スマート農業を成功させる上で生産者が考えるべき3つのこと【生産者目線でスマート農業を考える 第19回】

日本農業サポート研究所の福田です。弊社は「日本農業の発展に貢献したい」との理念のもと、農産物輸出支援、海外農業視察、IT化等による農業経営改善、企業の農業参入支援などの事業に取り組んでいます。令和元年から約3年間、10件以上の国や県のスマート農業のプロジェクトに関わってきました。

現在、スマート農業はIoT、AI、ロボットおよびICTの農業分野の導入が進められています。しかし、機器が高価で導入が難しく、種類も豊富で何を購入すべきかわからないなど、スマート農機が自身の営農に適しているのかわからない方も多くいらっしゃると思います。

そこで今回は、これまで携わってきた案件・経験を通じて、生産者がスマート農業を導入する際に知っておいた方が良いこと3つのことをご紹介したいと思います。


1. スマート農業開発に携わる生産者・企業・研究者のギャップを埋める


国や県のスマート農業プロジェクトのなかで、興味深いと感じたのは、広島県独自のプロジェクト「ひろしま型スマート農業推進事業(愛称:ひろしまseed box)」です。

他のプロジェクトとの相違点は、広島県が中心となって地元企業や生産者と一緒に事業を進め、生産者のサポートに県職員、特に普及指導員が深く関わっていたところです。

また先月プロジェクトのテーマ選定会議を行い、今回は「トマトの栽培から販売までの効率的な一貫体系の構築」「レモン等の大規模経営の実現に向けた効率的な一貫体系の構築」「中山間地域における100ha規模の水稲栽培の実現に向けた効率的な生産体系の構築」の3つのプロジェクトテーマが決定しました。

こういった地域に根差したプロジェクトは、今後増えていくべきだと思います。
広島県サンワファーム(左から県庁職員、普及指導員、エネコム社3名、大宮農場長)

こうした多くの案件に携わる中で「最初の設計段階に生産者がどのくらい関与しているか」が、その後のスマート農業導入を左右すると感じています。

・具体例
浜松市の中山間地で取り組む「スモールスマート農業」農産物ECでの花き輸送中の課題がデータロガーで明らかに!


上記のプロジェクトでは、生産者を中心に設計されました。もし生産者自身でそれを行うことが難しい場合は、県職員や民間のコンサルタントに委託することになりますが、委託された側が生産者の声をどの程度理解して設計したかが重要になります。

「スマート農業はテクノロジーではない、マネジメントである(東京農工大学 澁澤栄先生)」と言われるように、できれば生産者自身が、それが難しければ普及指導員など外部の支援者が農作物を栽培し、農業経営を運営するうえで困っていることに企業の技術を組み合わせ、マネジメントしなければなりません。

その意味では、これからは生産者も栽培ノウハウだけでなく、より収益を高めて労力も軽減するためにどのようなスマート農機などの技術やツールがあるのかを学び、利益が出せる営農を意識していく必要があると思います。

下図は筆者がこれまで関わってきたプロジェクトで感じたことをまとめたものです。生産者の評価が高いプロジェクトと低いプロジェクトには共通点があることがわかりました。

生産者の評価別にみる共通点

設計段階の生産者の関与、さらに代表機関や進行管理役などの関係者が現場に頻繁に訪問して話し合うことで、生産者とスマート農機の業者等のギャップが埋められ、プロジェクト成功につながっていることがわかります。


2.経営規模に応じた適切なスマート農業を選ぶ


今までのスマート農業は、自動運転トラクターやコンバインなど、高投資な機械化に偏る傾向がありました。なぜそうなったのかというと、国や地方自治体などがまず大規模水田作のスマート農業普及を優先し、そこでモデル構築を行ってきたという事情があったからです。

三重県伊賀市の種子生産のスマート農業実証プロジェクトスマート農機は安くないと普及しない? 」では、圃場1枚ごとに水位センサーと給水ゲートを導入しました。センサーを導入したことでスマホから各圃場の水位確認と給水・止水ができ、見回り時間の短縮によるコストダウンと精密な水管理が行えるようになりました。

今後は中山間地や小規模農業など地域に合ったスマート農業が必要になり、比較的安価な機械化・デジタル化を考えるべきだと思います。

一方、大規模農業法人として福井県鯖江市のエコファーム舟枝の事例「若手後継者を呼び込むスマート農業」では、GPSによるスマート農機の自動走行制御技術を活用した重粘土壌地帯水田の排水性改善、ドローンによる生育診断、収量コンバインで圃場ごとの生産性を把握するなど、さまざまな水田作のスマート農機を使用しています。

スマート農機を使用すると、「KSAS(クボタ スマートアグリシステム)」や「アグリノート」といった営農支援ツールを活かすことができます。営農支援ツールは稲などの水田作がメインなので、GAPを取得している大規模法人は米を管理していくうえで欠かせないものとなっています。

対して、中小規模と大規模の両方でスマート農業実証プロジェクトに関わって感じたのは、営農支援ツールを使った管理方法は家族経営には面倒で長続きしないのではないかということです。これは小規模の家族経営ではすでに紙ベースで記帳しており、その記帳を使用している構成員も限られた方のみなので、アプリを使ってデータを共有する必要性がないからです。

