コロナ禍で急速に進化するICT活用とスマート農業【生産者目線でスマート農業を考える 第7回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、「徳島県のミニトマトハウスで見たスマート農業で、軽労化と高能率化を同時に実現する方法」と題して、Society5.0を先取りした事例を紹介しました。

今回も私が携わったスマート農業実証プロジェクトの事例をご紹介しようと考えていたのですが、2021年1月に首都圏や関西圏を中心に緊急事態宣言が再度発令されました。コロナ禍はしばらく続くと予想され、今後は「アフターコロナ」ではなく「ウィズコロナ」となって常態化されることでしょう。

私は2019年(令和元年)から、スマート農業実証プロジェクトに携わっています。民間のコンサルタントとして企画、提案書の作成はもとより、プロジェクト開始後は生産者に作業日誌を記帳していただいたり、農研機構に提出するための資料としてスマート農業を取り入れた場合とそうでない場合の経営分析をしたりしています。

スマート農業プロジェクトの実証対象生産者は、通常の作物栽培のほかに営農管理ソフトなどを使用した作業日誌の記帳、スマート農機導入時の立ち合い、視察対応などの追加業務が増えています。

コロナ禍になってからは作業日誌の記帳や、推進会議などはオンラインで行うことにしました。2020年前半、オンラインが不慣れな生産者の方々はコミュニケーション不十分になりがちで、負担が大きかったようでした。

そこで今回、私がスマート農業プロジェクトに取り組み始めた2019年(令和元年)と、2020年(令和2年)のコロナ禍での農業を比較し、ICT活用やスマート農業プロジェクトなどスマート農業の取り組みで大きく変わったこと、そして「ウィズコロナ」の時代について展望したいと思います。

また、最後に今後の農業界・スマート農業はどのようになるのかも考えてみたいと思います。

2019年のプロジェクト(コロナが蔓延していなかったとき)


2019年度に始まった「スマート農業加速化実証プロジェクト」で、福井県鯖江市の水田作「農事組合法人エコファーム舟枝」のコンソーシアム(連載第5回)に初めて携わりました。

このコンソーシアムでは、2020年初めまでコロナ感染の心配がなかったので、スマート農機の実演会など、多くの関係者を集めたイベントが行われていました。

2019年8月上旬にエコファーム舟枝の圃場で開催された実演会には生産者、市関係者、普及関係者など約60名が参加。その日は猛暑でとても暑かったことは今でも覚えていますが、かなり密な状態になっていたことは、全く気にしませんでした。

エコファーム舟枝での実演会における主催者挨拶(弊社撮影)

エコファーム舟枝でのロボットトラクター実演(弊社撮影)

また、打ち合わせだけで何度か福井県鯖江〜東京間を往復しました。今思うと、この往復の時間は少しもったいなかったかもしれません。

2020年度のプロジェクト(コロナ禍になった時代)


2020年2月末頃からコロナ感染者数が急増し、事態は一転。政府から緊急事態宣言が発令され、4月上旬から6月前半まで静岡県浜松市の「スモールスマート農業」(連載第1回)、三重県伊賀市の「中山間水稲採種産地向けのスマート農業実証プロジェクト」(連載第3回)を訪問することができませんでした。

そこで、弊社が担当している作業日誌の記帳について、オンラインで生産者、県普及指導員、研究員、営農指導員、営農指導システム開発会社などと情報交換することにしました。

生産者の事務所や自宅には、インターネット回線が装備され、弊社が関わっている8つのコンソーシアムでは、生産者との情報交換に全く問題はありませんでした。しかし、県の農林事務所などいくつかのコンソーシアムではネット回線が整備されておらず、生産者宅に関係者が集まってビデオ会議をするという事態も生じました。

大阪府中河内のブドウ栽培のコンソーシアム(連載第2回)では、ドローン会社(ドローン・ジャパン株式会社)が実施したオンライン現地調査にオブザーバーとして参加しました。ビデオ会議システムだけで、葉色や土壌の状態など細かいことを判断するのは難しいと感じましたが、概要であれば十分理解できました。

特に、大阪府中部農と緑の総合事務所 農の普及課課長の小林彰一さん(普及指導員)による圃場の説明は、カメラで現地を映しながら解説してくださり、現場の状況を理解するのにとても役立ちました。

オンライン現地調査でブドウの圃場を確認しているところ

オンライン現地調査で圃場の様子を説明してくださった小林さん

この例は、普及指導員や営農指導員によるオンライン技術指導の可能性を示唆していると考えています。

またオンラインで、滋賀県や三重県などの普及職員の方々を対象に、何度かセミナーを行いました。セミナー中、参加されている方はミュート(音声をオフにすること)だったので、最初は反応が得られないことに不慣れで少々話しにくく感じましたが、少人数であれば質疑も問題ありませんでした。

三重県の普及職員に対するオンラインセミナーの様子
ほかに、静岡県三ケ日や浜松市の中山間地のコンソーシアムにも、オンラインで現地視察に参加しました。

自動操舵トラクターの走行を映像で見る機会があり、その様子は理解できました。ただ、ラジコン草刈り機の車輪の大きさが山側と谷側で違うことなど、細かい点は実際に車輪を見るまで分からず、オンラインでの現地視察に限界を感じました。

しかし、質疑応答の時間がきちんと設けられていて、疑問点を質問することで理解が深められたので、オンライン現地視察を行った意味はあったと思います。

オンライン視察会の映像(クボタNB21GS、静岡県浜松市天竜区笑顔畑の山ちゃんファーム代表山下光之さん)
ちなみに、複数のコンソーシアムで、生産者の方々とLINEを使った情報交換を行っています。忙しい生産者と時間を気にすることなく情報交換できるので、便利であることを実感しています。

今後の日本の農業の方向性は?


この1年間、コロナ禍で不便は強いられましたが、生産者の方々とオンラインで何度か話していると、実際にお会いした時に初めてのような気がしませんでした。また、不必要な会議が減って業務が効率化できました。

今後、普及指導や営農指導は、オンライン診療のように、非接触のオンライン指導が増えていくだろうと予想しています。実際に会う代わりにオンライン会議が増えたからこそ、このような状況下での数少ない実際の出会いを大切にするようにもなりました。

スマート農業の今後については、省力型の4輪のロボットが急増しています。コロナ禍で外国人技能実習生の来日が難しくなるなか、無人化など省力化技術は必須になっているためです。2021年は省力・非接触のロボットが躍進する予感がしています。もちろん、高価なロボットをJAが所有し、地域でシェアリングするなど、仕組みの構築も欠かせません。


大阪府南河内で実験を行っているイーエムアイ・ラボ社製の農薬散布ロボット

普及指導員や営農指導員の行動が制約されるなか、AI病害虫診断のような、生産者が自分自身で診断できる技術も増えていくことでしょう。

コロナ禍はしばらく続くと予想されます。農業関係者が工夫を凝らして、新しいICTの活用やスマート農業の形を模索していくことになると思います。コロナ禍でマイナスになった面ばかりにとらわれずに、農業関係者が知恵を出し合い、コロナ禍が農業界を大きく変える、前向きなきっかけにしていくべきだと考えています。

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。