アフリカのスマート農業はどうなっているのか? ギニアの農業専門家に聞きました【生産者目線でスマート農業を考える 第29回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

近年、開発途上国でも国策として、スマート農業が導入されています。しかし、アフリカの農業やスマート農業の状況は、私たち日本人にはあまりなじみがないかもしれません。

そこで、独立行政法人国際協力機構(JICA)筑波が主催する2023年度課題別研修 「稲作技術向上(普及員)(B)」(フランス語圏)に参加された、西アフリカのギニア共和国のモハメド・カマラさんに、ギニア共和国の農業とスマート農業についてお話をうかがいました。

カマラさんは持続可能な農業分野の修士号を持ち、ギニア共和国農業畜産省の農村振興と農業評議会の担当職員です。

日本で研修中のカマラさん(写真提供:カマラ氏)

ギニアの主食は日本と同じ短粒種の米で、農業人口はかなりの割合を占めています。貧困により機械化もなかなか進んでいませんが、日本の稲作技術から学んだことが多くあったとのことでした。


30代以下の若者が3分の1を占めるギニアの農業従事者


──まず、ギニアの農業の概要について教えてください。

ギニア共和国の面積は24万5857 km²、2020年の推定人口は約1300万人(2000年は800万人)で、その52%が女性、48%が男性です。

農村人口が人口の64%を占め、収入の80%は農業に依存しています。15歳から34歳の若者が人口の33%を占めています。

国連の予測によると、人口は2030年に1700万人、2050年に2600万人、2100年には3500万人に増加するとされています。

ギニア共和国の場所と国旗

16歳以上の就農者数(年齢層別、男女別)2011/2012年
資料: National Agency for Agricultural and Food Statistics ANASA/EAP-2011-2012

また、ギニアには4つの自然地域があります。

1.沿海ギニア
マングローブ稲を中心とした作付体系(稲作地が潮の満ち引きによって定期的に海水に浸ることを利用する伝統的な農法)で、一部は開発された地域で、内陸部では稲、落花生、果物、野菜などの丘陵作物が栽培されています。

2.中部ギニア
トウモロコシ、オクラ、タロイモ、ジャガイモが市場菜園で、フォニオ(古代雑穀)、落花生、米が奥地の焼畑で栽培され、また、牛、羊、ヤギの飼育が行われています。

主要食用作物の耕作面積の変化資料: National Agency for Agricultural and Food Statistics (ANASA)/Ministry of Agriculture

3.上部ギニア
広大な氾濫原での稲作と塊茎の栽培、牧畜、綿花栽培を基盤としています。

4.森林ギニア
コーヒー、アブラヤシ、ココア、ゴム、低地用稲、塊茎、豚の飼育などの多年生作物が栽培されています。

トウガラシの収穫風景(写真提供:カマラ氏)

ギニアは、豊かで多様な生産基盤があるにもかかわらず、農業部門の成長は弱く、2018年のGDPに占める割合はわずか24%で、工業約3割、サービス約5割です。農産物は同国の輸出と輸入のそれぞれ11%と17%を占めています。

ギニアの基本的な食料は米、トウモロコシ、フォニオ、キャッサバ、ピーナッツ、ヤムイモとジャガイモです。主に綿花、コーヒー、果物、野菜を輸出し、食糧需要のために米を含む穀物製品と肉を輸入しています。

農作物生産がギニアの農業の大半を占めており、農業GDPは65%、畜産は19%です。


豊富な自然資源を持ちながらも、平均年間所得は約14万円


──ギニアの経済状況や農業関連産業についてはどのような状況でしょうか?

世界開発指標のデータによると、2005年から2007年までは年平均経済成長率は2.4%、2008年から2010年(エネルギー危機、金融危機、食糧危機の時期に相当)は2.2%、2011年から2013年までは3.4%を記録しました。同期間のインフレ率はそれぞれ26.0%、13.7%、13.0%でした。

一人当たりの年間所得は897米ドル(約14万円)と推定され、ギニアは後発開発途上国に分類されます。貧困は全人口の53%におよび、その63%は農村部に住んでいます。

ギニアの経済状況は、その潜在的な自然資源とは対照的です。ギニアは、ボーキサイト、鉄、金、ダイヤモンド等豊富な天然資源を有しており、 西アフリカ最大の鉱物埋蔵量を誇っています。また、豊富な降雨量(降水量は1,100~4,000ミリ)、土地の利用可能性、温暖な気温など、農牧業・漁業の各分野の発展にとって大きなチャンスとなる要素がそろっています。

ギニアは西アフリカの「給水塔」とも言われ 、6500kmの水路網と4万3000㎦の大陸棚(西アフリカ最大)を持ち、その72%は水深40m未満です。かなりの地表水資源(188㎦)と72㎦の地下水があります。耕作可能な土地は1300万haと推定され、その25%が毎年耕作されています。