稲作のスマート農機は出尽くした感があります。露地野菜や果樹経営で使えるスマート農機の開発の余地が大きく、この分野がターゲットになってくるのではないでしょうか。


3.スマート農機の普及の現状と今後の方向


農林水産省でも令和3年度補正で予算化し、スマート農機開発・改良の公募が始まっており、野菜や果樹経営で使えるスマート農機などが対象になっています。下図は、私が感じているスマート農業技術の開発・実証・実装の状況です。

スマート農業技術の開発・実証・実装の状況
水田作は小規模な水田や、中山間地を除けばスマート農業は推進されていますが、野菜、果樹、花木などはまだまだ人の手が多くかかっているのが現状です。

生産者には以下の3つのことを頭に入れて、スマート農業導入を検討していただきたいです。

(1)現場の課題を明確にし、その解決のために役立つものを選ぶ

“スマート農業は手段であって、目的ではない”。最近この言葉をよく耳にします。

生産者が“専門家”や“メーカー”の言いなりになってしまい、スマート農業が目的化してしまうことがあります。外部支援者である普及指導員や営農指導員は、生産者から少し離れた客観的立場で目的化しないように助言する必要があると思います。

スマート農機の購入を考えている方は“現場の課題は何か”“それをどう解決するか”などを明確にし、その問題を解決するための手段として、どのようなスマート農機が必要なのかを検討するといいでしょう。これには生産者が普及指導員やコンサルタントなど外部機関の意見を聞いて、客観化することが必要です。

また、検討の際にはインターネットなどで同じような問題を抱えている案件がないか検索し、不明な点があればスマート農機を制作・販売している会社に直接問い合わせると、自分の経営に合ったスマート農機を見つけることができると思います。

ちなみに、生研支援センターでは「戦略的スマート農業技術等の開発・改良」と題し、スマート農業技術・機器の開発が依然として不十分な品目や分野を対象に、生産現場のスマート化を加速するために必要な農業技術を開発・改良する提案を広く募っています。公募締切りは令和4年2月14日(月曜日)正午ですが、興味がある方は応募してみるのもいいと思います。


(2)仲間や地域の人々とシェアリングやコントラクターなどを活用

公募締切りは令和4年2月7日(月曜日) 12時ですが、農研機構の「スマート農業産地形成実証」では産地プロの応募が開始されています。

農水省も個別経営だけでは限界があるという認識はあるようです。今後は、シェアリングやコントラクターの利用も増えると思います。

ただ、浜松市の中山間地で取り組む「スモールスマート農業」で紹介した、若手農家4名で構成されている「春野耕作隊」でシェアリングを実施している山下光之さんは問題点も教えてくださいました。それは、「気心がわかっている生産者同士でないと使いたい時期の調整が難しく、シェアリングしにくい」ということです。

しかし、トラクターによる耕うんより、草刈り機のように多少草刈り時期が多少ズレていても農業生産に影響のないスマート農機の方がシェアリングしやすいとも指摘されていました。農機のコストは抑えられますが、シェアリングする人たちとの関係、それぞれの作物のスケジュール、そしてシェアリングした農機の管理も必要になってきます。


(3)スマート農機の経営評価と技術を見極める

スマート農業の導入には経営的評価が重要です。その上で、生産者自身が導入すべきか決定する必要があります。スマート農機の償却費など新規経費がいくらかかり、どのくらいの労働時間の削減効果があるのか。さらにスマート農機によって収量が増加するのかなどの概算は、ある程度計算できると思います。正確な試算は、普及指導員やコンサルタントなどに聞いた方が良いでしょう。


下図はイノベーションの具備する「スマート農業技術の見極め」5条件です。生産者やスマート農機導入の支援者(コンサルタントなど)は、この5条件を念頭に置いてスマート農業技術を評価し、普及技術かどうかを認識すると良いでしょう。

資料:E.M.ロジャーズ「イノベーションの普及学」より筆者作成
スマート農機の展示会や実演会などには極力足を運び、参加してみてください。スマート農機を実際に見て生産者やメーカーなどの話を聞きいたうえで「代替するアイデアより良いか」「自分の欲求と一致しているか」「操作が複雑でないか」「試行ができるか」「成果が目に見えるか」などを確認し、スマート農機を評価する習慣を身につけていくと良いと思います。


スマート農業技術は「生産者目線」で評価されてこそ役に立つ


コロナ禍になってから、オンラインでのスマート農業関係のセミナーなどが受講しやすくなり、無料の場合も多いようです。実際にスマート農機を使っている生産者から意見を聞くと良いでしょう。

例えば、獣害対策にIoTカメラを導入することは課題が明確です。生産者の要求とメーカーの意図が合致しやすく、「複雑でない」「試行も簡単」「成果も目にみえる」など効果が実感しやすいです。まずは安価で簡単な技術から導入すると費用対効果が理解できると思います。

広島県サンワファームでのIoTカメラ
スマート農業は令和元年頃の黎明期を経て、令和3年ぐらいから成熟期に入っていると言えます。利用するのは生産者自身です。「自分が使えるかどうか」をメインにスマート農機を評価し、普及指導員や民間のコンサルタントの意見を参考に導入するかどうかを決めていくべきだと思います。

昨今のコメをはじめ農産物の価格が下落し、ガソリンや肥料などが経費高になっています。ハードウェアを盲目的に購入するだけでなくドローンや自動操舵トラクターの作業委託サービスも検討し、生産者が「機械化貧乏」に陥らないように、無理なくスマート農業を導入していくことが成功のカギになるでしょう。


株式会社日本農業サポート研究所
http://www.ijas.co.jp/
【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。