インドネシアにおける農業の現状とスマート農業が求められている理由【生産者目線でスマート農業を考える 第21回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

2022年2~3月に開催されたJICA 課題別研修「農業・農村 DX/スマートフードチェーン共創に向けた産官学人材育成(A)」に関わる機会がありました。インドネシア、タイ、ベトナム、ウガンダ、コートジボワール、ヨルダンの各国から研修員たちがオンラインで参加しました。

その中で、特に日本のスマート農業に関心をお持ちのインドネシア農業省 企画局企画官のCahyono Tri Wahyuさん(トリワヒュ・チャヒヨノさん、名古屋大学大学院にJICA留学生として留学中)に、インドネシアの農業とスマート農業についてお話をうかがいました。日本のスマート農業技術の中でも、特に小規模生産者向けの技術をインドネシアでも活用できることを期待されています。

Cahyono Tri Wahyuさん


豊富な資源を持ちつつ人口過剰問題も抱えるインドネシア


──Triさんの母国インドネシアはどのような国か、改めてお聞かせください。

インドネシアは豊富な天然資源を備え、農業にかなりの可能性を秘めた熱帯の国です。コメ、とうもろこし、大豆、キャッサバ、豆などさまざまな種類の食用作物があります。

インドネシアの陸域生物多様性はブラジルに次ぐ世界第2位、海洋生物多様性は世界最大です。この生物多様性によって低地と高地の両方の地理、年間を通じて豊富な日光、大雨、そして亜熱帯の商品を含むさまざまな種類の農産物の栽培を可能にしています。したがって、農業部門はインドネシア経済の主要な産業のひとつとなっています。

2020年のインドネシアの人口は2億7000万人で、ジャワ島で最大の分布を示しています。インドネシア統計(BPS)によれば、インドネシアの人口の56%がジャワ島のジャカルタに集まっています。そしてジャワ島は、国内総生産(GDP)の58.74%を占めています。

2022年に政府は人口と経済的シェアを再配分するため、首都の遷都を決定しました。にもかかわらず、特にジャカルタでは、将来的に都市化による水不足と人口過剰の問題を抱えていると予測されています。ジャカルタは都市化のために非常に高い成長を遂げています。インドネシア大統領のジョコ・ウィドド氏が首都をジャカルタから東カリマンタンに移すという政策は、農業部門に影響を与えるでしょう。


出典:読売新聞オンライン

インドネシア経済金融開発研究所(INDEF)が行った2020年の調査によると、首都移転の影響によりすべての地域で食料の価格が上昇したそうです。このため、インドネシア農業省やその他の利害関係者は、インドネシア国民のコメ需要を満たすための戦略を立てるべきです。

インドネシアの新しい首都となる東カリマンタンは、2019年に人口のほぼ34%がコメ不足に悩まされました。 2025年の新規居住者の増加は、コメの不足を加速させるでしょう。東カリマンタンは、より多くのコメ需要を満たすため、他の地域からの供給をまだ必要としています。

新しい首都(KutaiKartanegaraとPenajamPaser Utara)の人口とコメ需要予測

首都を移転するという方針の下、政府と関係者は主食供給を実現し、コメの値上がりを防ぐ必要に迫られています。


──インドネシアにおける農業の課題は何ですか?

ひとつは、インドネシアの農業生産者の教育レベルです。依然として低学歴の農業生産者が多く、農業労働者の約82%は小学校を卒業しただけです。競争力と新技術の応用を高めるために人材の質を向上させる上で、これは大きな課題です。

出典:農業省

ふたつ目は、農業生産者の年齢層と収入の低さです。多くのインドネシアの農業生産者はまだ生産的な年齢(15〜24歳、25〜59歳)が大半を占めています。そのため、将来農業生産者の生産性を向上させる可能性が高く、農業労働者の77.68%は生産年齢の労働者です。


ただし、農業生産者の収入は依然として他の業種をはるかに下回っています。

農業生産者の平均収入は月額2,00万ルピア(約1万7,500円)を下回っており、月額約3,00万ルピア(約2万6,000円)を稼ぐことができる産業およびサービス部門をはるかに下回っています。この低所得により、多くの若者は農業生産者になることを躊躇しており、他の分野で働くことを選択する傾向にあります。


主要産業別の従業員の月額正味賃金/給与の平均(ルピア)Tahun / Years 2018 2021
農業生産者の福祉問題に加えて、将来の農業および農村開発の課題は、人口統計学的問題、天然資源の不足、気候変動および食品廃棄物をどのように克服するかです。



単純な機械化からビッグデータを活用するスマート農業への過渡期


──インドネシアでのスマート農業の現状について教えてください。

2018年以降、インドネシア政府は「Smart Farming 4.0」というコンセプトを導入し、農業栽培にドローンとセンサー技術を適用し始めました。

スマート農業による農業の近代化を支援するインドネシア政府のプログラムは、数年前に開始されました。食糧供給と競争力向上プログラムは2022年に実施される予定で6つの優先プログラムがあります。

  1. 増加する生産商品の持続可能性の維持
  2. 食品多様化の発展
  3. サプライチェーンの強化と食品ロジスティクス
  4. 「食糧農園」(国策で進めている大規模農園)と農業生産者組織の強化
  5. スマート農業開発と農業デジタル化(E-agriculture)
  6. 農業輸出を増やす

