徳島県のミニトマトハウスで見たスマート農業で、軽労化と高能率化を同時に実現する方法【生産者目線でスマート農業を考える 第6回】
こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。
前回は、「若手後継者を呼び込むスマート農業」と題して、若手の新規就農者受け入れを予定している農事組合法人について紹介しました。現場に行くと「記事を読んでます」と普及指導員さんなどから声をかけられることが多くなり、うれしく思っています。
今回は、運搬や農薬散布の自動運転ロボットと労務管理ソフトなどを導入し、軽労化と高能率化を同時に実現させた、徳島県のミニトマトの農業法人について紹介します。
徳島県名西郡石井町は野菜園芸が盛んな地域です。しかし、生産者の高齢化に対応した担い手の確保が喫緊の課題となっています。
とりわけ大規模施設園芸では、管理作業や収穫作業が絶え間なく行われていますが、このような状況下で新型コロナウイルス感染症の急激な拡大により、子育て世代の働く人材の確保が困難となっていました。
そこで、みのるファーム株式会社は、徳島県立農林水産総合技術支援センター高度技術支援課の協力を得て2020年(令和2年)、農水省が進める「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に応募し、採択されました。この実証グループの実証代表者は、全県的な課題解決や普及指導員への研修などを行っている徳島県立農林水産総合技術支援センター高度技術支援課課長補佐の三木敏史さん、進行管理役は同じく課長補佐の圓藤勝義さんです。
みのるファームの経営面積は50a。社員5名、パート・アルバイト12名で年間100トンのミニトマトを生産しています。
なお、弊社も計画段階から関与し、プロジェクト開始後は、主に経営データの収集・分析に携わっています。
みのるファームでは、「自動搬送ロボット」「農薬散布用ロボット」の2種類のロボットや「主茎処理機」「アシストスーツ」を導入しています。
その中で、スタッフから、最も評価されているのが、農薬散布用ロボットです。
50aの圃場をこのロボット2台が、約2時間で作業します。動噴を使った手作業との時間数はほとんど変わりないそうですが、動噴の場合、散布担当者とホースを持つ者の2名が必要です。
ところが、ロボットの場合に必要なのは、1レーンの散布終了後にレール間を移動させる1名だけ。つまり、農薬散布の労働力は約50%の削減を実現できるのです。
このハウスはN棟(北棟)とS棟(南棟)という2棟に分かれています。N棟担当の小川貴由さん(25歳)は、農薬散布用ロボットを「一番使える」と評価します。動噴での散布は重労働になりますが、農薬散布用ロボットの場合は、「異常がないか見ていて、レールの端まで来たら次のレールに移動させるだけでとても楽。農薬を被ばくする心配もほとんどなくなった」と、ロボットでの作業の安全面も強調しています。
小川さんは徳島県立農林水産総合技術支援センター農業大学校を卒業し、この法人に就職して3年目です。「入社前、農業は体力的にきついと思ったが、ロボットのおかげで大変な作業はほとんどなくなった」と話しています。みのるファームには他にも若手スタッフが複数おり、作業の軽労化は新規雇用者を集めるのに大きなポイントの一つのようです。
また、みのるファームがある徳島市を管轄する徳島県徳島農業支援センター(徳島県農林水産部東部農林水産局)課長補佐(野菜担当)の佐藤章裕さんによると、「このロボットを使えば、50aに散布するための農薬量は、動噴で撒く場合と比べて約30%少なくて済む。また、ロボットが農薬を均一に散布してくれるので、農薬散布の業務が、経験の浅いスタッフでも作業可能になった」とロボットの効果を説明してくれました。
佐藤さんは、「みのるファームでは、2~3週間に1度、殺菌剤、殺虫剤を散布している。マニュアルに従って、必要最低限の農薬を散布することができる。労働負荷が少ないので適期防除が可能になる。生産者が一番嫌がる被ばくがほとんどないのも大きい」と、ロボット導入による安全面の確保を高く評価していました。
みのるファームでは、労務管理ソフトに株式会社ファームオーエスの「AGRIOS」を導入しています。
スタッフにはタブレットが2~3人に1台用意され、休憩時間に自分の作業を入力します。
