福島県産米を世界で売るための「ブランド戦略」【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.26】


2023年10月の終わりに、サンフランシスコで日本産米を販売している日本食販売小売店を訪問しました。サンフランシスコの日本町で20年以上営業を継続され、故郷を離れて暮らす多くの人々に懐かしい故郷を食材から思い出させてくれるお店です。

サンフランシスコは、世界各地からアメリカに移り住んだ人々も多い都市。アメリカで生まれ育った人々も、自然と日本の食べ物に触れる機会が多くなります。お菓子からお米まで、この店では“日本の食文化を伝道している”いう表現も可能なほど、常にたくさんの種類の食材がそろっています。

そんな日本産米を扱っている小売店や、日本食を提供している飲食店を訪問しながら、これから私が取り組もうとしている「福島県産米をカリフォルニアに輸出する」ための商機をリサーチしてきました。


少しずつ増えている日本産米の取り扱い


約3年ぶりの訪問でしたが、店のオーナーと話ができました。アメリカでも名門大学町として知られるバークリーで、日本食材の販売を続けてこられたこの店のオーナーによると、「2年前から価格が上昇してしていたカリフォルニア産米が今年の夏から下がり始めたため、日本米が売りやすくなり販売量も増えた」とのことでした。

また、「以前はカリフォルニア産米の中でも食味の良い米や安定して品質の良いコメが販売の中心だった。でも2021年頃から日本政府の日本産米輸出振興策によって日本から輸出される米が次第に増え、北海道から鹿児島・熊本まで、ほぼ日本中のブランド米が輸出されたので、サンフランシスコ周辺の日本食材販売店で販売された」ともおっしゃっていました。

この傾向は、アメリカ大都市の「ロサンゼルス」「シカゴ」「ヒューストン」「ニューヨーク」などでも見られたと推測できます。というのも、アメリカ西海岸の大きな港であるオークランドは、日本を出発したのコンテナ船の輸送時間が短く、安価な輸送コストになるからです。

東洋人が多く日本食材を扱う店も多い「サンフランシスコ市内」「サンマテオ市」「サンノゼ市」でも日本食の普及は目覚ましく、多くの日本食レストランがあります。スーパーのフードコートや日本食材販売店では、テイクアウト用の弁当や寿司などコメを使った多くの料理が提供され、多種多様な消費者のライフスタイルに合ったコメ料理が楽しめるようになってきています。



カリフォルニア産短粒種に価格で負けている日本産米


テイクアウトできるお弁当に使われているコメは、カリフォルニア産米が多くを占めています。そのことは、寿司や弁当を食べてみれば明確な違いがわかります。カリフォルニア産中粒種を使ったご飯は時間が経過すると硬くなりやすいため、日本産コシヒカリのように粘りがあり柔らかく炊き上げることのできるコメとは大きく異なります。

スーパーで店頭販売されていた日本産コシヒカリは、有名産地で日本国内での主食用として生産された白米で、5㎏袋で28ドル(1kgあたり約5.6ドル)。対して、カリフォルニア産コシヒカリは、現地ブランドとしての知名度・食味の評価など、価格は高くて当然と言われているブランドでもありますが、6.8㎏袋で54ドル(1kgあたり約8ドル)と、カリフォルニア産の方が30%高めでした。

本来日本産米は、カリフォルニア産米よりも高い生産コストがかかっており、これにアメリカまでの海上運賃もかかって、コストを積み上げた店頭での価格は高いものになっています。そのため、店頭での小売価格は、日本産米が高く販売されるのが普通だと思います。

しかし、上記のように日本産の輸入米が安価に販売されており、冷静に炊飯米の評価を比較すると、ここまでの価格差が妥当と言えるかは大きな疑問が残ります。


円安は日本産米輸出の追い風になるか


最近、日本のテレビ番組ではいかにアメリカの物価が高いかを、レストランやハンバーガーショップの商品価格の比較をして表現しているのを見かけます。そこで、実際に行って食べてみて比較をすると興味深いことがわかりました。

普通のハンバーガーとフライドポテトと飲み物(約1リットル入る大きなカップで飲み放題)のセットメニューが約12ドル。ハンバーガーも大きく、飲み物を別にしても大人が満腹になる量ではありましたが、最近の為替相場の1ドル=150円で換算すると、1800円になります。


