スマート農機の導入コストを大幅に下げる、日本の「農業コントラクター事業」普及・拡大の展望 【生産者目線でスマート農業を考える 第16回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、「AI農薬散布ロボットによってユリの農薬使用量50%削減へ」と題し、ユリ栽培でのAI搭載の門型防除用走行ロボットによる自動予察と薬剤散布を紹介させていただきました。

AIの判定精度や門型ロボットの走行性について、いくつかのご質問や課題をいただきました。これらの点については、今後、有限会社エフ・エフ・ヒライデで行われている令和3年「スマート農業実証プロジェクト」の実証試験のなかで、さらに改善されると思います。

今回は葉菜類の農業では珍しい、コントラクター農作業請負業者)について紹介したいと思います。


今回の事例:静岡市の葉菜類における農作業請負事業(コントラクター事業)の取り組み


静岡県静岡市に本社を置く農業法人の株式会社鈴生(すずなり)の代表取締役の鈴木貴博さんは「スマート農機の導入はコストがかかり、稼働効率を最大限に上げないと採算が取れず、生産者の購入負担を解決しないといけないと思います。このままではスマート農機の導入が進まないのでは?」と考えているそうです。

鈴生は遊休農地や水田の裏作等を活用してレタスやブロッコリー等の野菜作に取り組み、経営面積は161haまで拡大している大規模な農業法人です。

株式会社鈴生 代表取締役の鈴木貴博さん

鈴生は、2020年度(令和2年度)、農水省が進める「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証(単年度事業)」に採択され、この実証グループの実証代表者と進行管理役の両方を担っていました。

令和2年度の実証事業では、以前ご紹介したように、スマート農業機械を中心としたブロッコリー機械化一貫体系による省力化や労働時間削減などの効果を確認しました(「ブロッコリー収穫機で見た機械化と栽培法との妥協方法」より)

一方で、近隣農家ではこれらのスマート農業機械化一貫体系を導入するだけの経営規模には達していない状況にあります。

鈴生が位置する静岡県の中西部地域では水稲や茶の価格下落により、野菜作りが増加傾向にあります。しかし、需要のある加工業務用野菜に対応して産地形成を図るためには、「省力」「低コスト」でまとまった量を安定的に生産しなければなりません。

そこで、農業コントラクター(作業請負)事業を含めた提案で、令和3年「スマート農業実証プロジェクト」に応募し、その内容が評価されて採択されました。

コンソーシアムメンバーは、株式会社鈴生(代表機関)、(一財)アグリオープンイノベーション機構(進行管理役)、横浜市場センター株式会社、STMエクスプレス株式会社、JA静岡経済連、ヤンマーアグリジャパン株式会社 中部近畿支社、農研機構野菜花き研究部門、静岡県経済産業部農業局と弊社です。


スマート農機を所有しないスマート農業の取り組み


「海外の事例を見ると、農業経営者が専門業者に作業を依頼することが多いようです。例えば、農薬メーカーに依頼して専門農機を使った農薬散布を行い、収穫は収穫業者に依頼して高価な農機で収穫をします。

農家では高額な農機を購入せず、作業の工程によって専門業者に依頼し、農地の年間稼働率を上げることで、農家の導入経費を抑えている事例があります。日本でも、農家にとってもっと効率の良い方法はないのか? と考えていました」と鈴木さん。

さらに、今回のコントラクター事業の取り組みは、普及を促進したいのにスマート農機の導入のハードルが高いこともきっかけのひとつでした。

「近隣ではお米やお茶の栽培が多く、新しい作物を栽培していく必要があります。そこで、新規で加工業務用野菜栽培に取り組もうと考えている農家に、“スマート農機を持たなくても野菜栽培を開始できること”を実証してもらい、地域の農業発展につなげていきたいと思いました」と鈴木さんは語っています。


導入したスマート農機を請負作業でフル活用


プロジェクトの主なテーマは以下の4つ。そのうちの一つが農業コントラクター事業となります。

  1. 生育予測データを活用し、契約から出荷までの計画栽培
  2. QRコードを活用したトレーサビリティシステムと“見える化”によるスマート商流
  3. 海外輸出による販路拡大
  4. スマート農業機械体系の利用コスト軽減と稼働率向上を目的とした農業コントラクター事業

