みかんの家庭選果時間を50%削減する、JAみっかびのAI選果【生産者目線でスマート農業を考える 第20回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

三ヶ日町農業協同組合(JAみっかび)が新設したAI選果機が、2021年(令和3年)産果実の選果から稼働を始めました。AI選果機の導入に伴い、生産者が出荷前に行う家庭選果に、作業の省力につながる新たな選果基準が適用され、家庭選果時間を50%近く削減することに成功しています。

本題に入る前に、まず、JAみっかびのみかん産地について紹介しましょう。

静岡県によると、平成29年産のJAみっかびのみかんは販売額が70億円、販売単価329円、生産量2.1万t、栽培面積1,422haで静岡県内トップ。日本を代表するブランドみかんの産地です。ここ10数年間、販売額、単価は上昇傾向にあり、栽培面積は維持しているそうです。

みかんの樹は古くなるほど成り疲れにより、翌年度の生産量への影響が著しくなるため、産地では早くから優良品種への更新を進めてきました。「青島温州」を主力品種に育て、高品質生産に取り組んだ結果、1月から3月の市場シェアを高め、他産地に比べ高い単価を維持しています。

AI選果機の活用は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト・中山間地におけるみかん経営の収益向上及び省力スマート生産技術体系の実証」(代表機関:静岡県農業戦略課)の一実証項目になっており、プロジェクトでは令和3年度の目標としては、家庭選果作業の約 50%削減、単価向上 10%を目指しています。

新選果場外観
JAみっかび営農柑橘部柑橘課課長補佐 成澤和久さんのご案内で、AIによるスマート農業の成果をうかがいました。


今回の事例:静岡県三ヶ日町のみかんのAI選果技術

JA三ヶ日でのAI選果作業の様子
JAみっかび管内のみかんの集荷から出荷に至るまでの作業は、従来は、下の表のように、一等品と二等品を選果する作業の2回行っていました。家庭選果(生産者が収穫後に自分で選果すること)に限って言うと、1t当たり2回の作業で70分程度かかっており、年間で60t出荷する生産者の場合、70時間もの大きな負担になっていました。

資料:令和3年度成果報告書より
JAみっかびのAI選果機導入によって、この家庭選果を1回に半減させることができれば、生産者にとって大きな労働負担軽減につながるだけでなく、生産者にといってコスト削減の効果も大きいことになります。

新選果場にみかんを持ち込む農家
農家から持ち込まれたみかん
具体的には、今までの家庭選果では、生キズ、腐敗のある果実、外観格外のもの、二等品を取り除いた一等品のみを出荷し、その後二等品のみを再度家庭選果して2度目の出荷をしていました。つまり、合計2回出荷していたことになります。


AI選果だけでも5割以上の家庭選果時間削減

AI選果では、生キズ、腐敗のある果実、外観格外のものを除外しています。カメラ6台で最大1秒間に8個処理しています。

そのため、2018年から3年間かけて多量の写真を読み込ませる必要がありました。浮き皮、病害虫のチャノキイロアザミウマ、黒点病、生傷などのみかんの写真を数万枚AIに学習させました。

これらの判別は従来、人の目が頼りでした。AIによる選果精度は大幅に向上し、最終チェックを人の目でするだけで良いレベルになっています。

自動で箱詰めされるみかん
青島温州みかんの家庭選果において、AI選果機導入前の選果時間は、一等品の選果時間および二等品の選果時間がそれぞれ107分、28分の合計135分程度であったのに対し、AI選果機導入後の選果時間は69分程度であり、AI選果機導入前に比べて約49%削減しました(下図)。

図 AI選果機導入による早生温州の家庭選果時間減少効果 資料:令和3年度成果報告書より
JAみっかびによれば、AI選果機の導入によって、具体的に以下のような効果がありました。

  • 家庭選果の回数が2回から1回に減少し、実際に選果に従事している時間だけでなく、その前後の作業時間も併せて削減されている。
  • 家庭選果での選果基準が3つから2つに減少し、加工原料となる規格外品を取り除くだけとなったため、選果作業が単純化した。
  • 家庭選果で一等品と二等品とを分けないため、在庫管理が楽になるとともに、従来はそれぞれ分けて選果場へ出荷していたのがまとめての出荷になったため、選果場へ持ち込む回数も減少した。
  • 一等品と二等品の同時集荷となったため、痛みやすい二等品を長く貯蔵庫に置いておく必要がなくなり、腐敗による廃棄ロスの低減が期待できる。
  • 家庭選果や出荷に割いていた時間を、次年度に向けた管理作業等に使うことができる。


AI選果の普及で生産者もJAも軽労化が可能に

同様のAI選果場は他産地でも導入可能と思いますが、産地の規模とJAみっかびのように生産者の強いニーズがあるかどうかが判断材料になると思います。

AI選果機の導入による長期的な生産者の負担軽減は大きく、個人の力では補えない点を公的支援によって実現することで、若い生産者を含めて、カンキツ栽培を魅力的な仕事にしていくことが大きな意味を持つと考えています。

JAみっかびの成澤さんは、「AI選果機によって病害虫を判別したデータを営農指導にフィードバックできるようになります。今後もデータを読みこませて精度を上げていき、家庭選果の50%、単価向上10%アップにつなげ、生産者の作業軽減と所得向上に貢献していきたい」と力強く語ってくださいました。

筆者も日本を代表するみかんの大産地のAI選果機の今後の動向を注視したいと思っています。

本実証課題は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト(課題番号:果2C02、実証課題名:中山間地におけるみかん経営の収益向上及び省力スマート生産技術体系の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。


静岡県庁
http://www.pref.shizuoka.jp/index.html
JAみっかび
https://mikkabi.ja-shizuoka.or.jp/

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。