カリフォルニアでの大区画水田作業は、実は効率が悪い?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.16】

海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦しながら、オリジナルブランドを開発し定着・普及させた株式会社田牧ファームスジャパンの代表取締役、田牧一郎さんによるコラム

区画が大きいアメリカ・カリフォルニアのコメ生産は、低コストで栽培され価格競争力があると言われています。しかし、規模が大きくなればなるほど、作業面積も作業人員も必要になるはず。これは真実なのでしょうか。

今回は、カリフォルニアでのコメ生産において、種を播くまでに必要な水田の準備作業にはどのようなものがあり、どれくらいの時間がかかるのか、田牧さんの経験から分析していただきました。必ずしも大規模圃場=高効率とはならないケースもあるようです。


250haもの大区画で栽培される、カリフォルニアの農地区画


日本で一般的な30a、60aといった区画の水田は、カリフォルニアの水田の広さと比べれば小区画です。一度に作業できる広さという意味で、数字だけを見れば日本の方が価格競争力のないコメづくりと考えてしまいがちです。

たしかに、カリフォルニアの水田に飛行機で種を播くためにかかる時間は、64haの面積が3時間程度で済んでしまいます。しかし、これまで飛行機やドローンによる「播種」の効率を中心に言及してきましたが、イネの栽培にはこれ以外にも必要な作業があり、それぞれに時間がかかります。

今回は、カリフォルニアと日本の播種までの作業時間と効率を考えてみましょう。

私が耕作していたカリフォルニアの土地の区画は、縦横1マイル(1.6㎞)四方の256ha です。この面積を4等分(縦横800m×800m=64 ha)した64haを、標準的な区画として耕作に使っています。

この256haの中には、水田を囲むように管理用の道路も含まれ、高低差を利用して土地の高い方に用水路、低い方には排水路を設置しています。さらに、ほぼ一定の間隔で仕切りの畔(あぜ。約60mごと)を入れ、水は田越しに流して区画ごとの水位を調整しています。また、雨水や灌漑用水の排水のためにも、一定の勾配(1000分の2)の傾斜がつけてあり、水田の端と端では1.6mの高低差があります。


日本の水田で田植えをするまで


日本では、ほとんどの水田が30×100m(30a)に区切られています。これを2枚合わせて、60aや120aの区画にしている方もいるのではないでしょうか。

今回は、比較しやすいように60aを基準として作業時間を算出してみました。まずは日本のイネ移植までの作業時間です。狭い分かかる時間は短くなっていますが、圃場面積を拡大してもつなげて効率化することが難しいため、ひとつひとつの圃場ごとに作業が分散してしまい、かえって時間がかかってしまいます。


カリフォルニアの水田でイネの種まきをするまで


カリフォルニアの水田は強い粘土質の土壌が多く、乾きも良くありません。春の作業は土が乾くのを待つ時間も含めて、種を播くまでに多くの作業工程を必要とし、日数もかかるのです。

荒起こし作業で使用する「チゼルプラウ」という機具。春最初に、水田の土を乾かすために使う

カリフォルニアの水田で、イネの種まき作業をするまで


大区画ゆえに重要かつ時間が必要な「畔耕起」


約50年前からカリフォルニアの水田は、等間隔の直線で区切られた形に整備されてきました。それ以前は等高線で畔を作り、水を溜めてイネを栽培していましたが、この方式で区切った水田は、畔が曲がりくねっていて大型機械での作業は、非効率になってしまいます。

特に、収穫時は刈り巾5.4m前後の300~400馬力の高額大型コンバインによって刈り取りをするので、曲がりくねった等高線の畔は可能な限り直線の水田区画にする必要がありました。

その作業をするための機械として、土木工事用の土を運ぶスクレーパーや、レーザー光線で農地の高さを測定しながら土を動かし、ならしていく均平作業用レベラーとしてさまざまな機具が開発され、水田地帯で使われるようになりました。

畔を直線にすることで固定化し、大型機械類の作業効率を向上させてきたカリフォルニアのコメ作りですが、その畔も毎年手入れをしなくてはいけません。5ha前後(幅65m×長さ800m)の水田に水を溜めると、風による波もかなりの高さになります。