計画は以下の通りで、2年間で実証することを予定しています。



日本でも、飼料生産等を中心にコントラクター事業が進展しており、静岡県でも育苗、耕起、代かきなど10a当たり約1~2万円で行われています。

今回の事例のように野菜、なかでも“葉菜類”については全国でも前例がほとんどないようです。

「葉菜類のコントラクターや、農作業の分業化は2013年頃から構想があり、ずっとやりたかった」と鈴木さん。新規性のある構想のため、静岡銀行が新規創業者や革新的な事業に取り組む起業家を支援するために行っている、2015年度「第3回しずぎん起業家大賞」を受賞されました。

今年度は畑1枚でレタスを生育し、マルチを張る作業なども行うそうです。

自動操舵トラクターによる耕うんの様子(弊社撮影)
自動操舵トラクターによる畝立て。ほぼ真っすぐにできる(鈴生提供)
ブロッコリー定植機による定植作業(鈴生提供)

鈴生のコントラクター事業メニュー


鈴生では具体的に、コントラクター事業について以下のような展開を考えています。

1.耕耘施肥、畦立て作業は自動操舵トラクター2台の組み作業とする
・耕耘施肥は既導入の自動操舵トラクターで行い、畦立て作業を新規導入の自動操舵トラクターで行う
・プラウ、畦立て機等の作業機は自己導入とする
・作業対象面積はレタス15~20ha、ブロッコリー20ha

2.ブロッコリーの管理作業は令和2年に自己導入した管理作業機で行い、移植作業は既導入の全自動移植機で行う
・作業対象面積は20ha

3.ブロッコリー収穫には新規に収獲機を1台追加導入する
・既導入のブロッコリー収穫機能力は10ha。作業対象面積20haに対応するため新規に1台追加導入する

4.防除作業等については既存の機械や近隣農家所有の機械の有効活用を含めて今後検討する
・依頼元の栽培農家にも労力提供を要請する。特に収穫機の作業台上の調整作業や搬出作業などでは協力を求める

さらに、自動操舵による直進性の良さをコントラクター料金に反映させることができるのか、あるいは自動操舵によって作業能率または一日の負担面積にメリットが出るのかの検証等が、課題になってくるのかと思います。


課題と今後の展望


今年度はコントラクターの需要があるので、適正金額はいくらになるのか、生産者にヒアリングを行い、アンケートも取っています。

ただし、鈴木さんによると、依頼元はコントラクターへ発注すると委託費が高くなってしまい、利益が少ないのではないかと考え、積極的ではないそうです。

「近隣農家や農業機械メーカー、農業関連企業と連携を組んで普及を進めたいと思っています。スマート農機を最大限活用するためには、『農機シェアリング』『コントラクター事業』『作業の分業化』などあらゆる手段を模索しながらスマート農機の稼働率を上げ、各専門分野の方と一緒に仕事ができる環境づくりが必要です」

鈴木さんは、農業を画期的なステージに引き上げる必要があると主張されています。

「今年度は実証実験なので料金はとらず、とにかく“やってみよう”と考えています。2年間で実証したいですね」と鈴木さん。

また鈴生では、6年前から農薬販売会社に「ブームスプレーヤ」を貸し出し、農薬散布作業を委託。自ら進んで作業分業を開始しています。


葉菜類の露地栽培でも請負作業の普及を


日本国内の水稲作では、コントラクターへの依頼が進みつつあります。ダイコンやタマネギ等の根菜類、ジャガイモ等のイモ類を育てる農家でもコントラクターに委託することがあるそうですが、葉菜類はほぼ例がないようです。

鈴木さんは「このプロジェクトが成功すれば、高齢者や新規就農者でも機械導入経費を気にせず長く農業ができ、それによって手取りも増やすことができます。また、コントラクターに依頼することで今まで作ったことのない野菜栽培にもチャレンジでき、スマート農業の普及が進むのではないか」と期待しています。

本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(課題番号:露3C5商、実証課題名:生育予測とQRコードを活用したスマート商流システムによるトレーサビリティの確立とこれに伴う輸出拡大、並びにスマート農機の利用拡大の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。

株式会社鈴生
https://oretachinohatake.com/index.html
ヤンマーアグリジャパン株式会社
https://www.yanmar.com/jp/about/company/yaj/
【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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