これによって、N棟、S棟別の各作業項目の合計時間がわかるだけでなく、スタッフ一人一人の作業項目別の時間も一覧で表示されます。
みのるファーム代表取締役の槙野孝さんは、「作業項目ごとの労働時間のランキングが出るので、他のスタッフとの比較ができる。自分の作業スピードが分かるので、作業のモチベーションを上げ、生産性向上につながっているようだ」とAGRIOS導入の効果を挙げています。
また、日曜日は基本的に休日で、業務はありません。株式会社誠和の「プロファインダー」と「プロファインダークラウド」を導入することで遠隔監視が可能になったからです。
みのるファーム取締役農場長の板東一宏さんは、「休日にも、ハウスの様子がスマホでわかるので、異常があった時だけハウスに行けばいい」と強調していました。
政府は「Society 5.0」を推進し、バーチャルとリアルの空間の融合を謳っています。みのるファームでは、各種ロボット、労務管理ソフト、環境監視システムを導入して、ハードとソフトの両面からSociety 5.0を先取りして、スタッフの軽労化、労力削減、高能率化を進めていると言えます。
また、板東さんは「昨年より1名少ないスタッフで回せるようになった」とも述べており、「スマート農機による省力効果が、追加コストをしっかりカバーできている」と、スマート農業の効果を実感しているようです。
慢性的に労働力が不足するなか、農業が若いスタッフにとって魅力的な職業であるためにも、今後はこのようにスマート農業を導入し、新しい農業経営像を示していく必要があります。みのるファームの事例はそのモデルの一つになるのではないでしょうか?
みのる産業株式会社
http://www.minoru-sangyo.co.jp/
徳島県立農林水産総合技術支援センター
https://www.pref.tokushima.lg.jp/tafftsc/
徳島農業支援センター
https://www.pref.tokushima.lg.jp/shien/tokushima/
前回は、「若手後継者を呼び込むスマート農業」と題して、若手の新規就農者受け入れを予定している農事組合法人について紹介しました。現場に行くと「記事を読んでます」と普及指導員さんなどから声をかけられることが多くなり、うれしく思っています。
今回は、運搬や農薬散布の自動運転ロボットと労務管理ソフトなどを導入し、軽労化と高能率化を同時に実現させた、徳島県のミニトマトの農業法人について紹介します。
今回の事例:徳島県石井町のミニトマト栽培でのスマート農業導入事例
徳島県名西郡石井町は野菜園芸が盛んな地域です。しかし、生産者の高齢化に対応した担い手の確保が喫緊の課題となっています。
とりわけ大規模施設園芸では、管理作業や収穫作業が絶え間なく行われていますが、このような状況下で新型コロナウイルス感染症の急激な拡大により、子育て世代の働く人材の確保が困難となっていました。
そこで、みのるファーム株式会社は、徳島県立農林水産総合技術支援センター高度技術支援課の協力を得て2020年(令和2年)、農水省が進める「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に応募し、採択されました。この実証グループの実証代表者は、全県的な課題解決や普及指導員への研修などを行っている徳島県立農林水産総合技術支援センター高度技術支援課課長補佐の三木敏史さん、進行管理役は同じく課長補佐の圓藤勝義さんです。
みのるファームの経営面積は50a。社員5名、パート・アルバイト12名で年間100トンのミニトマトを生産しています。
なお、弊社も計画段階から関与し、プロジェクト開始後は、主に経営データの収集・分析に携わっています。
自動搬送&農薬散布ロボットで労働時間削減&軽労化
みのるファームでは、「自動搬送ロボット」「農薬散布用ロボット」の2種類のロボットや「主茎処理機」「アシストスーツ」を導入しています。
その中で、スタッフから、最も評価されているのが、農薬散布用ロボットです。
50aの圃場をこのロボット2台が、約2時間で作業します。動噴を使った手作業との時間数はほとんど変わりないそうですが、動噴の場合、散布担当者とホースを持つ者の2名が必要です。
ところが、ロボットの場合に必要なのは、1レーンの散布終了後にレール間を移動させる1名だけ。つまり、農薬散布の労働力は約50%の削減を実現できるのです。
