若手後継者を呼び込むスマート農業【生産者目線でスマート農業を考える 第5回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、「地上を走るドローンとサポートする普及指導員」と題して、地上走行型ローバーと普及指導員について取り上げました。

普及関係者から、「農業関係者に普及指導員が、スマート農業と連携するというイメージをつかんでもらえるとありがたい」「担当の普及指導員のがんばってる感が伝わっている」などの声をいただきました。ありがとうございました。

今回は、スマート農業技術の導入をきっかけに、若手の新規就農者受け入れを予定している農事組合法人について紹介します。

嬉しいニュース


「農業高校新卒者が弊社に就職する予定なのです。」と嬉しそうに語る農事組合法人エコファーム舟枝の理事長 瀬戸川善一さん。

地域の就農者が年々高齢化し、若手後継者を確保できないなかで、スマート農業を実践する前から、これからの農業は、若い人にとって魅力的でないといけないと常々言われていました。

エコファーム舟枝理事長 瀬戸川善一さん
しかし現実には、若手社員を募集しても全く応募がなく、半ばあきらめかけていました。

突然飛び込んできた高卒社員の入社希望は、瀬戸川さんも予期しない嬉しいニュースになりました。

この農事組合法人は、工事中の北陸新幹線に沿った福井県鯖江市舟枝町にあります。

春になると菜花が美しい、エコファーム舟枝の圃場(福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部提供)
かねてから、スマート農業に挑戦したいという強い思いを持たれていた瀬戸川さんが、平成30年、地元の普及組織である福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部に相談。令和元年、農水省が進める「スマート農業実証プロジェクト」に応募し、採択されました。なお、弊社は経営データの収集・分析を担当しています。

コンソーシアムの概要


まず、プロジェクトの概要を紹介しましょう。

福井県鯖江市は水田面積2000ha(水田率97%)で水稲+大麦+大豆(ソバ)の2年3作体系を基本とした水田農業が展開されています。

近年は菜花を緑肥とした特別栽培米「さばえ菜花米」や水田でのブロッコリーの特産化も進めています。ところが、水田は北陸地域特有の重粘土壌で排水性が悪いため、暗渠排水などが整備されていても大麦や大豆、ブロッコリー等の畑作物の収量が低いという問題点がありました。

また、近年は農家の高齢化により熟練した農機オペレーターが減少し、明渠施工等の作業精度が低下し収量低下に拍車をかけていました。

そこで、中山間地域で持続可能な水田農業を目指し、福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部が中心となり、スマート農業実証プロジェクトの提案書の骨格を作成しました。

自動運転トラクター・クボタSL60Aと有人トラクターの協調作業(福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部提供)
具体的には、以下の通りです。

1.GPSによるスマート農機の自動走行制御技術を活用した重粘土壌地帯水田の排水性改善とドローンによる生育診断を組み合わせます。そして、水田における畑作物の21~42%の収量向上、緑肥の生育量確保による水稲の特別栽培の13%収量向上を目指します。

自動運転トラクター・クボタSL60Aによる溝切り作業(福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部提供)
2.ドローンによる特別栽培米等の生育診断により肥培管理を実施し、さらに収量コンバインで圃場ごとの生産性を把握することで次年度の作付けにフィードバックさせ、水稲、大麦、大豆等の収量性を高位平準化させます。

ドローン MG-1SAKによる農薬散布(弊社撮影)
3.水稲栽培の移植、水管理、防除等の作業労力を30~75%削減して労働生産性を上げることにより経営体の経営面積倍増に備えた営農技術体系を確立します。

以上のスマート農業技術を36haの圃場に導入し、菜花を緑肥とした特別栽培米「さばえ菜花米」や水田でのブロッコリーの特産化をさらに進め、高所得化を目指しています。

とりわけ重要な排水対策では、直進制御でまっすぐな排水溝を作溝できるようになりました。降雨があるとすぐに排水され、湿害を受けることが少なくなり、水稲、大麦、大豆の増収に繋がっています。

