ブロッコリー収穫機で見た機械化と栽培法との妥協方法【生産者目線でスマート農業を考える 第8回】
こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。
前回は、「コロナ禍で急速に進化するICT活用とスマート農業」と題し、予定を急遽変更して、コロナ禍で急速に変化しているICT活用とスマート農業の状況を紹介しました。
最近、この連載のお陰で、普及指導員さんやJAの方々などからの問い合わせが増え、うれしく思っています。
今回は、加工業務用ブロッコリーの生産拡大のために、ブロッコリー収穫機などを導入して大幅な省力化を実現した農業法人について取り上げます。
「加工業務で使用しているブロッコリーはほとんど輸入ものなんです。これを国産にしたいのです」と語るのは、株式会社鈴生 代表取締役の鈴木貴博さんです。
「世界的にブロッコリーは栄養価が高いと評価されており、輸入単価が上がっているなか、生鮮ブロッコリーの輸入量は減少しています。それに対し、冷凍ブロッコリーの輸入量は年々増加傾向で、輸入ブロッコリーのほとんどが加工に回り、そのシェアは80%にもなっています」と鈴木さん。
鈴木さんには、「国産加工業務用ブロッコリーを普及したい」という強い思いがありました。そこで株式会社 鈴生では3年前に加工業務向けのブロッコリー栽培を開始。さらに、栽培するブロッコリーの品種を加工業務仕向けにより適した品種に変更しました。
静岡県を中心に運営している鈴生グループの栽培面積は161haあり、レタス、エダマメ、ブロッコリーなどを栽培しています。近年、増加する水田などの耕作放棄地を次々に野菜の圃場に変え、規模拡大を続けています。161haのうち、10haがブロッコリーの圃場で、冬季の主要な露地野菜作になっています。
鈴木さんが代表を務める鈴生は、社員13名、パート・アルバイト16名に、外国人技能実習生を入れると40名近くを雇用しています。例年2~3名程度(グループ全体では10名程度)の技能実習生を受け入れていますが、コロナウイルス感染症予防に伴う規制で、2020年は4月に1名、9月に3名の入国遅れが生じました。また、近隣の主婦等を主体にパートを雇用していますが、保育園・小学校等の休校や登園自粛により、出勤できない方や出勤日数・時間を大幅に減少する方が増えました。コロナ禍にあって、この大きな農業法人にとって省力化が喫緊の課題になったのです。
そこで、2020年度(令和2年度)、農水省が進める「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に応募し、採択されました。現在ではこの実証グループの実証代表者と進行管理役の両方を担っています。このコンソーシアムではほかに、静岡県経済産業部農業局、ヤンマーアグリジャパン株式会社、静岡県立農林大学校および弊社が共同実証機関になっています。
ブロッコリーの収穫は各作業のなかで最も負荷がかかる作業。その省力化の中核を担うのが、ブロッコリー収穫機です。いっせいに収穫し、機上のコンテナに収容することにより、収穫作業や運搬作業を大幅に軽減します。具体的な作業として、上葉・茎のカットを同時に処理することができます。従来は選択収穫で10aあたり30.1時間(6~8名)を要していましたが、一斉収穫を行うことで10aあたり12.6時間(運転1名、調整2名、計3名)と、58%の大幅削減を実現できました。
「ブロッコリー収穫機によって、圧倒的な省力化を実感している」と、その効果を鈴木さんは高く評価しています。
また、定植にも自動移植機を導入し、これにより18時間の労働時間の削減、72%の大幅な労働力削減が見込まれています。さらに、耕うん・畝立てには自動操舵トラクターを使用。自動移植機や収穫機が効率的に作動するためには、直線の畝立てが前提になります。真っ直ぐな畝になっていることが望ましいので、曲がりがない畝を立てるには熟練した技術が求められます。精緻な畝立てによりスマート農機だけでなく、従来型の農機も楽に操作できるようになり、耕起から収穫までの全行程の作業時間は、従来に比べ55%減にもなりました。
その一方で、課題も明らかになってきました。収穫機のオペレーターを務める長田利宏さんによると、「収穫スピードは10a当たり4時間程度。収穫スピードを速くすることはできるが、調整作業が追い付かない。収穫機では収穫後の調整作業も必要で、トータルの作業時間は大きく短縮できない」とのことでした。しかし、腰を曲げて収穫する重労働からは解放されたそうです。
