日本産米の輸出を阻む「輸送コスト」の解決策【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.22】
これまでもご紹介してきたとおり、アメリカで流通している「ご飯にして食べる」良質米は、カリフォルニア産の中粒品種と短粒品種です。現地アメリカではここ数年、さまざまな理由で生産量が減少しています。そしてそれは、日本産のコメの海外輸出を実現するためのチャンスとも言えます。
実際、農林水産省が公表している日本産主食用米の輸出量も輸出額も、2023年はアメリカを中心に多くの国で増加していることは確かです。ただし、それは必ずしも日本のコメが世界で食べられるようになったから、というわけではなく、現地のコメが不作で手に入らないために、需要があったから売れた、という側面もあります。
そこで今回は、アメリカの米食がどのような状況になっているのか、2022年のデータを参照しながら振り返ってみたいと思います。
カリフォルニア州の米作地帯は、近年の水不足から、2022年の作付面積は前年の63%に減少。収穫量も前年の反収よりも2%の減少で、前年対比62%に減少し、102万トン(乾燥籾ベース)となりました。
それに伴い、カリフォルニア産米の価格はそれまで安定していた約1ドル(1kgあたり。以下同)から10%も急上昇。さらに、作付面積の推定値が発表された4月と、政府事務所に生産者からの作付面積確定届けが出て集計され発表された6月にそれぞれ約10%ずつ、合計で20%も上昇。
2022年10月現在、1㎏あたり1.35~1.4ドルほどになっています(※価格はアメリカドルでカリフォルニア産中粒種白米の、精米工場バルク渡し価格)。精米工場バルク出荷価格1㎏あたり1.4ドルは、1ドル=144円で計算すると、1kgあたり202円となります。
これに5㎏入り小売り用コメ袋の価格、袋詰め費用など(約20円)を加えると、222円 (1,110円/5kg 袋入り精米工場渡し)になります。この価格にさらに精米会社の間接経費と利益が加わって、5㎏入り商品の精米工場出荷価格になります。
これは推測ですが、現状のカリフォルニアの精米工場では製品のコストに対し30%前後を間接経費と利益として上乗せし、288円(1,440円/5kg袋入り)が工場出荷価格になっているのではないかと思います。
次に、日本食を販売しているロサンゼルスの大手日系スーパーマーケットチェーンでのカリフォルニア産中粒玄米と、日本から輸入して販売されている短粒白米の価格を比較してみました。
■アメリカでご飯として食べられているコメの価格比較
上記価格の比較では、カリフォルニア産中粒種玄米単価が423円で、日本産短粒種の605円より182円も安くなります。カリフォルニアと日本のイネの生産コストの差と、日米のコメの相場の影響もありますが、2021年からの海上運賃の高騰がこの価格差182円の半部以上を占めているのが現状です。それは2023年になった現在も大きく変わりません 。
ちなみに、3年ほど前までの20フィートドライコンテナの海上運賃は、日本〜カリフォルニア州オークランド港まで、現在の10分の1程度の約1000ドル(20トン積み)でした。1kgあたりに換算するとわずか7.2円となります。
カリフォルニア産米の現在の価格は5㎏入り白米が店頭で1,250~1,500円と、日本産一般米小売価格とほぼ同じレベルの価格帯です。同程度の品質と食味のコメを輸出する場合、国内産米出荷の場合より次のような費用が余分にかかります。
一昨年から異常な値上がりと予約が取りにくくなったコンテナの海上運賃が、コメ輸出の大きな障害になっています。日本資本の船会社による2022年8月の見積もりでは、東京港からカリフォルニアのオークランド港へのコメの輸出に一般的に使われている20フィートのドライ(常温)コンテナの海上運賃が、1万2000ドル(173万円)になっていました。
20フィートのコンテナには、最大20トンの玄米(白米)を積むことが可能なので、コンテナを満載した時の海上運賃は87円/kg(1,73万円÷2万kg)になります。
コメのように、運ぶ商品が重く商品の単価が低い場合は、輸送にかかる費用が商品の売価に大きく影響します。これらの情報から、アメリカ国内の販売価格の差を計算してみましょう。
1kgあたり87円の海上運賃を日本産米価格から引くと、518円の販売単価になります。カリフォルニア産米423円と日本産米518円になりますので、差額は実質103 円に縮まります。これなら、日本産米の「味と品質の良さ」をセールスポイントにすることで、十分な競争が可能になります。
政府は「新需要開拓米」として、低コストで生産したコメに対し10アールあたり4万円を生産支援金として支援しています。その水田での玄米反収が10アールあたり平均540kg仮定すると、玄米60㎏(1俵)あたり4444円、1㎏あたり74円 のサポートになります。