菜花米(弊社撮影)

プロジェクトの体制


実証代表者は、エコファーム舟枝の理事長 瀬戸川善一さん、進行管理役は、福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部部長 徳堂裕康さんです。代表機関が農業法人、進行管理役が普及機関で、公的研究機関は参画せず、民間の弊社が唯一の研究機関という、全国でも珍しい体制のコンソーシアムです。

瀬戸川さんは、元々民間企業で勤められており、衣料製造のお仕事で中国とずっと関わってきました。近年、中国が凄まじいスピードで進歩していくのを目の当たりにされ、日本の農業も近代化を急ぐ必要があると強く思われたそうです。

エコファーム舟枝はGAPにもいち早く取り組み、グループ認証の一員として、JGAPの認証も今年7月に取得されています。

また、徳堂さんと共に、実務をこなしているのが、丹南農林総合事務所農業経営支援部技術経営支援課主任の菅江弘子さんです。ほぼ、毎週エコファーム舟枝に通い、実証試験の設計から実施まで一手に担っています。

瀬戸川さんも、「丹南農林事務所の方々は、日常的にサポートしてくれるし、困った時にもすぐに来て相談に乗ってくれる」と普及組織に高い信頼を寄せています。

スマート農業が中山間地農業の後継者を生み出す可能性


次に新規就農予定者とそのサポート体制について紹介しましょう。

県内の農業高校に在籍している非農家出身の男子学生だそうです。

瀬戸川さんは、「まず、勉強を兼ねて1年間みっちり研修したい。それから、自動車やドローンなど資格を取らせてあげたい」と言われています。OJTでこの若い新規就農者を育てる計画です。

大豆を収穫する自動運転アシスト普通型コンバイン・クボタWRH1200(筆者撮影)
当初、この男子学生の就職先として複数の農家が候補に挙がり、最終的にエコファーム舟枝に決まりました。スマート農業技術の導入に高い関心を持ったことや、最新の技術に触れることでスキルの習得や、これからの農業の可能性に期待して判断されたようです。さらには、男子学生の就農後、エコファーム舟枝と関係の強い普及機関などからのバックアップを得られる可能性が高いことも決め手の一つになったと聞いています。

瀬戸川さんは、「高校新卒として、従業員として待遇面でもしっかりサポートしながら、育成していくつもり」と新人育成の方針を話してくださいました。

エコファーム舟枝の約10名のスタッフの平均年齢は65歳程度と高齢化が進行しています。そのため、高齢の担当者には健康不安を訴える方もおられるそうです。

スマート農業を今後の経営の基軸としているエコファーム舟枝にとって、農業の知識を持ち、かつ自動運転トラクターやドローンが運転できる人材は欠かせません。

現在のままではこの法人は、継続できないのではないかと心配されている瀬戸川さんにとって、新規採用者への期待は大きいものがあります。

「若手後継者が入社することによって、波及効果が生まれ、さらに新たな若手参入者を生み出す可能性があり、地域の活性化にもつながる」と瀬戸川さん。

スマート農業が農業のイメージを変え、若い方に魅力的に映っているようです。

福井県では、全国で初めて、県全域をカバーするGPS基地局を整備し、スマート農業の普及拡大を後押ししています。エコファーム舟枝の事例が県内の他の地域にも波及する可能性があります。

筆者も、エコファーム舟枝の今後の動向に注目したいと思います。

※本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(課題番号:中D03、実証課題名:北陸の中山間重粘土壌水田におけるスマート農業技術による麦、大豆、露地野菜や緑肥栽培米(菜花米)の収量向上と省力・低コスト水田農業体系の確立、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。


農事組合法人エコファーム舟枝
https://ecofunaeda.com/
丹南農林総合事務所農業経営支援部
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/tan-noso/hukyubu/top2.html
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WRITER LIST

  1. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  2. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  3. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  4. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  5. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。