また、他のスタッフからは、「生育技術を上げて、収穫時までにブロッコリーの生育をそろえる技術も必要だ」という声もあり、スマート農機を使いこなすには、栽培技術も変えていく必要があると指摘されています。さらに「一斉収穫は大小の大きさに関係なく収穫されるので、加工用にしか使えないものが多く発生します。加工用ブロッコリーの出荷方法の工夫が必須です」と鈴木さん。
自動収穫機はキャベツやタマネギなどでも実用化されていますが、いずれも成長度合いに応じて収穫を選別することはできません。実際、10aあたりの収量は慣行区では1031kgだったのに対し、実証区では407kgと、慣行区の39.4%の収量となりました。これは、小さい花蕾も同時に収穫してしまうからです。加工業務用の規格外である小さい花蕾の発生率は45%となりました。そこで、中食産業や外食産業に茎の部分まで料理などに使用してもらい、機械化した時の収穫ムラに対する対応策を講じています。
「ブロッコリーの作物特性として生育のばらつきが極めて大きく、市場出荷向けには数回にわたって圃場に入り、選択収穫する状況にあります。対して収穫機を利用すると一斉収穫となるので、大きさが異なることを考慮した収穫時期と出荷方法の検討が必要になります」とヤンマーアグリ株式会社の経営企画部専任部長 宮永豊司さんは解説します。
現在、鈴生では、生産状況を見える化して、実需者とマッチングできるシステムの開発も行っているそうです。今よく耳にする「スマート商流」の一つです。ちなみに、鈴木さんは自動移植機のような専門性の高い機械はシェアできると考えていらっしゃるそうで、その具体的な方法を検討中です。
コロナ禍が続きそうな状況のなか、今後も慢性的に労働力が不足すると予想されます。特に鈴生のような大規模経営にあっては、スマート農業を導入した「省力化技術」が生き抜くための鍵になりそうです。ただし、この事例のように、スマート農機を効率的に利用するには、栽培方法や加工方法を見直し、スマート農業との妥協点を見出していく作業が今後、重要になると考えています。
※本実証課題は、農林水産省「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証(課題番号:露wC04、実証課題名:加工業務用ブロッコリーのスマート機械化一貫体系の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。
株式会社鈴生
http://oretachinohatake.com/index.html
ヤンマーアグリジャパン株式会社
https://www.yanmar.com/jp/about/company/yaj/
前回は、「コロナ禍で急速に進化するICT活用とスマート農業」と題し、予定を急遽変更して、コロナ禍で急速に変化しているICT活用とスマート農業の状況を紹介しました。
最近、この連載のお陰で、普及指導員さんやJAの方々などからの問い合わせが増え、うれしく思っています。
今回は、加工業務用ブロッコリーの生産拡大のために、ブロッコリー収穫機などを導入して大幅な省力化を実現した農業法人について取り上げます。
今回の事例:静岡県菊川市のブロッコリー収穫
「加工業務で使用しているブロッコリーはほとんど輸入ものなんです。これを国産にしたいのです」と語るのは、株式会社鈴生 代表取締役の鈴木貴博さんです。
「世界的にブロッコリーは栄養価が高いと評価されており、輸入単価が上がっているなか、生鮮ブロッコリーの輸入量は減少しています。それに対し、冷凍ブロッコリーの輸入量は年々増加傾向で、輸入ブロッコリーのほとんどが加工に回り、そのシェアは80%にもなっています」と鈴木さん。
鈴木さんには、「国産加工業務用ブロッコリーを普及したい」という強い思いがありました。そこで株式会社 鈴生では3年前に加工業務向けのブロッコリー栽培を開始。さらに、栽培するブロッコリーの品種を加工業務仕向けにより適した品種に変更しました。
静岡県を中心に運営している鈴生グループの栽培面積は161haあり、レタス、エダマメ、ブロッコリーなどを栽培しています。近年、増加する水田などの耕作放棄地を次々に野菜の圃場に変え、規模拡大を続けています。161haのうち、10haがブロッコリーの圃場で、冬季の主要な露地野菜作になっています。
コロナ禍による人員不足で省力化が必須に
