“海外で売れる”日本産米輸出の考え方【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.23】

※本連載では、米に関する言葉について以下のような意味で用いています。
  • 日本産米=日本で国内消費向けに作られた米。コシヒカリなどに代表される炊飯して食べる主食となる米。短粒種、ジャポニカ米とも言われる
  • カリフォルニア産米=カリフォルニアで作られた米。日本産よりもやや長い中粒種がメインで、世界中で日本食用の米として広く普及しているのはこちら

私たち日本人がイメージする日本産米の輸出は、白米や玄米を家庭やレストランで食べていただくことでしょう。そのためには、日本産米の特徴を表す調理のしかたや食べ方にあった商品である必要があります。

購入して食べる人々の期待に応えながら、美味しく食べていただく経験の繰り返しによって、リピート注文をもらえるようになります。今回は、そんな購入してくれるお客様について考えてみたいと思います。

私たち日本人にとって店頭に並んでいる米は「主食としての米」であり、特別な商品カテゴリーと感じることはないでしょう。しかし、海外で販売する場合は、たとえ日本と同じようにパッケージに入れただけのコメであっても「日本産米を使った白米商品」です。

そのような「白米商品」を食べてもらえそうなところに紹介して輸出・継続販売することが目的であれば、
  1. すでに販売されている類似した商品(市場調査)
  2. 誰がどのようなコメを誰に販売しているのか(競合調査)
といった流通の調査も行って、販売するための計画を立てる必要があります。



外食から内食へ、海外での日本産米の消費動向の変化


アメリカ国内で自宅で炊飯した米を食べる人の数は、30年前とは比較にならないくらい大きく増加しています。

大きな理由は、寿司も含め日本食を提供しているレストランの数が大きく増加したことでしょう。そして、健康的な食事としての「日本食の認知度」が上がったこと、さらに、ビジネスランチやディナーでも日本食レストランでの食事機会が増加し、テイクアウト型のごはん提供店も増加していることが理由と言えます。

米を消費する人口が増えることは、外食でコメ消費を支えてくれる大事な顧客が増えることに直結します。

これにプラスして、都市部における東洋系の人口増加や、自宅で炊飯あるいは電子レンジで加熱するだけで炊き立てのご飯になる「無菌パック米」などの内食の普及も、米の消費量を増やす動きとして期待できます。


輸出先での米商品の流通について


いま、海外の日本食レストランに日本産米が販売されている例も少なからずあります。日本食を中心として東洋系料理に使う食材の輸入も含めた仕入れを行い、販売と配達を担っているのは、全米に営業支店ネットワークを持つ大手の卸売業者や、都市部で営業をしている中規模のオリエンタル食品卸売業者です。

ただし彼らは、従来の主たる供給米となっているカリフォルニア産米や、タイやインド料理などの東南アジア系の人々に好まれているジャスミンライスやバスマティライスなどの香りのある長粒種も、生産国から輸入してレストランやスーパーマーケットに販売をしています。日本産米は彼らにとって、多様な米商品の中のひとつに過ぎません。

そこに、私たちが日本から直接日本産米を販売できるチャンスがあります。


ターゲットはカリフォルニア米の購入者たち


ニュース等でご存じかもしれませんが、近年の水不足により、カリフォルニア産米は作付面積や生産量が減少しています。2022年冬からは山間部にある貯水ダムの水位も上昇し、2023年は作付面積が増加したため、供給量が増えると予想されています。しかし、作付した品種や夏の温度といった収穫量に影響する要素もあり、収穫してみないとまだ正確なことは言えません。

カリフォルニア以外のアメリカ南部の5つの州でも米を生産し、国内と海外に販売していますが、それらは長粒種がほとんど。一部の地域では中粒種の生産も始めましたが、期待されていた味や品質には届かなかったのか、アメリカでご飯として米を消費する消費者が多いスーパーマーケットではほとんど販売されていません。


つまり、カリフォルニアで生産されている中粒種が、アメリカでの寿司屋や日本食レストラン、そしてスーパーの持ち帰り弁当のごはんとして広く利用されているのです。

海外の日本食で外食・内食として消費されている米のほとんどはカリフォルニア産の中粒種です。ということは、日本産米が狙うべきターゲットと市場は、カリフォルニア産米の市場と考えていいでしょう。


アメリカだけでなく、南米などでも増えている日本産米の需要


私がカリフォルニアに渡り、コメを作り商品化するための精米業を同時に始め、白米小売り用のブランドを立ち上げたのは、約30年前のことでした。

アメリカ国内を主たるターゲットとして、生産と精米そして販売をしてきた経験から、市場調査と流通事情の調査、そしてその中でどこの誰に商品を届けるのかを考えて実行することが重要なことを学びました。調査・検討と実施の判断に間違いがあれば、競争の激しい市場ではすぐにその結果が、売上の減少に現れてしまいます。

ただ、日本的な米の消費が増加してきたのはアメリカ国内に限ったことではありません。カナダ・メキシコ・中南米の国々はアメリカに隣接した国であり、アメリカ国内の商品流通動向に敏感に反応する市場でもあるからです。

特にブラジルにはかつての日本移民の方々のコミュニティがしっかり存続しており、南米で生産が難しい作物などは輸入して販売・消費されています。

ブラジル国内で生産されている米はほとんどが長粒種で、年間800万トンの籾が生産され、不足分として年間50万トン前後を輸入しています。その輸入しているコメの産地は、カリフォルニアでありアメリカ南部の州で生産された長粒種です。


いろいろな経緯もあって、私もカリフォルニア産の良質米として、年間数千トンの白米をブラジルに輸出していました。ちょうど中東・ヨーロッパの国々でも日本的な米の輸入と消費が増えてきた時代で、香港やシンガポールでも、それぞれの国にオーストラリア産米やタイ産米が輸入され、販売・消費されていました。

しかし、それらは長粒種であり、日本食に使えるとはいえ、粘りが少なく甘さも味も薄い「カリフォルニア産中粒品種」だったのです。

そんな中で、私が日本的な粘りや味を持ったごはんとしておいしく食べられることを目標に、カリフォルニアで生産と精米をして商品化してきたブランド米は、競争の中でも意図したとおりの特徴がアピールできて、多少割高な販売価格でも売上を増やすことができてきました。

毎年主な消費地を回り、卸業者や小売店、そしてレストランなどを訪問し、消費者の感想を聞きながら、商品の改良が可能な部分や価格を抑えるための対策などを考えて販売してきました。その努力の結果が、世界50カ国以上の新しい市場を開拓し、アメリカから輸出販売・消費されたことにつながったと思っています。


「売れる米」を作れれば輸出は成功できる


良い商品の原料になるコメの生産には、品種の選択と栽培方法の検討、そして播種後の肥培管理と収穫時期の判断、乾燥施設で同乾燥するのか、どの状態で精米工場に原料籾を運び込んで商品を作るのか──。

すべては販売計画に基づく生産計画であり、必要に応じて契約栽培を行い、栽培についての生産者との協議を行って実施します。生産関連施設の運営者や特定作業の依頼を受けて行うカスタムワーカーたちとの協議も、良い製品を作って販売するための重要な作業です。

では、海外で求められる売れる米とはどんなものか。次回はもう少し詳しく考えてみたいと思います。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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