全国初! 福井県内全域をカバーするRTK固定基地局はスマート農業普及を加速させるか?【生産者目線でスマート農業を考える 第10回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、キャベツ栽培を「見える化」へ導く「クロノロジー型危機管理情報共有システム」とは? と題して、広島県と岡山県の事例を紹介させていただきました。最近、今までの連載に興味を持たれた方からの問い合わせがあり、うれしく思っております。

今回ご紹介するのは、全国初の県全体をカバーするRTK(GPS)固定基地局を整備し、3月1日から運用を開始した福井県にあるNOSAI福井(福井県農業共済組合)です。鯖江市でロボットトラクターの走行試験を行った様子を視察してきましたので、報告します。

今回の事例:福井県全域をカバーするRTK固定基地局を県内5ヵ所に設置


1. 福井県の課題と背景


従来の人工衛星(GPS等)のみの位置情報を利用し、自動操舵トラクターなどを走らせると30㎝以上の誤差が生じます。そのため、トラクターによる溝掘りや播種・防除など高い精度が求められる作業には、移動式のRTK基地局を設置する必要があり、予算的にも労力的にも生産者の負担になっていました。

「RTK」とは“Real Time Kinematic”の略。地上に設置した、「基地局」からの位置情報データによって、高い精度の測位を実現する技術のことです。今回設置された、RTK固定基地局は、1カ所の基地局で半径約20㎞をカバーすることができます。

福井県では、県内全域をカバーするためにこのRTK固定基地局を5カ所に整備し、移動式の「基地局」を不要にすることで、スマート農業の普及を後押しすることにしました。

固定基地局設置場所とカバー地域イメージ図

2.今回導入されるRTK固定基地局と利用できる農機について


RTK固定基地局の一つがNOSAI福井(福井県農業共済組合)に設置されました。

今回、NOSAI福井が導入したのは、基地局からの補正データをインターネットで配信する「Ntrip方式」を採用。他の方式と比べて、利用者の初期導入費と維持費が安いのが特徴です。

RTK固定基地局が設置してあるNOSAI福井(筆者撮影)

農機側は配信された補正データをスマートフォン(ただし、アンドロイドのみでiPhoneは不可)を介して受信しながら、搭載された自動操舵機器とブルートゥースを利用して連動することにより、精度の高い作業が可能になります。

出典:NOSAI福井作成資料より

NOSAI福井 総務部企画グループサブリーダーの田中克典さんは「自動運転による高精度な作業が可能となることで、作業時間の削減や労力の軽減につながるなど多くのメリットが期待されています。生産者の注目度も高く、近県からの問い合わせも多いです」と話されていました。

RTK固定基地局のGPS受信用アンテナ(筆者撮影)

上の写真のように、NOSAI福井の建物に取り付けられたアンテナがGPSのデータを受信し、建屋内のサーバーを使用してデータを補正。インターネットを経由して補正データが作業機に配信されます。

このシステムの対象作業機は、有人無人の自動運転が可能なロボット農機(トラクター、田植機、コンバイン)のほか、従来のハンドル操作の農機に自動操舵システムを装着したものも含まれます。後付けで装着できるガイダンスシステムを導入することで、今まで熟練の農業者の経験と勘で行っていた作業を『見える化』できます。

経験の浅い農業者や女性の方でも「より簡単」に「より正確」な作業が可能となり、さらなる作業の省力化が見込まれます。

RTK固定基地局のサーバーとNOSAI福井 総務部企画グループの田中克典さん(NOSAI福井提供)

3. RTK固定基地局下でのロボトラの走行試験


2021年3月19日、整備されたRTK固定基地局下にある福井県鯖江市農事組合法人「エコファーム舟枝」の圃場で、ロボトラ(株式会社クボタ製アグリロボトラクタ「SL60A」)の走行試験を行いました。

ロボトラ(クボタ「SL60A」)のGPS受信アンテナ(筆者撮影)
無人で旋回し、一度耕うんした箇所が重ならないように進むロボトラ(筆者撮影)

無人運転で高精度に直進・旋回作業ができました。また生産者による操作は、遠隔操作で簡単に行えました。

つまり、熟練者のトラクター運転手である必要がなく、遠隔操作を行う人が一人いればいいということになります。さらに、熟練者でも2~3㎝という精度でのトラクター作業は困難ですが、この方式を使えば運転経験が少ない方や初心者の方でも、高精度でのトラクター作業が可能になります。ただし、最初の運転は、操作方法をメーカーの方から説明をしてもらう必要があるようです。

エコファーム舟枝の武佐政幸さんは「今回の試験で、RTK固定基地局の補正情報がうまく受信でき、固定基地局を利用した作業精度が良好だった」と評価しています。

ロボトラとエコファーム舟枝の武佐政幸さん

4.課題と今後の方向


今回はロボトラを対象に、RTK固定基地局の機能試験をしましたが、後付けの自動操舵システムを従来の農機に装着することでも同様の作業が可能となります。

スマート農業をさらに普及させるためには、生産者の自助努力だけでなく、このNOSAI福井の事例のように、行政などからのサポートが重要になってきます。福井県ではこのRTK基地局の設置に加え、スマート農機の導入への支援事業もあるようです。

ロボット農機や自動操舵システムに係る新たな投資は、小規模農家には大きな負担です。問い合わせも数ヘクタール規模の生産者が多く、中規模程度以上の水稲や畑作農家に適した技術のようです。

しかし、RTK固定基地局の設置は行政による支援の後押しがあることでスマート農業のハードルが下がり、スマート農業に挑戦しやすい環境が整ったと言えるのではないでしょうか。今後も、スマート農業の普及を積極的に進める福井県の新たな取り組みに注目したいと思っています。



NOSAI福井
https://www.nosai-fukui.jp/
エコファーム舟枝
https://ecofunaeda.com/
株式会社北陸近畿クボタ
http://www.hokurikukinki-kubota.co.jp/

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    田中克樹(たなかかつき)。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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