IoTカメラ&電気柵導入でわかった、中山間地での獣害対策に必要なこと【生産者目線でスマート農業を考える 第12回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、「直進アシスト機能付き田植機は初心者でも簡単に使えるか?」と題して、三重県伊賀市の水稲種子生産の事例について紹介させていただきました。

SNSなどで「直進アシスト機能付き田植機を導入することで価格10%アップでも、省力化にならないのなら、高い買い物にならないか?」「直進アシスト機能付き農機は増えており、直進アシスト機能付き田植機はスタンダードになりうると思う」など多くのご意見をいただきました。ありがとうございました。

今年に入ってから、何度かスマート農業の事情について全国各地でお話をさせていただく機会がありました。なかでも中間山地でのスマート農業の導入事例に、多くの皆さんが大変興味を持たれていることがわかりました。

そこで今回は、中山間地で展開しているスマート農業の一環として「IoT電気柵」「IoTカメラ」を導入し、獣害被害を抑え込んでいる静岡県浜松市の事例を紹介したいと思います。


今回の事例: 静岡県浜松市の獣害対策 IoT電気柵・IoTカメラ導入事例



浜松市天竜区春野町は1975年に9,170人ほどいた人口が2018年には半分以下の4,300人ほどまでに減少。60歳以上の人口が50%を超えるなど高齢化が加速化し、主力産業の一つである農業では後継者不足で産業の衰退が進み、耕作放棄地や遊休農地も増えています。

このような状況に歯止めを掛けようと、春野町では若手農家グループ4名による「春野耕作隊」が借地と作業受託を中心とした経営を展開しています。

そのうちの1名、笑顔畑の山ちゃんファームの山下光之さんは水戻し不要の切り干し大根(商品名「山のするめ大根」)を開発。他の3名と共に切り干し大根の生産から販売まで中心的に行い、農研機構が行っているスマート農業実証プロジェクトに「大根の生産・加工へのスモールスマート農業の導入」を提案されました。

笑顔畑の山ちゃんファームの山下光之さん

笑顔畑の山ちゃんファームが製造する山のするめ大根

提案は無事採択。2020年8月の連載初回でプロジェクトの概要について紹介しています。

この地域も全国の中山間地と同様、獣による食害に悩まされてきました。全国の他の地域では獣害対策のスマート農業にドローンやIoT檻などを導入している事例も見られますが、このコンソーシアムでその対策の中核をなす技術は、IoT電気柵とIoTカメラの組み合わせです。

私は公募前の提案書作成時に山下さんと何度も議論を重ね、その結果、ドローンを使って追い払う方法では高価格になり過ぎること、IoT檻の場合は捕獲した獣の処理が問題になることが課題だと思いました。

そこでインターネットを使って希望に沿うものを探し、たどり着いたのが協和テクノ株式会社のIoT電気柵・IoTカメラでした。24時間365日電気柵の通電状況を監視してくれ、どんな獣が来ているか撮影して教えてくれるIoT装置です。

さっそく連絡をとり、代表取締役 飯川暁則さんと話を進めました。山下さんも「中山間地で現実的な対策方法」ということで協和テクノ株式会社の技術導入を決め、協和テクノ株式会社にもコンソーシアムのメンバーになっていただくことにしました。

ちなみにこのプロジェクトでは、代表機関:浜松市産業部、進行管理役:浜松市産業部農業水産課 次世代農業推進グループなどが「浜松市中山間地スモールスマート農業実証コンソーシアム」を構築し、実証試験を進めています。弊社もコンソーシアムのメンバーになっています。


ダイコン畑が獣による食害に! 中山間地でどう対処するか


「2019年、山間部にある一つの圃場のダイコンは、シカと思われる食害で全滅してしまいました」と語るのは山下さん。2020年の初めにIoT電気柵とIoTカメラを設置してから食害が減ったものの、ゼロにはならなかったそうです。

ウサギの画像(浜松市役所提供)

シカ、もしくはイノシシが来ているに違いないと予想していたため、シカの背丈に合わせて電気柵の位置を決めていました。

「当初は、シカによる食害だと思っていたので、なぜ電気柵があるのに食害されているかわかりませんでした。IoTカメラで撮影された画像を確認すると夜間ウサギが圃場に来ていることが判明しました。」(山下さん)。

