ブドウ農園でのセンサー+自動換気装置に加えて必要な“ヒトの力”【生産者目線でスマート農業を考える 第13回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、「IoTカメラ導入&IoT電気柵導入でわかった、中山間地での獣害対策に必要なこと」と題して、獣害対策へのIoT利用について紹介させていただきました。

最近、スマート農業の事例についてのお話を聞くことが多くなっているのですが、スマート農業の技術論が多く、生産者視点が欠けているのではないかと思っています。自分自身の記事は生産者視点であることを忘れないように心がけていきたいと考えています。

さて今回は、大阪府のブドウ園の事例です。温湿度監視センサーと自動換気装置によってブドウの高温障害を防ぎ、作業時間半減を実現。生産者から品質向上および省力効果などが高く評価されています。


今回の事例: 大阪府柏原市のブドウ栽培における温湿度監視センサーと自動換気装置の活用事例


大阪府柏原市の生駒山系高尾山麓地域は明治時代に旧堅下村に属し、日影樹から産業として地域特産品「柏原ぶどう」の生産を開始しました。現在、府内第2位の面積(140ha)を有しています。なお、大阪府のデラウェア栽培面積は全国3位です。

販売形態は主にデラウェアの市場出荷と直売で、他にもピオーネ、シャインマスカット、ベリーA、巨峰、甲州などを栽培しています。府内でいち早く直売と観光農業を開始しワインも全国的に有名です。


大阪府柏原市の位置(「かしわらイイネット」より)

実証ブドウ園(筆者撮影)

この産地には以下の課題があります。
  1. 温暖化による果実品質の低下
  2. 高収益品種の導入
  3. 高齢者のリタイアによる遊休園地の発生
  4. 人件費の高騰と人手不足

そこで、大阪府中部農と緑の総合事務所 農の普及課が中心となり、スマート農業技術によるデラウェア栽培の省力化・高品質化と大粒ブドウ品種導入拡大を提案。農研機構が行っている令和2年「スマート農業実証プロジェクト」に採択されました。

このプロジェクトでは、代表機関・大阪中河内農業協同組合、進行管理役・大阪府中部農と緑の総合事務所 農の普及課などがコンソーシアムを構築し、実証試験を進めています。弊社もコンソーシアムのメンバーになっています。

導入されている技術のうち、陸上を走るドローン「地上走行型ローバー機」については、連載4回目「地上を走るドローンによるセンシングをサポートする普及指導員」ですでに紹介しています。

自動換気装置と温湿度センサーで省力化


大阪府中部農と緑の総合事務所 農の普及課課長の小林彰一さんは、このプロジェクトの設計時に、管内のとあるブドウ生産者さんが先行的に自動換気装置を付けていることに注目していました。

「気温に合わせて、ビニールハウス側面の巻き上げ・下げが生産者の負担になっている。自動換気装置はシンプルで効果も明確。他の生産者にも受け入れられるに違いない」と感じていました。

そこで、温湿度センサー端末を新たに加え、ハウス環境監視によるハウス温度管理の最適化と、高温障害回避により早期出荷と高品質化および高収益化を図ることにしました。

ハウス内に設定した温湿度センサーによりハウス環境を監視。併せて、自動換気装置(マスプロ電工「LPWA温度センサー」、誠和「くるファミAceⅢ」)によって温度制御を行います。

これらの技術の導入によって、従来、高温障害による着色不良割合が5%程度あったものを「発生なし(0%)」まで軽減して高品質化を図るのを目標としています。さらに、自動換気装置によって換気作業省力化20%削減も目標に掲げています。

マスプロ電工の「LPWA温度センサー」(筆者撮影)
マスプロ電工の「LPWA温度センサー」のパソコンでの表示画面(6月23日)
誠和の「くるファミAceⅢ」(筆者撮影)
さらに、夜間から早朝にかけて保温効果を高めることで収穫時期が7~10日程度前進し、高単価を実現すると見込んでいます。


自動換気装置により作業時間を大幅に削減


IT企業技術者の乾陽介さんが代表を務める乾農園は、ハウス栽培約48a、露地栽培約17aの計65aあり、デラウェアやシャインマスカットなどを栽培しています。以下の図は、この乾農園で2021年1~4月までの総換気作業時間を比較したものです。

自動換気装置によって見回り時間が大幅に削減され、総換気作業時間が約50%削減されていることがわかりました。これは当初期待していた20%に比べ、2倍以上の削減効果です。

デラウェアを収穫する乾農園の乾陽介さん(筆者撮影)