自然の牧草地は豊かで変化に富んでおり、1993年の推定面積は7万㎢で、350種近くの牧草が生育しています。約300kmの海岸線があり、小規模漁業発展や近代的漁業の大きな可能性を秘めています。(出典:国家統計局、RGPH3データの分析、2014年)

田植え風景(写真提供:カマラ氏)

米の収穫風景(写真提供:カマラ氏)


貧しい農村部の食料提供と雇用創出に「MSME」が貢献


急成長する農業食品産業は、零細・中小規模の農業食品事業(MSME、工場を介さずに生産者が地元で行う加工のこと)と農業産業企業で構成されています。食品の加工、流通、消費の新しい方法の台頭により、これらの企業はフードバリューチェーンの中心に位置づけられるようになりました。今日、MSMEは、地元産の農産物を使い、都市部や農村部の市場に向けた加工食品を開発することで、都市と農村をつなぐ役割を担っています。

MSMEは、食料への貢献という点でも、農村部と都市部の両方で、特に女性に対する活動と雇用の提供者という点でも、大きな役割を果たしています。MSMEは、できるだけ多くの人々に所得を分配し、購買力の乏しい人々に手ごろな価格で食料を提供しています。

しかし、設備や品質管理の不足、資金調達や専門家のアドバイス、研修へのアクセスが困難なことが、その発展を妨げています。農産業は、より裕福な都市部の顧客や加工食品の輸出に特化しています。


アフリカの過酷な気候に対応できる「気候変動型農業」が課題


──ギニアが抱えている農業分野の課題は何でしょうか?

今後10年間のギニア農業の課題は、(1)成長市場へのアクセス拡大、(2)農業部門の高い生産性、(3)効果的なガバナンスです。

第一に、成長市場。特にサブ・リージョンおよび大陸の成長市場へのアクセス拡大(余剰農産物貿易収支:米およびその他の戦略的産品)で、バリューチェーンの開発(農産物の加工と供給の質)、それに伴う政策措置(経済情報(市場開拓)と輸出奨励策)の必要があります。

第二に、先進地域における高い生産性の向上(水管理:生産地への動員・移転) と開発の強化(農場の価値を高めるための強力かつ相乗的な取り組みの推進)が課題です。

第三の課題は、農業セクターの効率的なガバナンス・資金調達です。
(出典:国家農業開発政策2017(NADP))
新興農業ギニア政策の一環として、ギニア政府は以下の政策を計画しています。

まず、農業セクターの回復力を強化し、脆弱な人々の食料・栄養安全保障を改善することです。気候変動への適応策と気候に適応した農業の推進、土地の劣化と気候変動の主な要因は人間の活動です。気候変動と土地劣化の相互作用は、非常に複雑で予測が難しいものの、さまざまな生態系機能とそれらが提供するサービスに影響を及ぼす可能性が高いです。

これらは食糧生産、生活、人間の福利に大きな影響を与えるでしょう。特に重要なのは、気候変動対応型農業(CIA)の推進です。そのために実施される主な活動は以下の通りです。

  1. 気候保全型農業推進のための国家戦略の策定
  2. 研究と利用者の間で、気候変動に対応した農業の実践と技術の移転を促進すること
  3. 気候知能農業関係者のプラットフォームの設置と発展
(出典:ギニア共和国 PNIASAN 2018 - 2025)

政府による農業機械化とドローンなどのスマート農業が課題


──ギニアにおける機械化について教えてください。

ギニアにおける農業機械化の歴史は、100年以上前にさかのぼります。

今世紀初頭(1910年)に牛(ンダマ種)が引く耕運機が、主に中・上部ギニアで導入されました。1958年にギニアが独立すると、歴代政府は常にすべての農業生産作業の機械化に取り組みました。

農業機械化は、AGRIMA(機械化を担当する旧国営企業)が輸入・管理する5万台の動物が引くプラウと、6000台以上のトラクターおよび付属品の設置によって発展しました。

これらの機材は、この国の潜在的農地面積のごく一部しかカバーできません。さらに、これらの機器のほとんどはアジア諸国、特に中国とインドから輸入されています。(出典:国立農業総局、2016年)

ギニア共和国政府の現在の農業政策では、トラクターやコンバインなどの農業機械の購入、入手のしやすさ、価格に重点が置かれています。農民の大半は、農業機械を購入することも、それをレンタルすることもできないほど貧しいため、農民たちは共同でトラクターやコンバインの代金を支払っています。

このように、ギニア農業の機械化は依然として大きな課題であり、農業機械にお金を払う余裕のない農民は手作業に依存しているのが現状です。

当局による2024年農業キャンペーンの開始。政府保有中国製トラクター(写真提供:カマラ氏)