「ウサギが来ているとはまったく想像していませんでした。IoTカメラが圃場を一晩中監視し、動体を検知したときに写真を撮影します。その正体がわかったので、電気柵の位置をウサギの大きさに合わせて下げ、さらにキュウリ用のネットで圃場を囲むなどの対策をとりました。その結果 、食害はほぼゼロになりました」と山下さんはその効果を実感しています。


電気柵の電圧状況をネットで監視。撮影した画像データはメールに送信



ダイコン圃場に設置されたIoTカメラ(左)と、IoT電気柵〈電気柵監視システムEfMoS Jr.〉(右)の装置(筆者撮影)

IoT電気柵「電気柵監視システムEfMoS Jr.(エフモスジュニア)」


IoT電気柵・IoTカメラの特徴について説明します。IoT電気柵「電気柵監視システムEfMoS Jr.(エフモスジュニア)」は上の写真のようなシステムを使って、電気柵が通電しているかどうかを確認できるようになっています。

害獣対策の電気柵の電圧状況をインターネットで監視できる(IoT)システムです。人の代わりに電気柵を24時間監視し、現地に行かなくても電圧の状態を管理者が共有できる、新しい管理ツールです。

山ちゃんファームの圃場で従来使用していた電気柵は雑草などが電気柵にかかり、電圧が下がったことに気付かず、獣の食害に合うことが度々ありました。

そのため、通電していることを確認するために遠くの圃場まで定期的に見に行く必要があり、その見回り時間が山下さんの大きな負担になっていました。


IoTカメラによる獣害の監視(筆者撮影)

IoTカメラの装置をアップで見たものが上の写真です。装置の丸い穴がカメラになっており、撮影された画像データは設定したメールアドレスに送信。外出先でもIoT電気柵の通電やIoTカメラの画像の過去および現在の状況をスマートフォンやタブレット、パソコンなどで確認することができます。

なお、IoTカメラは乾電池で起動しますが、実証圃では長期の設置のため、IoT電気柵も含め、ソーラーパネルとバッテリーを使用しています。

「3つのダイコン圃場のうちひとつは10kmほどの遠方にあります。今までは定期的に圃場に様子を見に行き通電の様子を確認していましたが、電圧が下がった時だけ圃場を見に行けば良くなりました。電圧が下がった時は大抵雑草が電気柵にかかっていることがわかりました」とIoT電気柵のメリットについて山下さんは語ってくれました。

代表機関である浜松市役所農業水産課主任 松尾和弥さんは「2020年度、IoT電気柵とIoTカメラの導入によって、見回り時間を大幅に削減することができました。2021年度は見回り時間のほぼゼロを目指したい」とさらに高い目標を掲げています。


スマートフォン画面(協和テクノ提供)

通電の状況(協和テクノ提供)


得られた情報を地域全体に生かす



笑顔畑の山ちゃんファームで得られた「どのような種類の獣が」「どのぐらいの頻度で来ているか」などの知見を、今後、IoT電気柵・IoTカメラを持っていない生産者も含めて、この地域全体で生かしていくことが必要になります。

「これまで、獣の種類や出現頻度は生産者の勘や経験に頼っていましたが、IoTカメラを使用し定量的なデータとして把握できるようになりました。データ化されたことで関係者との情報共有や、獣害対策の方向性の検討が容易になるため、地域ぐるみの獣害対策推進に活用できます」と浜松市役所農業水産課主任 松尾さんは解説します。

電気柵監視システム「EfMoS Jr.」はフルセットで約18万円、IoTカメラはフルセット約19万円で、共に1年間の通信費が含まれています。今後は、IoT電気柵・IoTカメラの経済的評価もしていく予定です。

ただ現時点で言えることは、IoT電気柵・IoTカメラがなければ、2020年度のダイコンの収穫が減っていた可能性があるということです。

2021年、笑顔畑の山ちゃんファームでは冬ダイコンだけでなく、春ダイコンにも挑戦しています。ダイコンの生産量が増えると獣害対策はますます重要になります。この事例は全国の中山間地における獣害対策のモデルになると期待されており、今後の動向に注目したいです。


※本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(課題番号:露2C04、実証課題名「東海地域の中山間地小規模野菜産地におけるスモールスマート農業による持続可能な地域振興のビジネスモデルの確立、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。



笑顔畑の山ちゃんファーム
http://www.yamanosurume.com/?mode=f4

協和テクノ株式会社
https://www.kyowatecno.jp/


【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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