「乾農園」代表・乾陽介さんは「マスプロ電工の温度センサーはハウス環境を表やグラフで“見える化”するので適切な管理ができるようになりました。ハウスのデラウェアの生育に関しては、昨年に比べて1週間程度早いですし、収量が多くなると思います」と生産増に期待しています。

また今回、自動換気装置は自宅から遠い圃場2カ所に設置した(下図参照)ので、圃場に行かなくてもいい日があり作業的に楽になったそうです。


乾農園の換気時間と閉館回数(生産者作業日誌記帳結果から弊社山田正美作成)

「手動でビニールの巻き上げ・下げ作業は結構疲れますが、機械が自動的に開閉をしてくれるのでラクになりました。この技術はさらに普及すると予測しますが、無風で晴天の時はサイドビニールを全開しても温度が40度を超えることが多々あります。これはビニールの開閉だけでは完全な制御はできないので、風を循環させるファンなどの導入が必要だと考えています」と解説してくださいました。やはり、最近の高温下にあって、ビニールの開閉だけでは、ハウス内温度を下げるのに十分ではないようです。

また、デラウェアなど157a(ハウス134a、露地23a)を栽培する「かねおく」代表・奥野成樹さんも、ブドウの生育状況について「今年のぶどうの生育状況は全体として10日ほど早く、巻上機をつけた畑はさらに数日早いです。収量は去年よりは良くなる見込みです」と、自動換気が期待通りだったと述べています。

温湿度センサーについても「すごく良いですね。インターフェースが見やすく性能も安定しています。特に警報メールが良いです。巻上機故障の際にぶどうを痛めないので非常に役立ちます。収穫期が早まることで収入増も期待できるので、大阪府の全ブドウ農家が導入した方がいいのではないかと思います」と、その高い効果を実感しています。



普及指導員の知見をIoTセンサー活用に活かす



左から乾農園代表・乾陽介さん、大阪府中部農と緑の総合事務所 農の普及課課長・小林彰一さん、かねおく代表・奥野成樹さん(弊社撮影)

 

温湿度センサーや自動換気装置を使用することで、運用上の課題も明らかになってきました。たとえば、ハウスの温度センサーが40度になると警告メールが来るように設定していましたが、6月に入ると最近の温度の上昇で40度以上になることが増え、警告メールの多さに生産者が煩わしく感じるようになったそうです。そこで、ブドウへの高温障害の可能性が低いことを確認した上で、温度の上限を40度から45度に変えました。

この設定変更は普及指導員の小林彰一さんと生産者2名がスマートフォンのチャットツールを使い、話し合って決めました。システムを実情に合わせるためには運用上の工夫は欠かすことができません。コロナ禍で対面が制限され、さらに農繁期になると忙しくなる生産者は、農作業の空いた時間に連絡がとれる「チャットツール」を上手に活用しています。

一方、警告メールの標題に園地名がなく、どこからのメールかわからず不便なので、改善して欲しいとの生産者から要望がありました。これは6月初めに改良されました。



導入よりも運用の際に、栽培の専門家の知識が必要


今回、「室温センサー」「自動換気装置」「警告メール」を取り入れて、お二人の生産者はブドウ栽培に上手に活用していましたが、夏が近くなるとハウス内が暑くなり「警告メールの微調整」「ファンの導入」などが必要になりました。普及指導員や営農指導員含めたチャットツールを利用することで、早期に対処できましたが、このように導入当初では予想しえなかった問題点が出てきます。

スマート機器を導入したら終わりではなく、環境変化や生産者のニーズに応じて柔軟に運用することが不可欠です。この場合、生産者の良き相談相手として、気軽に連絡できる普及指導員や営農指導員などの存在も欠かせません。

現在、スマート農業では良い技術が出そろってきた感がありますが、初めから完成した技術などありません。技術を使うのは生産者である人間。誰でも簡単に現場で使える技術にし、さらに普及させるには生産者や普及機関など関係機関が協力して、成功と失敗を繰り返し、迅速に改善していく柔軟性が重要だと考えています。

筆者は、これからも生産者の声に耳を傾けながら、スマート農機を改善していくことがスマート農業の普及に重要になると考えています。



大阪府中部 中部農と緑の総合事務所
http://www.pref.osaka.lg.jp/chubunm/
かねおく
https://budou-o.com/
乾ぶどう園
http://www.eonet.ne.jp/~y-inui/grape/
乾ぶどう園オンラインショップ
https://www.iefc.wjg.jp/EC/html
いぬいぶどう村
https://budou-i.com/
株式会社誠和
https://www.seiwa-ltd.jp/
マスプロ電工株式会社
https://www.maspro.co.jp/

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    田中克樹(たなかかつき)。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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