しかし、せっかく新規需要米としてのサポートを受けても、これまで述べてきた海上運賃の高騰でせっかくのサポートが消えてしまい、海外市場での価格競争力を失ってしまいます。
運行予定通りに船が動き、世界中でコンテナが動いていた時代は、東京〜カリフォルニア州オークランド港間の海上運賃は20フィートのドライ(常温)コンテナで10万円前後でした。現在の173万円という海上運賃は、日本からのコメ輸出を完全に止めてしまいます。
そこで国からの輸出サポートとして、輸送費の補助を受けられるようにしてはどうでしょうか。現在の輸出の継続と同時に、新たな産地からのコメ輸出も始めることができるようになるでしょう。
より具体的には、
1コンテナあたり150万円、最大450万~750万円を限度として、輸出米産地の生産拡大と安定した反収確保を助けることになります。
こうした国のサポートが実現すれば、輸出を考えている産地やJAの取り組みを止めることなく、特にコメ産地の若い生産者に、世界の市場で自らが生産したコメを輸出して販売する、今までにないチャレンジとなるでしょう。日本で作ったコメを、海外で必要としている人に届ける道を確保する、新たなチャンスとも言えます。
日本産米の輸出をめぐる取り組みを通して、日本で頑張っているコメ生産者の方々にも、将来の日本のコメづくりに希望も持ってもらいたいと思います。
実際、農林水産省が公表している日本産主食用米の輸出量も輸出額も、2023年はアメリカを中心に多くの国で増加していることは確かです。ただし、それは必ずしも日本のコメが世界で食べられるようになったから、というわけではなく、現地のコメが不作で手に入らないために、需要があったから売れた、という側面もあります。
そこで今回は、アメリカの米食がどのような状況になっているのか、2022年のデータを参照しながら振り返ってみたいと思います。
日本産良質米と市場で競合するカリフォルニア産米
カリフォルニア州の米作地帯は、近年の水不足から、2022年の作付面積は前年の63%に減少。収穫量も前年の反収よりも2%の減少で、前年対比62%に減少し、102万トン(乾燥籾ベース)となりました。
それに伴い、カリフォルニア産米の価格はそれまで安定していた約1ドル(1kgあたり。以下同)から10%も急上昇。さらに、作付面積の推定値が発表された4月と、政府事務所に生産者からの作付面積確定届けが出て集計され発表された6月にそれぞれ約10%ずつ、合計で20%も上昇。
2022年10月現在、1㎏あたり1.35~1.4ドルほどになっています(※価格はアメリカドルでカリフォルニア産中粒種白米の、精米工場バルク渡し価格)。精米工場バルク出荷価格1㎏あたり1.4ドルは、1ドル=144円で計算すると、1kgあたり202円となります。
これに5㎏入り小売り用コメ袋の価格、袋詰め費用など(約20円)を加えると、222円 (1,110円/5kg 袋入り精米工場渡し)になります。この価格にさらに精米会社の間接経費と利益が加わって、5㎏入り商品の精米工場出荷価格になります。
これは推測ですが、現状のカリフォルニアの精米工場では製品のコストに対し30%前後を間接経費と利益として上乗せし、288円(1,440円/5kg袋入り)が工場出荷価格になっているのではないかと思います。
カリフォルニア産中粒種と日本産白米商品の価格差
次に、日本食を販売しているロサンゼルスの大手日系スーパーマーケットチェーンでのカリフォルニア産中粒玄米と、日本から輸入して販売されている短粒白米の価格を比較してみました。
■アメリカでご飯として食べられているコメの価格比較
カリフォルニア産中粒良質米ブランド玄米小売店頭価格パッケージ
6.8㎏袋入り 15ポンド(19.99ドル)
6.8㎏袋入り 15ポンド(19.99ドル)
1kgあたり 2.94ドル=423円
日本産(東北地方のブランド米)短粒種白米小売店頭価格パッケージ
5㎏袋入り 11ポンド(20.99ドル)
5㎏袋入り 11ポンド(20.99ドル)
1kgあたり4.2ドル=605円
その差額:182円
上記価格の比較では、カリフォルニア産中粒種玄米単価が423円で、日本産短粒種の605円より182円も安くなります。カリフォルニアと日本のイネの生産コストの差と、日米のコメの相場の影響もありますが、2021年からの海上運賃の高騰がこの価格差182円の半部以上を占めているのが現状です。それは2023年になった現在も大きく変わりません 。
ちなみに、3年ほど前までの20フィートドライコンテナの海上運賃は、日本〜カリフォルニア州オークランド港まで、現在の10分の1程度の約1000ドル(20トン積み)でした。1kgあたりに換算するとわずか7.2円となります。
輸出に関わる余分な経費
カリフォルニア産米の現在の価格は5㎏入り白米が店頭で1,250~1,500円と、日本産一般米小売価格とほぼ同じレベルの価格帯です。同程度の品質と食味のコメを輸出する場合、国内産米出荷の場合より次のような費用が余分にかかります。
- 日本での輸出通関費用
- 原産地証明書
