者で実証しています。代表の沖貴雄さんは就農7年目で、ほうれんそうを栽培。ほ場の工事の関係から、渡部さんからやや遅れて、2021年11月中旬から自動換気システムを導入されました。自動潅水システムは工事が終了次第導入される予定です。

合同会社穴ファームOKIの代表・沖貴雄さん

補助金なしで導入コストを回収できる「経営モデル」を目指す


2021年の実証について渡部さんは、「灌水は自分で設定でき、換気・遮光はセンサーによって適切な時間に自動で行います。1日1~2時間の省力効果があり、早く帰宅できるようになりました」と早くもその成果を実感していると言います。

ただし、大きな課題も。非常に便利なシステムですが、そのぶん導入コストが問題のようです。

現在は県から100%経費が出ますが、自費でこのシステムを導入した場合、「灌水NAVI」の導入コストは約26万円、電磁弁や換気用モーター、駆動盤などの周辺機材や工事費を入れると10a当りで約100万円。ニッポーの技術者の試算では、渡部さんの圃場であれば、労力削減効果と生育促進効果などにより2年間でコストが回収できると見込んでいます。

ただ、モデルケース(20a、ハウス8棟)で試算すると、導入コストが200万円程度と、毎年30万円を7年間減価償却していく計算です。

自動灌水・自動換気・遮光システムの導入コスト試算の例
(ハウス8棟=20aの生産者の場合)
  • かん水及び温度の自動制御(ニッポー)……約30万円
  • 電磁弁等かん水関係一式(他社)……約32万円
  • 換気モーター、駆動盤、遮光資材、工事費(他社)……約140万円
合計 約200万円(7年償却の場合、30万円弱/年)

「1年間の減価償却費30万円は、人件費の削減や収量の向上を実現できれば、決して高くはありません。県としては、生産者個人の努力だけに委ねるのではなく、補助金なしでも成り立つような『経営モデル』をぜひ作りたいと考えています」と農業経営発展課の児玉さん。

生産者側の渡部さんも、「今後の実証試験によって、コストパフォーマンスがより明らかになると、他の生産者も導入しやすくなると思います」と期待しています。

システム導入時の条件面についても、穴ファームOKIでの導入にあたって、当初考えていた水路では安定的な水量の確保ができず、急遽井戸を掘る必要が出てしまいました。自動灌水システムを使うには、安定的な水源の確保が必要という課題も、すでに解決策が見えています。

渡部さんは現在、思いが同じ生産者と仲間を作り、農業の効率化に取り組んでいるそうです。その中の一人が沖さんで、「この事業はあらゆる面で非常にプラスになっています」と渡部さん。

中山間地が多い広島県で、新規就農者などへのスマート農業導入をサポートしている「ひろしま seed box」。地域に密着したスマート農業導入の事例として、今後の動向に注目したいと思います。



広島県農林水産局農業経営発展課
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/82/
三栄産業株式会社
http://3ei-kk.com/
株式会社ニッポー
https://www.nippo-co.com/

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。