日本の品種が世界で作れないわけ その3【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.7】

海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦しながら、オリジナルブランドを開発し定着・普及させた株式会社田牧ファームスジャパンの代表取締役、田牧一郎さんによるコラム

なぜ世界各地で日本米が作れないのかを3回に分けて連載してきましたが、今回は日本品種における栽培後の収穫・乾燥・保管が、アメリカではいかに難しいものであるかをご紹介します。

そしてそれこそが、ガラパゴス化した「日本品種」の証明とも言えるでしょう。

栽培試験用の稲を刈り取っている田牧さん


日本では当たり前に行っている稲作技術は海外だとかなり難しい

日本でのコメ作りのゴール


日本の稲作において収穫した籾を乾燥~精米し、白米製品に至るまでのプロセスには、ご飯を炊飯しておいしく食べるためのたくさんの技術の積み重ねがあります。日本のご飯の食べ方に合わせた品質や味を出すためには、この技術やノウハウがないとおいしいコメは作れません。

しかしその技術やノウハウこそが、日本品種が世界で扱いにくい品種と評価されている理由でもあるのです。

日本では、収穫時期になると籾の水分を測定して収穫適期の判断をします。収穫時に籾水分が高い場合は登熟途中の未熟な粒が多く混入するので、登熟した整粒が多く、胴割れ米が少ない状態で収穫しなければなりません(気象条件と稲の登熟の進み方よって、測定した籾の水分が異なること自体は世界共通です)。

乾燥工程まで終えると籾を一時保管タンクで室温にしてから、籾すり機を使って玄米にし、粒選機で粒をそろえ袋詰めをして出荷します。場合によっては色彩選別機を使って虫食い斑点の付いた粒や、着色した粒を取り除きます。

出荷玄米は検査結果の等級によって、買い入れ価格が異なります。最も品質の良い一等米の玄米を作ってたくさん出荷することが、日本のコメ作りのゴールと言えるのではないでしょうか。



大量生産方式アメリカでのゴール


一方、アメリカでのコメ作りのゴールはどうでしょうか。日本と比べて圧倒的に大量生産であるため、収穫も乾燥も日本のようにきめ細かく行うことは現実的ではありません。そのため、日本品種を白米として製品化する過程で、日本品種の特徴もあり、さまざまな作業の難しさがあります。


収穫の目安となる籾の水分計測の違い

多くの生産者は乾燥・保管の専門業者に籾の乾燥を委託します。ただし、生産者は水分計を持っておらず、日本では収穫の手がかりとしている水分量を測ることはしません。

ではどうしているのかというと、刈り取り作業を始める前に、籾の水分確認用の「試し収穫」として刈り取り予定の圃場にコンバインを入れて数メートル刈り取りをします。そして脱穀した数kgの籾を乾燥所に持っていき、水分を測定してもらうのです。その結果ですべての圃場で刈り取りを行うか判断します。

乾燥所が受け取り拒否できる水分量は各乾燥所で異なりますが、おおよそ25%程度まで。水分量が高すぎる籾は荷受けを拒否されるので、籾の乾燥が進むのを待たなければならないこともあります。そのため、生産者は荷受け拒否のリスク回避と委託乾燥費用を考え、20~22%の水分で刈り取りを始めます。

乾燥料金は荷受け水分によっても異なりますが、大面積の栽培をしている場合は収穫に長い日数を要するので、高めの水分でも収穫を開始する場合もあります。

逆に、圃場での乾燥を長くして籾の水分が下がりすぎてしまうと、当然のことながら精米歩留まりが低下します。生産者と購入契約している精米会社などは、籾の買い入れ単価を精米歩留まりで決めているところもあります。遅く収穫することで歩留まりを下げて籾の販売単価が下がることも、生産者としては避けたいところです。


パンケーキ状態に倒伏したコシヒカリの刈り取りをしている大型コンバイン(稲が倒れたのをカリフォルニアの農家はパンケーキ状態といいます)


乾燥方法と、乾燥を急ぐことによる品質への影響

海外での乾燥方法

カリフォルニアではコメの水分が20~22%で乾燥させますが、アメリカ全体では14%が基準になっています。水分測定用の籾サンプルは1㎏程度を複数回測定して、平均水分を出します。

日本のように単粒水分計を使えば籾一粒ずつの測定結果が表示されます。単粒水分計は、収穫開始の判断や乾燥作業中でも目標水分に近づける有効なツールです。しかし当然ですが、粒ごとに水分を測るとばらつきがあります。アメリカでは穀物水分検査用測定器として単粒水分計は認定されておらず、一般的に使用されている水分測定機で測定します。

収穫籾の乾燥に使うのは、容量約70トンの連続流下式の大型乾燥機。天然ガスやプロパンガスを大型バーナーで燃やし、その温風(45℃前後)を当てて乾燥させるのです。早く乾燥させるためには籾に当てる風の温度を高くしますが、その副作用としてコメ粒にヒビを入れてしまうことがあります。

他に、種子乾燥に使う容量の小さい鉄板サイロに生籾を入れ、風をあてながら籾を撹拌し、時間をかけて乾燥させる「風での乾燥」もオーストラリアなどでは行われています。収穫時期の湿度が低く、稲の収穫は水分が下がった状態で刈り取るので、風力だけで籾の乾燥が可能です。この方法だと熱風乾燥で起こる「割れ米」が防げます。ただし、収穫時期に籾水分が非常に低い状態で刈り取ると、籾にすでにひびが入っている状態での収穫となり、品質的には褒められたものではありません。