スマート農業も、農業生産性の向上を目的とした農業省の主要なプログラム活動の一部です。

農業開発を支援するにはセンサー、デバイス、機械、情報技術などの技術の応用が必要です。未来の農業は、ロボット、温度および湿度センサー、GPS技術などの適用を通じて実現されます。ロボットシステムによるスマート技術の適用は、効率、安全保障、環境への配慮、さらにより多くの利益にプラスの影響を与えます。

これまで実施されてきた農業の機械化は、ビッグデータとインテリジェントな農業機械を利用してスマート農業に格上げされます。

ジャカルタ近郊ボゴールのポルバンタンにあるスマートな温室(提供:Cahyono Tri Wahyu)


スマート温室でのレタスの水耕栽培システム(提供:Cahyono Tri Wahyu)

農業省のデータによると、農業生産者に配布された農業機械は(2012~2017年):収穫前31万7,598ユニット、収穫後4万1,816ユニットでした。進歩のひとつは、農業における多くのスマートテクノロジーを農業生産者に導入することによる「農業機械化4.0」でした。

農業生産者が実際に導入しているいくつかの技術には、機械サービススマートモバイルアプリケーション、農業機械ツールテスト管理システム(SAPA Mektan)、Androidベースのスマートポンプ、自律型トラクター、植栽ロボット、種子散布ドローン、ボートトラクター等があります。

気象・土壌センサー(提供:Cahyono Tri Wahyu)

またスマート農業は、大学や民間部門によっても広く生み出され、その後農業生産者によって応用されています。自動散水、ドローン散布機(農薬や肥料用)、土地・土壌・気象センサーのドローンマッピングなどの技術に基づくスマート農業も農業生産者の間で広く導入されています。

──スマート農業の政策と普及組織の課題は何ですか?

インドネシアの普及員の数は、普及サービスを必要とする農業生産者の数に比べて少なすぎると考えられています。公務員の資格を持つ普及員の数は、公務員と契約社員で構成されていますが、今後は民間の普及員や非政府職員も、普及ニーズの不足を補うことができると期待されています。

インドネシアの普及員の数、2019年[PNS:公務員、THL-TB:契約社員、Swadaya:市民団体(NGO)、Swasta:民間]


普及員の数と比較した農業生産者の数は、依然として非常に多いです。インドネシア政府は、農業生産者へのサービス戦略のひとつとして農業生産者グループへの支援を促進し、「スマートエクステンションアプリケーション」を導入しています。

農業生産者の世帯数、2018-2019年


日本の小規模向けスマート農業はインドネシアの課題解決に役立つ


──Triさんが参加された、JICA研修の事例から学んだことがあれば教えてください。

今、日本でトレンドになっているのは小規模なスマート農業ですね。これは、多くの農業生産者が小規模で活動しているインドネシアなどの発展途上国で直面している問題と、非常に似通っています。

この小規模なスマート農業プロジェクトは、「ひろしまseed box」として知られる広島県で実施されています。そのスマート農業の農業経営は、インドネシアで小規模に実施されれば非常に興味深いものです。
(生産者にとって本当に役立つ自動灌水、自動換気・遮光システムとは 参照)

技術を保有する企業がコンソーシアムを形成。データを収集しながら技術を適応させるための実証試験を実施し、プロジェクトを推進しています。このプロジェクトの目標は、広く適用できる確立されたビジネスモデルの確立です。

というのも、インドネシアの多くの農業生産者グループは小規模で農業事業を営んでいます。現在タマネギ、トマト、ホウレンソウで適用している広島県のように、インドネシアの園芸農家も同じように適応させることができると思います。

もし、インドネシアのすべての村に情報技術インフラがサポートされたなら、インドネシアでもスマート農業はうまく機能するでしょう。今日の状況ではIoT、ビッグデータ、ロボットを使用したスマート農業は、インフラ施設が通信技術をサポートしている分野では広範囲で試験されています。農業生産者が買い手に出会い、農産物を流通させる農業生産者に対して支援する新興企業はたくさんあります。

インドネシアでも日本と同様に、非常に多くの農業生産者が小規模な土地を所有しているため、生産性を高めるために、小規模ビジネスにスマート農業を適用する技術は、多くの農業生産者に必要とされています。


今回の取材を終えて感じたこと


Triさんから「日本のスマート農業は『省力化』に力を入れているようだが、労働人口が豊富で人件費が安いインドネシアでは、スマート農業の導入目的は省力化にはなっていない」と言われたのが印象的でした。それでも、インドネシアは国策として、スマート農業を推進しており、農業のデジタル化によって、競争力を高めようとしているようです。昨年、日本でも政府が「農業DX構想」を取りまとめました。
( 農林水産省が推進する「農業DX構想」は日本の農業をどう変えるのか 参照)

今後、日本もインドネシアのような海外の状況も参考にしながら、省力化から、デジタルデータを使った農産物の付加価値向上に舵を大きく切っていくべきと感じました。


アジア 国・地域別情報|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/asia.html#indonesia
インドネシア|農林水産研究所
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/kokusai/indonesia.html
インドネシア農業省(英語)
https://www.pertanian.go.id/
【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。