世界のコメ生産における日本の強みを知ろう【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.20】

世界の食糧生産とその流通は、近年地球規模で起きている「干ばつ」「大水害」「大規模山火事」などの大災害で、甚大な被害を受けています。

日本の水田では、水稲栽培に必要不可欠な水の確保のために河川の流れをコントロールし、必要な場所には貯水池を作って水を使いながらコメ生産を続けてきました。それでも広範囲に影響する冷害や、過去の記録を超えるほどの大型台風、集中豪雨などの災害によって、イネの減収や野菜・果物などの生産に悪影響を及ぼしています。

世界中どこにも、自然災害が農産物生産に悪影響を及ぼさない地域はありません。生産者は被害を小さくする努力をしながら、作物栽培と収穫につとめています。



世界から見た日本のコメ生産の強みは「安定した収穫量」


その中で日本のコメ生産に限ってみれば、毎年台風や大雨による自然災害を受ける地域がありながらも、日本全体で見た時の平均収穫量は常に安定しており、平年を大きく下回る反収になることは稀です。

これは国を挙げて実施してきたイネ栽培に適した水田の整備と総合的な治水事業の成果であり、生産技術開発の成果でもあります。しかしそれ以上に、生産現場でのコメ生産者の栽培技術力と生産への真摯な取り組みが、安定した主食の生産を可能にしています。

豊富な水、整備されてきた農地、用排水路などの生産資源を有効に使い、日本のコメ生産者は国内に主食として安定的にコメを生産し供給しています。将来のコメづくりを担うことになる日本の若手生産者には、さらにその先に世界の食糧事情の安定に寄与することも、これからの日本のコメづくりの目標の一つに含めてほしいと思っています。

今回は、日本のコメの生産状況を振り返りつつ、輸出に向けて世界の国々のコメの生産状況を知るためのヒントもご紹介していきたいと思います。



食糧流通に及ぼす自然災害と世界規模での生産予測


世界各地で毎年発生している自然災害による農産物への被害は、その映像も含めたマスコミの報道によって、世界の知るところになります。そしてこれらの食糧生産と輸出入穀物の物流に与える影響は、間接的にも穀物国際相場に反映します。

自然災害の国際相場に与える影響については、各国政府の農業関係機関から、栽培されている作物の作付け状況と生育状況が、定期的に発表されています。そして、収穫に関する調査などから、穀物の生産予測と価格の予測も含めて、関係国の政府ウェブサイトなどでの発表によって、被害の内容と今後の食糧生産や在庫状況を知ることができます。近い将来の食糧配分予測などについても政府発表情報でも確認できます。

一部では、衛星を使った地球規模の作物生産予測もされており、作付け状況から気象条件も加味した、精度の高い生産量予測もされています。

画像、資料は農林水産省「特集1 米(2)」[WORLD]生産量と消費量で見る世界の米事情より流用。資料:日本のデータは平成26年度「食料需給表」より、その他の国・地域は米国農務省「PS&D」(10 November 2015、2014/15年の数値〈見込値を含む〉)より作成。※注:「生産量」「消費量」は精米ベース、日本の「1人当たり消費量」は供給純食料の値(精米ベース)、その他の国・地域は、「消費量」を国際連合「World Population Prospects: The 2015 Revision」(2015年1月1日推定値)の人口で割って算出、「ヨーロッパ」はEU加盟28カ国の合計

人的理由により大規模穀物流通に起きている混乱


2022年9月9日にインド政府が、一般米への20%の輸出課税と、砕米の輸出禁止を発表しました。日本からは遠い国であるインドで生産されているコメは長粒種であり、短粒種を主食とし、自給率が100%近い私たち日本人の生活に、直接的な影響はないと思われるでしょう。

しかし、2022年2月末のロシアのウクライナ侵攻によって、世界の小麦・トウモロコシなどの主産地の一つであり輸出国でもあるウクライナからの穀物輸出が止まってしまいました。アフリカ諸国などの食糧不足が常態化している国や地域では、ウクライナからの穀物が届かなければ、代替え産地からの供給も簡単にはできません。

このことによって大規模な飢餓発生の恐れを、WFP(国連食糧計画)などの国際機関も警告しています。国際社会の世界的な食糧危機への対応が急務であるとも言われています。

このタイミングで、インドの輸出米への課税と砕米輸出禁止措置によって、世界の食糧不足のリスクが高まりました。安価な砕米の国際市場への供給が大きく減少し、安価なコメを輸入して食べていた国々が購入できなくなってしまったのです。インドは、砕米の禁輸措置によって国内の安価な砕米流通を維持し、低所得者への食糧供給を守ったことになります。

そして、この措置によってコメの国際相場も上昇。アメリカ農務省(USDA)の世界のコメ生産予測資料(2022年9月発表)によれば、インドは2022年9月の生産予測のコメが、8月の見通しである1億2850万トンから1億2650万トンと200万トンの減少見込み。原因は作付け時期の雨量が不安定だったことで、作付け面積自体が減少し、収穫面積も2022年は約50万ヘクタールの減少で、収穫量も減少予測です。


さらに、インドの隣国であるパキスタンの大規模な氷河の融解と2022年8月の大雨による大洪水で、国土の低地にある水田面積が水没してしまいました。

パキスタンの2022年コメ生産予測は、約840万トンの当初予測から50万トン減少予測で、2021年比では9.9%の減少です。この減少分は巨細的な食糧支援プログラムからの供給を受けながら、インドや中国からの輸入によって、来年の収穫までの国内の消費量を、賄わなければなりません。

ヨーロッパでも、スペインは熱波による水不足でイネの収穫量が減少予測です。イタリアでも雨が少なく、ポー川流域の水田でも一部が干上がり、収穫までに登熟に必要な水が供給できるのか不安があります。スペインとイタリアの2国でEU内の米の生産量の70%を担っていますが、2021年の182万トンの生産に対し36万トンの生産量減少予測です。


輸出入量と国内供給を調整できる、コメ生産大国の動き


さらに世界一のコメ生産を行っている中国でも、2022年は大きな川が干上がる反面、大雨による水害もあり、毎年約1億5000万トンの生産に対して2022年のコメ生産量は約200万トンの減産予測となりました。中国は、生産したコメを輸出しながら輸入も行うことで、国内供給の調整をしています。当然のことながら、国際相場を見ながらの売買交渉になります。

インドの砕米輸出禁止措置や、輸出税の措置などによって、自国民への食糧供給と高い価格での輸出による利益も得ており、輸出税をかけることで国の歳入も増やしています。



最新の世界のコメ関連情報はネットで簡単に調べられる


世界のコメ生産や流通に関する情報は、アメリカ農務省(USDA)のウェブサイトに、各種統計資料や世界のコメ作付けや生育状況が毎月アップデートされており、収穫時期には各生産地の予測反収と価格の変動なども公表されています。

各種統計資料から世界のコメ生産と流通の動きを見ながら、日本での毎年の生産と販売対策の参考資料として、世界に気を配るコメ農家になってほしいと思います。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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