- 関税
- 輸入国の規制に合わせたパレットの使用
- コンテナへの積み込み費用等
一昨年から異常な値上がりと予約が取りにくくなったコンテナの海上運賃が、コメ輸出の大きな障害になっています。日本資本の船会社による2022年8月の見積もりでは、東京港からカリフォルニアのオークランド港へのコメの輸出に一般的に使われている20フィートのドライ(常温)コンテナの海上運賃が、1万2000ドル(173万円)になっていました。
20フィートのコンテナには、最大20トンの玄米(白米)を積むことが可能なので、コンテナを満載した時の海上運賃は87円/kg(1,73万円÷2万kg)になります。
コメのように、運ぶ商品が重く商品の単価が低い場合は、輸送にかかる費用が商品の売価に大きく影響します。これらの情報から、アメリカ国内の販売価格の差を計算してみましょう。
1kgあたり87円の海上運賃を日本産米価格から引くと、518円の販売単価になります。カリフォルニア産米423円と日本産米518円になりますので、差額は実質103 円に縮まります。これなら、日本産米の「味と品質の良さ」をセールスポイントにすることで、十分な競争が可能になります。
輸出に必要な補助金は、「生産」ではなく「輸送費」
政府は「新需要開拓米」として、低コストで生産したコメに対し10アールあたり4万円を生産支援金として支援しています。その水田での玄米反収が10アールあたり平均540kg仮定すると、玄米60㎏(1俵)あたり4444円、1㎏あたり74円 のサポートになります。
しかし、せっかく新規需要米としてのサポートを受けても、これまで述べてきた海上運賃の高騰でせっかくのサポートが消えてしまい、海外市場での価格競争力を失ってしまいます。
運行予定通りに船が動き、世界中でコンテナが動いていた時代は、東京〜カリフォルニア州オークランド港間の海上運賃は20フィートのドライ(常温)コンテナで10万円前後でした。現在の173万円という海上運賃は、日本からのコメ輸出を完全に止めてしまいます。
そこで国からの輸出サポートとして、輸送費の補助を受けられるようにしてはどうでしょうか。現在の輸出の継続と同時に、新たな産地からのコメ輸出も始めることができるようになるでしょう。
より具体的には、
●海上運賃が過去の水準(少なくとも20トンのコメを運ぶためにかかる海上運賃が、20万~30万円程度と、現状価格の4分の1~5分の1程度)に戻るまでの間に限り、新しい輸出米産地がコメを海外に輸出する
●ターゲットとする市場において、販売の定着に向けた販促進活動をしている間、3~5コンテナ程度に限って支援を検討する
ことを補助してもらえたらと思うのです。●ターゲットとする市場において、販売の定着に向けた販促進活動をしている間、3~5コンテナ程度に限って支援を検討する
1コンテナあたり150万円、最大450万~750万円を限度として、輸出米産地の生産拡大と安定した反収確保を助けることになります。
こうした国のサポートが実現すれば、輸出を考えている産地やJAの取り組みを止めることなく、特にコメ産地の若い生産者に、世界の市場で自らが生産したコメを輸出して販売する、今までにないチャレンジとなるでしょう。日本で作ったコメを、海外で必要としている人に届ける道を確保する、新たなチャンスとも言えます。
日本産米の輸出をめぐる取り組みを通して、日本で頑張っているコメ生産者の方々にも、将来の日本のコメづくりに希望も持ってもらいたいと思います。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
- アメリカでEC販売を開始した「会津産こしひかり白米」の反響 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.32】
- 「会津産こしひかり白米」のアメリカ販売がスタート 最初の販路は……?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.31】
- アメリカで見た日本産米の海外輸出の現状【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.30】
- 日本と異なる輸出商品の決まりごと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.29】
- いよいよ始まった福島県産白米のアメリカ輸出 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.28】
- 食味の高い日本産米がなぜアメリカでは売れないのか?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.27】
- 福島県産米を世界で売るための「ブランド戦略」【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.26】