乾燥所が荷受け制限することで発生する白米の発酵臭

収穫時期、生産者は大型コンバインを使用し「短時間」で「大量」に収穫して乾燥所に籾を持ち込みます。収穫量が多いため早く乾燥を仕上げて保管倉庫に移さなければならず、高温の風を当てて早く乾燥させようとします。すると、精米時に砕米が増えてしまうことがあり、それを防ぐため、乾燥所は1日当たりの荷受け制限を設定することもあります。

水田から乾燥所に運ぶトレーラー。収穫された籾が大量に積まれている


生産者は、天候の良い日は可能な限り刈り取りをするので、乾燥所に入りきれない籾も当然出てきます。さらに、荷受け停止時間に合わせて刈り取り作業を中断したり、作業を急いだりしません。多少暗くなっても作業を継続し、翌朝一番で荷受けをしてトラックを空にしてもらうため、籾をトラックに積んだまま乾燥所まで運んでおきます。

その結果、収穫開始当初の気温の高い日に高水分の籾を刈り取り、収穫後長時間風を当てないでおくと(水分によっては5時間以上)、生籾の発酵が始まり白米に発酵臭が発生してしまうのです。発酵臭を防ぐため、私が関わった原料籾を扱う生産者には、“収穫時に絶対してはいけないこと”として「収穫後5時間以上トラックに籾を積んだまま放置しない」を守ってもらっていました。

具体的には製品作りの際、保管倉庫からサンプルを事前確認しつつ、精米所で原料籾を入荷する時の検査項目に「白米時の匂い」という項目を追加。頻繁に検査をしてもらい、問題のない籾だけを製品に使うようにしてもらいました。

(ちなみに、日本品種以外の一般的なカリフォルニア産の中粒種については、どの生産者の籾でも混ぜて乾燥・保管されるので、私のルールは意味を持ちません。)

こうして乾燥された籾は、一般的に乾燥業者が乾燥後、サイロや倉庫に入れて保管します。この時の籾の水分は、低い方が保管中の事故(焼け米・発酵米)を防ぐことができます。サイロに入れた籾は天地替え(サイロ内の上下を入れ替えること)や通風により、発熱や発酵を防ぐ対策がとられています。

しかし、時にはうまく風が通らず事故を起こしてしまう場合もあります……。


私の名前を付けた商品を精米し出荷していた、小規模な自社の精米工場


カリフォルニア特有の収穫時期の北風

カリフォルニアの稲作地帯では、稲の収穫時期が高温の強風「North Wind 」(北から吹く熱い強風についた名称)に当たり、収穫目前の稲が一気に乾燥してしまうことがあります。

「北風」の程度にもよりますが、稲全体がドライフラワー状態になり、コメ粒に多くの「ひび割れ」が発生することがあります。この「ひび割れ粒」は精米時に起き、商品価値の低い「砕米」を大量に発生させます。

また、日本品種は収穫作業時になると、コンバイン運転手と籾運搬トラック運転手からよくクレームが出ます。理由は収穫作業と籾をトラックに積み込みや排出する時、籾の近くにいると「チクチクするので皮膚が痒くなってしまう」と、嫌われてしまっているためです。実際にカリフォルニア中粒種では、このようなことが起きません。

乾燥所からも同じ理由で嫌味を言われます。さらに、籾の中のゴミ(わらくず・枝梗など)は風の通りを妨げ、事故を起引き起こしかねません。日本品種の乾燥・保管には中粒種よりも時間をかけて、神経を使った作業が必要不可欠となります。

品質の高い籾で販売するために、収穫時期に高温にならず、雨の日が続かず、強い風が吹かないことを祈りながら、生産者は収穫作業を行っているのです。


高コスト・高品質な日本品種は扱いにくい


日本米を育てる難しさの例を挙げてみました。

  • 空から種を播くと稲は倒れる
  • 反収が非常に低い
  • 最新型のコンバインを使っても脱穀しきれない
  • 収穫ロスが10~15%は発生してしまう
  • 乾燥しにくく保管中の事故も起きやすい
  • 精米して白米にして出荷すると、割れ米が多くご飯がべたつく

基本的に日本品種を積極的に栽培するアメリカのコメ生産者は、数えるほどです。

多くの問題解決(対策)ができた商品だけが生き残って、スーパーの棚に並んでいます。それらの製品のほとんどが、現在カリフォルニアでつくられている日本品種です。しかしその販売量(消費量)は少なく、カリフォルニア産中粒種商品の比ではありません。

おそらく、日本品種の生産は今後も増えることはないでしょう。アメリカ以外の市場では日本品種を使った商品はさらに少なく、増加の見通しもないのが実態だと思います。

日本の生産者が移植栽培という特定の栽培方法で栽培し、特殊な刈り取り脱穀と選別機能を持った高価なコンバインで刈り取り、高度なテクニックで乾燥し、高価な精米・選別機を使って白米商品にし、高コストで高価なのが日本品種の商品なのです。

日本品種を使った商品が、今後も輸出マーケットでシェアを広げるのは難しいのでは……と思うのは、私だけではないと思います。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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