しっかりした畔を作らないと、種まき直後に波に洗われて崩れることもあります。種まき後に畔が壊れると稲の生育が遅れてしまったり、除草剤の効果がなくなったりするので最優先での畔の修理は絶対に避けられない作業になります。

そのため、トラクターで幅の小さいディスクを牽引し、何度も往復して畔を耕します。ネズミやモグラの穴を塞ぎながら、雑草の根も一緒に切ってすき込むようにするので、種まき後の一定期間は雑草の成長を遅らせることにも繋がっています。

畔の手入れは土と雑草の状態によって違いますが、1.5m程度の小さなディスクを100馬力以下の管理作業用のトラクターで牽引。2~4往復し、土を細かくしながら耕します。

畔を耕すために使っていた1.5m程度の小さなディスク

縦横800m(64ha)の水田を60m間隔で畔を作って仕切ると、60×800m(4.8ha)の水田が12枚と、80×800m(の6.4ha)の水田が1枚できます。1本の畔を4往復するだけで6.4㎞走行することに。

100馬力のトラクターで60×800m(4.8ha)の水田を時速3㎞で作業をすると、約2時間かかります。水田は12枚ありますので、合計24時間かけて畔の耕起作業による補強・整形作業が完了します。

畔耕起の専用機械(リッジャー)を使っても、3~4往復しないと収穫時期まで補修をしないで水を溜めておくのは困難です。それでも全部の畔を耕すのには、休まずトラクターを運転しても2日がかりの作業になります。

畔を作り、耕す「リッジャー」という専用の機具

重労働で人力作業も必須となる「水口作り」


こうして作った畔ですが、1つの畔には、両端に1ずつ2つの水口を設置します。この水口作りの作業は人力も必要で、バックホーを運転してもらいながら直径1mを超えるパイプと、入口の水位調整板を入れるための水の入り口が一体となったパイプと畔を崩して水田の高さに合わせて置き、畔の両側の土を使って水口を固定します。

64haの圃場内の高い位置にある水田入り口と、最も低い水田の排水に大きな水口をそれぞれ1、さらに12本の畔に2水口を作らないといけないので、26個の水口を設置することになります。合計52時間(2人で1チームとなって4日間)で仕事が完了し、ようやく水を入れ始めることができます。


大型機械を使うカリフォルニアでも、種まきまでには17〜25日かかる


上記の表「①荒起こし作業」から「⑨水口作り」までの9工程の作業を、64haの水田区画で終えるには、下記の時間(日数)が必要です。


※①〜⑧は1日=8時間作業、⑨は1日13時間作業。時速10㎞の水田作業は200~300馬力クラスの大型トラクターでの作業

上記の作業別所要時間の合計は、248時間(10時間/日)で約25日間。つまり、64ha の播種床づくりから種まきまで、約25日で作業が完了することになります。

ただ、カリフォルニアでは夜間でもトラクター運転手を雇い、24時間継続して作業するため、実際にすべての作業を完了するには約10日(作業期間の途中で雨が降らない場合)で終了し、水入れが可能となります。この点は日本とは大きく異なる部分です。

しかし、この期間中に1日でも雨が降ってしまうと作業を数日間待つことになり、土が乾くまで待たなければならず、水を入れ始めるまでに多くの日数がかかることになります。また、畔に水口を作る作業のために、水田に十分な水が行き渡るまで1週間程度かかります。

入水を行う高い位置の水田から作業を開始し、何枚かの水田での作業を先に終わらせて水を入れ始めることもありますが、どれだけトラクター作業を急いでも10日かかり、種を播くまでには合計17日間は必要となります。

ちなみに、日本の移植栽培に必要な本田準備作業は、合計160時間。10時間/16日間と考えると、ほぼ同じ期間で移植が可能となります。

このことから、「水田に種を播く」あるいは「苗を植える」までの本田準備作業コストは、水田の区画の大きさの違いではないことが言えます。

そして、本田準備完了後の直接栽培の作業が生産コストの大きな差を出します。水田区画の大小とイネの栽培面積の差で生じているわけではありません。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。