鈴木さんが代表を務める鈴生は、社員13名、パート・アルバイト16名に、外国人技能実習生を入れると40名近くを雇用しています。例年2~3名程度(グループ全体では10名程度)の技能実習生を受け入れていますが、コロナウイルス感染症予防に伴う規制で、2020年は4月に1名、9月に3名の入国遅れが生じました。また、近隣の主婦等を主体にパートを雇用していますが、保育園・小学校等の休校や登園自粛により、出勤できない方や出勤日数・時間を大幅に減少する方が増えました。コロナ禍にあって、この大きな農業法人にとって省力化が喫緊の課題になったのです。
そこで、2020年度(令和2年度)、農水省が進める「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に応募し、採択されました。現在ではこの実証グループの実証代表者と進行管理役の両方を担っています。このコンソーシアムではほかに、静岡県経済産業部農業局、ヤンマーアグリジャパン株式会社、静岡県立農林大学校および弊社が共同実証機関になっています。
ブロッコリー収穫機の導入で圧倒的な省力化
ブロッコリーの収穫は各作業のなかで最も負荷がかかる作業。その省力化の中核を担うのが、ブロッコリー収穫機です。いっせいに収穫し、機上のコンテナに収容することにより、収穫作業や運搬作業を大幅に軽減します。具体的な作業として、上葉・茎のカットを同時に処理することができます。従来は選択収穫で10aあたり30.1時間(6~8名)を要していましたが、一斉収穫を行うことで10aあたり12.6時間(運転1名、調整2名、計3名)と、58%の大幅削減を実現できました。
「ブロッコリー収穫機によって、圧倒的な省力化を実感している」と、その効果を鈴木さんは高く評価しています。
また、定植にも自動移植機を導入し、これにより18時間の労働時間の削減、72%の大幅な労働力削減が見込まれています。さらに、耕うん・畝立てには自動操舵トラクターを使用。自動移植機や収穫機が効率的に作動するためには、直線の畝立てが前提になります。真っ直ぐな畝になっていることが望ましいので、曲がりがない畝を立てるには熟練した技術が求められます。精緻な畝立てによりスマート農機だけでなく、従来型の農機も楽に操作できるようになり、耕起から収穫までの全行程の作業時間は、従来に比べ55%減にもなりました。
加工用のブロッコリーの活用方法を見出す
その一方で、課題も明らかになってきました。収穫機のオペレーターを務める長田利宏さんによると、「収穫スピードは10a当たり4時間程度。収穫スピードを速くすることはできるが、調整作業が追い付かない。収穫機では収穫後の調整作業も必要で、トータルの作業時間は大きく短縮できない」とのことでした。しかし、腰を曲げて収穫する重労働からは解放されたそうです。
また、他のスタッフからは、「生育技術を上げて、収穫時までにブロッコリーの生育をそろえる技術も必要だ」という声もあり、スマート農機を使いこなすには、栽培技術も変えていく必要があると指摘されています。さらに「一斉収穫は大小の大きさに関係なく収穫されるので、加工用にしか使えないものが多く発生します。加工用ブロッコリーの出荷方法の工夫が必須です」と鈴木さん。
自動収穫機はキャベツやタマネギなどでも実用化されていますが、いずれも成長度合いに応じて収穫を選別することはできません。実際、10aあたりの収量は慣行区では1031kgだったのに対し、実証区では407kgと、慣行区の39.4%の収量となりました。これは、小さい花蕾も同時に収穫してしまうからです。加工業務用の規格外である小さい花蕾の発生率は45%となりました。そこで、中食産業や外食産業に茎の部分まで料理などに使用してもらい、機械化した時の収穫ムラに対する対応策を講じています。
「ブロッコリーの作物特性として生育のばらつきが極めて大きく、市場出荷向けには数回にわたって圃場に入り、選択収穫する状況にあります。対して収穫機を利用すると一斉収穫となるので、大きさが異なることを考慮した収穫時期と出荷方法の検討が必要になります」とヤンマーアグリ株式会社の経営企画部専任部長 宮永豊司さんは解説します。
今後のスマート商流とシェアリングなどに向けて
現在、鈴生では、生産状況を見える化して、実需者とマッチングできるシステムの開発も行っているそうです。今よく耳にする「スマート商流」の一つです。ちなみに、鈴木さんは自動移植機のような専門性の高い機械はシェアできると考えていらっしゃるそうで、その具体的な方法を検討中です。
コロナ禍が続きそうな状況のなか、今後も慢性的に労働力が不足すると予想されます。特に鈴生のような大規模経営にあっては、スマート農業を導入した「省力化技術」が生き抜くための鍵になりそうです。ただし、この事例のように、スマート農機を効率的に利用するには、栽培方法や加工方法を見直し、スマート農業との妥協点を見出していく作業が今後、重要になると考えています。
