いよいよ始まった福島県産白米のアメリカ輸出 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.28】

2023年からカリフォルニアの小売店や飲食店などでリサーチを重ね、2023〜2024年現在のアメリカでの日本産米、白米の扱われ方について把握してきました。

そしていよいよ、2024年2月下旬から福島県産米の輸出をスタートさせました。

今回のプロジェクトでは、福島県内の米生産者の方々がコメを輸出用に生産し、海外でのコメ販売を経営の一つの選択肢として位置づけ、生産したコメの販路を広げることを目指しています。

その取り組みの流れや現地での反応などをこれから数回にわたってお伝えし、日本産米を世界に輸出するとはどういうことなのかをリアルにお伝えできればと思います。


海外販売を支援する日本企業とは?


実際に輸出に取り組むにあたって、私はコメ輸出と販売事業に詳しく実務経験を持った民間会社が、生産者から料金を得ながら、コメ作り産地の経営者に役立つ情報を提供してくれたり、海外販売を支援してくれるがビジネスの成り行きだろうと考えていました。

しかし、残念ながら物事はそう簡単ではありませんでした。

現在、日本政府の後押しと支援対策として、輸出や販売に関する各種情報の提供、ノウハウなどがコメ事業関連団体から提供されています。また、海外のコメ消費地での販売ノウハウなども、日本産米輸出拡大のための関連情報として公表されてもいます。

米の輸出について|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/kome_yusyutu/kome_yusyutu.html

これらのコメ輸出と、海外販売に関する情報をうまく活用することで、国は日本産米の生産者に生産支援も行っています。また、流通業者には商品開発と輸出・海外での販売支援を行い、すでに日本産のコメは安価に販売しても利益が出る状態になっています。

このような環境の中での販売であれば、輸出量は簡単に増加するはずです。

しかし、それらが目論見通りに機能していないためか、支援のための補助金だけは大きな予算がついていますが、輸出量は思うように増えていません。なにか事情があるのかもしれませんが、実際に輸出に取り組んでみると、実績が伴わない事業になっているのではないかと思えてきます。

こうした実情については、今後も現地とやりとりしていく中で、折にふれてお伝えしたいと思っています。


海外の消費者を意識した「会津産コシヒカリ」


さて、ここで今回輸出するコメについてご紹介します。

今回輸出するコメは、過去20年以上、福島県内外で最も高い食味評価を得ている「特A」ランクに位置づけされている「会津産コシヒカリ」の白米です。生産者が直接かかわる福島県産米の輸出アイテムの第一候補として、2㎏の袋に入れて輸出します。

今回の輸出に使うパッケージ
海外でこの米を食べていただきたい方々=ターゲットとしては、次のような方々を想像しています。
  • 日本の美味しいごはんを食べてきた方々
  • アメリカで美味しいお米を食べたいと思っている方々
  • その友人の皆さんなどで、美味しいごはんを食べたいと思っている方々

アメリカへの最初の輸出は、この2㎏袋を約1,000袋=合計2tをカリフォルニア州オークランド港向けのドライコンテナに混載荷物として積み込み、2月下旬の陸揚げと販売開始を予定。2回目、そして3回目の輸出については、実際に販売された数量を見極めながら輸出量と出荷タイミングを決める予定です。

白米輸出用の袋は、国内米袋生産販売大手のチャック付き2㎏入り袋にしました。チャック付きにしたのは、一般的なアメリカの家庭では一度に炊飯する量が少ないからです。これなら、袋から白米を出した後はチャックを閉めて冷蔵庫で保管できます。白米の酸化と乾燥・味の劣化を防いで、美味しく食べられる時間を延ばすために真空袋を使っています。

精米や袋詰めは、会津若松市河東町に精米工場を新たに建設して稼働。産地の集荷業者に購入してもらって精米を行い、輸出用として袋詰めをしてもらいました。

この商品をアメリカに輸出し、カリフォルニアの精米業者に輸入およびディストリビューター(販売代理店)として、販売してもらいます。

実際に輸出したコンテナ

販路は現地の精米業者に委託


私が今回販売作業をお願いしたカリフォルニアの精米業者は、カリフォルニア産米(コシヒカリやあきたこまちなどの短粒品種)の扱いがあります。

主力商品は中粒種が90%と圧倒的に多く、それらの販売先を持っているので、精米会社の販売担当が食品(コメを扱っている卸売業者)に販売し、その卸売業者がスーパーやレストランに販売しています。

通常、日本産米に限らず海外からの輸入米は、輸入国での販売と流通の足がかりがありません。ゼロから流通の仕組みや価格決定のシステムを学んで作り上げていくとなると、すぐに機能する輸入米販売の仕組みは難しくなります。

日本の輸出者と、海外の日本産米輸入・販売業者相互の利益が上がり事業が成長して、生産者にも販売利益(有形無形の利益)が還元されるような状況になれば、日本産米の輸出量はもっと増加すると思います。

今回の会津産米も、販売が始まれば食べた方々の評価も出てくると思います。一定の期間で販売量がどの程度になるのか、通販サイトの実績も出てくるので、分析に役立つでしょう。

購入を考えている方々や、精米会社などに対して配った白米サンプルの評価は大変良かったので、自信をもって販売に関わることができると思います。

ただ、ここに至るまでにも日本とは異なる商品の表記など、アメリカに合わせたさまざまな取り決めに合わせる必要がありました。次回はそういった現地販売のために必要なことを、より具体的に紹介したいと思います。


【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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