また別の日に、日本食材販売チェーンの大型店舗内のフードコートでラーメンを食べました。中くらいの大きさの丼に入ったラーメンが13ドル、小さい丼でのラーメンが12ドルです。これも円に換算し、日本の同じような食べ物との比較をすると、大変に高価な食事になります。

ちなみに「巻きずしの持ち帰りパック(カリフォルニアロール)」一人前がパックに入って6.5ドル。これを円に換算すると約1000円です。カリフォルニア産米を使っていたため、商品価格も高くなったと考えれば納得はできます。ですが、お米を使ったテイクアウト商品には安価な日本産米が入り込める余地はあるように思います。

今回店頭小売価格のリサーチをしたことで、福島県産米の輸出販売については、カリフォルニア産米との違いがはっきりわかりました。日本産米の輸出量を大きくするには、業務用(レストラン用に販売するコメ)として販売するのが一般的な考え方です。

飲食店で使用されるカリフォルニア産中粒種の業務用米は、大きな袋で販売されているので安価になり、小売店での価格よりかなり低く設定されています。日本産米を業務用で売り込む際には工夫が必要なことがわかりました。現在の円安の効果は、輸出をするうえで大変有利に影響してくれます。日本産米の輸出には大きなチャンスです。

政府の支援策である、新規需要開拓米(新市場開拓用の新規需要米)として認定を受けることができれば、10アール当たり4万円の助成金が受けられるので、日本産米を安価で輸出するために非常に有効だと思います。ただ、政府の支援がいつまでどのレベルで継続するかは不透明なので、政府の補助金なしでも輸出と販売によってしっかり利益を出せるビジネスにしておく必要があります。


福島県産米を世界で売るためのブランド戦略



福島県産米の輸出と販売は、現状の円安為替相場が追い風になります。しかし為替相場次第では、利益が消えてしまう可能性も。生産者の方々には、生産コストを限りなく低くする努力を継続しながら、「政府の支援が受けられる間」に、もっと言えば「円安相場が続いている間」に、輸出業者として海外での販売者としてすべきことが2つあります。

  1. 福島県産米の輸出市場でのシェアの確保
  2. 固定客を確保するためのブランド戦略

小売店に安売りアイテムとして並べてもらうだけでは、消費者に選んでもらえるブランドにはなりません。同時に白米しか供給できない日本産米にも不安があります。

カリフォルニア産米商品は、白米から玄米までいくつものアイテムがあります。そのアイテムは販売業者や精米業者が開発して市場に出し、安定供給と販売戦略のなかで売れる商品に育ててきました。この中のいくつかの商品は、私がカリフォルニアでコメ業界のコンサルタントをしていた時代に、生産者・精米会社・販売会社などからの依頼を受け、小売店頭で売れるように工夫をして供給していた商品もあります。

これらの経験から、福島県産米も白米の輸出一辺倒の商品提供から、海外に暮らす消費者の求める商品提供ができるコメ産地として進歩する必要があります。さらに、政府の補助金をたっぷりと吸って現在アメリカ市場に入ってきている日本産米も、私が販売しようとしている福島県産米の強力な競争相手になります。

これから2024年産のコメを収穫・輸出するまでの間に、独自の販売網で福島県産米のブランド作りと、安定したお客さまの確保を目指した販売を行う予定です。また、私が輸出用として供給していただく2023年産のコメは、補助金なしで生産したコメなので、安価な販売が難しい中でのスタートになります。1~2年後にこれが成功すれば「成功談」として、失敗すればその反省ストーリーとして、SMART AGRIでもご紹介できるでしょう。

生産者や精米工場など、福島県産米輸出とアメリカでの販売計画に関わる方々にご迷惑をかけることなく、私の今までの経験と知識と、そして乏しい資金でどこまでできるか……。私の日米コメ業界における「最後の挑戦」になると思います。今までの日本のコメ販売では行われていない方法で販売することを計画し準備をしています。その詳細は、まだ競争相手に明かすことはできませんが、いずれお知らせできるときが来ると思います。

【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
パックごはん定期便