このハウスはN棟(北棟)とS棟(南棟)という2棟に分かれています。N棟担当の小川貴由さん(25歳)は、農薬散布用ロボットを「一番使える」と評価します。動噴での散布は重労働になりますが、農薬散布用ロボットの場合は、「異常がないか見ていて、レールの端まで来たら次のレールに移動させるだけでとても楽。農薬を被ばくする心配もほとんどなくなった」と、ロボットでの作業の安全面も強調しています。
小川さんは徳島県立農林水産総合技術支援センター農業大学校を卒業し、この法人に就職して3年目です。「入社前、農業は体力的にきついと思ったが、ロボットのおかげで大変な作業はほとんどなくなった」と話しています。みのるファームには他にも若手スタッフが複数おり、作業の軽労化は新規雇用者を集めるのに大きなポイントの一つのようです。
また、みのるファームがある徳島市を管轄する徳島県徳島農業支援センター(徳島県農林水産部東部農林水産局)課長補佐(野菜担当)の佐藤章裕さんによると、「このロボットを使えば、50aに散布するための農薬量は、動噴で撒く場合と比べて約30%少なくて済む。また、ロボットが農薬を均一に散布してくれるので、農薬散布の業務が、経験の浅いスタッフでも作業可能になった」とロボットの効果を説明してくれました。
佐藤さんは、「みのるファームでは、2~3週間に1度、殺菌剤、殺虫剤を散布している。マニュアルに従って、必要最低限の農薬を散布することができる。労働負荷が少ないので適期防除が可能になる。生産者が一番嫌がる被ばくがほとんどないのも大きい」と、ロボット導入による安全面の確保を高く評価していました。
労務管理ソフトにより労働生産性が向上
みのるファームでは、労務管理ソフトに株式会社ファームオーエスの「AGRIOS」を導入しています。
スタッフにはタブレットが2~3人に1台用意され、休憩時間に自分の作業を入力します。
これによって、N棟、S棟別の各作業項目の合計時間がわかるだけでなく、スタッフ一人一人の作業項目別の時間も一覧で表示されます。
みのるファーム代表取締役の槙野孝さんは、「作業項目ごとの労働時間のランキングが出るので、他のスタッフとの比較ができる。自分の作業スピードが分かるので、作業のモチベーションを上げ、生産性向上につながっているようだ」とAGRIOS導入の効果を挙げています。
環境監視システム導入で日曜休業の「楽農」を実現
また、日曜日は基本的に休日で、業務はありません。株式会社誠和の「プロファインダー」と「プロファインダークラウド」を導入することで遠隔監視が可能になったからです。
みのるファーム取締役農場長の板東一宏さんは、「休日にも、ハウスの様子がスマホでわかるので、異常があった時だけハウスに行けばいい」と強調していました。
政府は「Society 5.0」を推進し、バーチャルとリアルの空間の融合を謳っています。みのるファームでは、各種ロボット、労務管理ソフト、環境監視システムを導入して、ハードとソフトの両面からSociety 5.0を先取りして、スタッフの軽労化、労力削減、高能率化を進めていると言えます。
また、板東さんは「昨年より1名少ないスタッフで回せるようになった」とも述べており、「スマート農機による省力効果が、追加コストをしっかりカバーできている」と、スマート農業の効果を実感しているようです。
慢性的に労働力が不足するなか、農業が若いスタッフにとって魅力的な職業であるためにも、今後はこのようにスマート農業を導入し、新しい農業経営像を示していく必要があります。みのるファームの事例はそのモデルの一つになるのではないでしょうか?
※本実証課題は、農林水産省「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証(課題番号:施wG02、実証課題名:ミニトマト栽培におけるスマート農業技術を活用した省力・軽労化体系の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。
みのる産業株式会社
http://www.minoru-sangyo.co.jp/
徳島県立農林水産総合技術支援センター
https://www.pref.tokushima.lg.jp/tafftsc/
徳島農業支援センター
https://www.pref.tokushima.lg.jp/shien/tokushima/
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