──ギニアにおけるスマート農業の状況を教えてください

ギニアのインテリジェント農業(いわゆるスマート農業)の現状は、デジタル化(新しい情報通信技術の利用)にも力を入れています。

2021年、ギニアの総合農業開発プロジェクトは、農村振興・農業相談サービスに電気端末、タブレット端末、肥料散布や害虫駆除のための10㎏のドローン2機を提供しました。これらは穀物、園芸作物、多年生作物用で、ギニアで最初に導入されました。

農業にインテリジェント農業機械と新しい情報通信技術を導入することは、ギニア共和国にとって喫緊の課題です。


ギニアの主食は米。日本の稲作技術が食料自給に貢献


──今回のJICA研修を通じて、日本から得たものは何ですか?

JICA筑波の経験は、ギニアの稲作技術の向上において非常に重要でした。

2019年のギニアの耕作面積は192万4161ha、同年の年間生産量は259万9164tでした。

ギニアにおける稲作の種類は、天水稲作、マングローブ稲作、低地稲作です。マングローブ稲作と低地稲作では、農家は苗床を利用することが多いですが、天水稲作では半直播栽培を行います。

ギニア人の主食は米であり、年間90kg以上の米を消費しています。地元の米は主に日本の米と同じ短粒種で、ネリカ米(アジア稲とアフリカ稲の交配種)やその他の輸入品種は長粒種ですが、もちろん他の品種は短粒種です。

ギニア人は地元の米を好んで食べます。例えば、首都コナクリでは、マングローブ米は輸入米よりも価格が高いです。

土地の選択、種子の選択と処理、良い苗床の確立、土地の準備(代掻きと平坦化)、肥料の投与、水管理、そして1ha当たり7~8tの収穫(籾収量)に至る日本の稲作技術は、米の収量が1ha当たり2tがやっとのギニアにおいて、すべての技術が導入される必要がある革新的な内容でした。

さらに、移植機、収穫機、選別機、コンバイン、ドローンなどのインテリジェント農業機械(いわゆるスマート農機)の利用は、農村からの人口流出(村から首都コナクリへの若者の移動)や若者の移民(ギニアからアメリカ、ヨーロッパなどへの若者の移動)によって労力不足に直面しているギニアの農業にとって必要であると感じました。

また、日本の研究と普及活動の相乗効果、各都道府県の生産者の要望と実情に応じた新品種の開発、生産者の組織レベル(農業協同組合)、公的普及とJAによる営農指導という2段階の普及活動もまた、日本で得た経験であり、ギニアで共有するに値するものと思います。

──具体的にギニアで日本の稲作技術を導入するために、どんなことを考えていますか?

日本で得た稲作技術向上の経験をすべて普及させるため、農民への技術移転を改善するための農民学校(farmer field school)という普及手法を確立したいと思います。

農民学校とは、20~30人の農家が集まり、栽培期間中、圃場で行われる会議・研修の場です。経験や知識を交換する場であり、同じ関心を持つ農家が、圃場の実情に基づいた管理について研究・議論し、意思決定する場なのです。

この活動を通じて、農家が実験、議論、意思決定に参加することで、農家に実践的に学ぶ機会を提供します。農民は自分たちの実践を分析し、問題の解決策を見出すための手段を得ることができるのです。

このような手法を通じて、日本で学んだことをギニア全土に普及させたいと思っています。機械化が生産において非常に重要な要素であることは周知の事実であり、これはギニアにとって依然として大きな課題です。農業機械化に関する日本の専門知識は、ギニアにおける食糧自給の達成に大いに役立つと思います。

日本とは異なり、ギニアの労働力不足は高齢化や出生率の低下によるものではありません。ギニアにおける真の労働問題は、先に述べた農村からの人口流出と若者の移民です。

農業の機械化またはインテリジェント農業は、ギニアの生産者にとって必須であると考えています。


まとめ


取材をしながら、カマラさんの熱い思いが伝わってきました。

「日本の高度化したスマート農業が役に立つか」との質問にカマラさんが「私たちの国の未来の姿です」と言われたのが印象的でした。ギニアでも日本と同様、農村の労働力不足が起きているのは意外な驚きでした。日本でも、課題が明確なスマート農業が成功の必須条件です。

ギニア共和国は開発途上国で、スマート農業の導入・普及もまだ時間がかかりそうですが、私たち日本人が忘れかけている「自分たちの国を良くしたい」との熱い気持ちを思い出し、その上で日本の農業やスマート農業普及に取り組む必要性を再確認させられました。

また、日本のJICA研修が開発途上国のリーダーに刺激を与え、今後の国造りの一助になっているようで、うれしく感じました。


【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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