- 日本産米が世界で売れる余地はあるのか? カリフォルニア現地調査レポート【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.25】
- 日本人の常識は当てはまらない「海外で売れる米商品」とは【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.24】
- “海外で売れる”日本産米輸出の考え方【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.23】
- 日本産米の輸出を阻む「輸送コスト」の解決策【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.22】
- 日本のコメ生産者だけが知らない、海外の日本産米マーケットの現実【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.21】
- 世界のコメ生産における日本の強みを知ろう【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.20】
- コメ生産を諦めないための「低コスト生産」の条件を考える(後編) 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.19】
- コメ生産を諦めないための「低コスト生産」の条件を考える(前編)【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.18】
- カリフォルニアのコメ生産に学ぶ日本の低コスト栽培に必要なこと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.17】
- カリフォルニアでの大区画水田作業は、実は効率が悪い?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.16】
- ドローン直播栽培が日本産米の輸出競争力を高める切り札になる【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.15】
- ドローンによる直播栽培を日本で成功させるために必要なこと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.14】
- 発芽種子によるドローン直播実現のための「理想の播種床」とは【「世界と日本のコメ事情」vol.13】
- 日本の環境に適したドローン用播種装置を開発するまで【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.12】
- 日本のコメ生産コスト低減のカギは農作業用ドローンによる直播に【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.11】
- カリフォルニアのコメビジネスの基礎を作ったのは、若い大規模生産者だった【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.10】
- 日本の「おいしいコメ」を世界で売るためのアイデアとは?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.9】
- なぜ日本の生産者はコメを世界に売ろうとしないのか【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.8】
- 日本の品種が世界で作れないわけ その3【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.7】
- 日本の品種が世界で作れないわけ その2【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.6】
- 日本の品種が世界で作れないわけ その1【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.5】
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- 籾で流通させるアメリカのコメ流通事情【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」 vol.3】
- カリフォルニア州でのコメの生産環境とは【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」 vol.2】
- アメリカで日本のコメ作りに挑戦した理由【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.1】
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