※本実証課題は、農林水産省「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証(課題番号:露wC04、実証課題名:加工業務用ブロッコリーのスマート機械化一貫体系の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。
株式会社鈴生
http://oretachinohatake.com/index.html
ヤンマーアグリジャパン株式会社
https://www.yanmar.com/jp/about/company/yaj/
【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
- アフリカのスマート農業はどうなっているのか? ギニアの農業専門家に聞きました【生産者目線でスマート農業を考える 第29回】
- 農業DXで先を行く台湾に学ぶ、スマート農業の現状【生産者目線でスマート農業を考える 第28回】
- スマート農業の本質は経営をスマートに考えること【生産者目線でスマート農業を考える 第27回】
- 肥料高騰のなか北海道で普及が進む「衛星画像サービス」の実効性【生産者目線でスマート農業を考える 第26回】
- 中山間地の稲作に本当に必要とされているスマート農業とは?【生産者目線でスマート農業を考える 第25回】
- 海外から注目される日本のスマート農業の強みとは?【生産者目線でスマート農業を考える 第24回】
- ロボットが常時稼働する理想のスマートリンゴ園の構築は可能か?【生産者目線でスマート農業を考える 第23回】
- 日本産野菜の輸出に関わるQRコードを使ったトレーサビリティの「見える化」【生産者目線でスマート農業を考える 第22回】
- インドネシアにおける農業の現状とスマート農業が求められている理由【生産者目線でスマート農業を考える 第21回】
- みかんの家庭選果時間を50%削減する、JAみっかびのAI選果【生産者目線でスマート農業を考える 第20回】
- スマート農業を成功させる上で生産者が考えるべき3つのこと【生産者目線でスマート農業を考える 第19回】
- 生産者にとって本当に役立つ自動灌水、自動換気・遮光システムとは【生産者目線でスマート農業を考える 第18回】
- JAみっかびが地域で取り組むスマート農業“環境計測システム”とは? 【生産者目線でスマート農業を考える 第17回】
- スマート農機の導入コストを大幅に下げる、日本の「農業コントラクター事業」普及・拡大の展望 【生産者目線でスマート農業を考える 第16回】
- AI農薬散布ロボットによってユリの農薬使用量50%削減へ【生産者目線でスマート農業を考える 第15回】
- 農産物ECでの花き輸送中の課題がデータロガーで明らかに!【生産者目線でスマート農業を考える 第14回】
- ブドウ農園でのセンサー+自動換気装置に加えて必要な“ヒトの力”【生産者目線でスマート農業を考える 第13回】
- IoTカメラ&電気柵導入でわかった、中山間地での獣害対策に必要なこと【生産者目線でスマート農業を考える 第12回】
- 直進アシスト機能付き田植機は初心者でも簡単に使えるのか?【生産者目線でスマート農業を考える 第11回】
- 全国初! 福井県内全域をカバーするRTK固定基地局はスマート農業普及を加速させるか?【生産者目線でスマート農業を考える 第10回】
- キャベツ栽培を「見える化」へ導く「クロノロジー型危機管理情報共有システム」とは?【生産者目線でスマート農業を考える 第9回】
- ブロッコリー収穫機で見た機械化と栽培法との妥協方法【生産者目線でスマート農業を考える 第8回】
- コロナ禍で急速に進化するICT活用とスマート農業【生産者目線でスマート農業を考える 第7回】
- 徳島県のミニトマトハウスで見たスマート農業で、軽労化と高能率化を同時に実現する方法【生産者目線でスマート農業を考える 第6回】
- 若手後継者を呼び込むスマート農業【生産者目線でスマート農業を考える 第5回】
- 地上を走るドローンによるセンシングをサポートする普及指導員【生産者目線でスマート農業を考える 第4回】
- スマート農機は安くないと普及しない?【生産者目線でスマート農業を考える 第3回】
- 果樹用ロボットで生産者に寄り添うスマート農機ベンチャー【生産者目線でスマート農業を考える 第2回】
- 浜松市の中山間地で取り組む「スモールスマート農業」【生産者目線でスマート農業を考える 第1回】
SHARE