日本産米が世界で売れる余地はあるのか? カリフォルニア現地調査レポート【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.25】

2023年10月25日の搭乗便は、予定通り成田空港から離陸後9時間でサンフランシスコ国際空港に到着しました。すぐに空港でレンタカーを借り、空港近くに予約をしていたホテルに移動。少し休んで、空港の近くに住む知人宅を訪ねました。久しぶりに会い、夕食を一緒にとるためにいつも行く中華料理レストランへ。このレストランは、私たち(日本で育った人)の口に合う料理を何年も変わらずに出してくれるため、懐かしい話をしながら食事を楽しみ、宿に戻りました。


私の今回の出張目的は、福島県産米をアメリカで販売するためのリサーチです。福島県産米の販売における特殊事情が改善しつつあるなかで、海外で故郷のコメを待っている方々においしいコメを届けたいという生産者としての思いがあります。福島県内でコメ作りをしている旧知の友人たちに、生産・販売しているコメの一部を海外に販売できないかと助けを求められ、「海外でも売れている福島のコメ」の実力を証明するために動くことになりました 。

そこで、前回までの「海外で売れる日本産米」の実践編として、今回から数回に分けて現地調査の内容、現在のアメリカでの日本食・ジャポニカ米のニーズや市場をレポートしていきたいと思います。


解禁された福島県産米の輸出に向けて


まずは、販売を予定しているアメリカ西海岸の都市、サンフランシスコ周辺でのコメの流通と価格の調査を実施しました。政府が公表しているデータや情報として公に出てくるものも大事ですが、生産と販売の現場に行き、そこで仕事をしている方々に話を直接聞くことも計画を立てる際の大きな助けになります。カリフォルニアに輸入された外国産米(特に日本産米)が、カリフォルニアで生産された地元産のコメ(カリフォルニア産米)と、どのように競争・競合しながら、販売されているのかをこの目で確かめたかったのです。

東北大震災による東京電力福島原発の事故発生以来、福島県内で生産したコメはアメリカへの輸出を禁止されていました。それがようやく2年前に解除され、輸出できる環境が制度上ではあるものの整いました。私たちのアメリカへの輸出量目標は、毎月コンテナ1台(20トン)程度。福島の生産者はそれだけの供給能力を持っています。

どのようなコメどこに輸出して、どのように販売するのか。袋詰めした白米などの価格設定や販売先を探しながら、将来の輸出量の増加につなげるためにも、商品紹介時のマーケティング実施のために具体的な作業計画を立てないといけません。競争相手になる商品を調査し「売れる価格がどのあたりなのか」「ネット上の情報やカリフォルニアのコメ生産者やコメ流通関係者」、そして「日本のコメの価格競争力」について実際に市場を見て判断したかったのです。

さらに販売対象として考えているアメリカ在住消費者の「ごはんの好み」「コメの食べ方」「品質や味の比較」などの詳細情報も必要でした。輸出用に福島県内で生産し、商品にする予定の品種や商品づくりについてもおおよその目途がたった事もあり、その品種を持参して試食をしてもらうことも計画していました。

表面的な情報はアメリカに住んでいる知人やコメ業界の知り合いたちにメールで尋ねたり、試食用のコメを送って食べてもらったりと、少しずつ市場調査の密度を高めながら作業ができました。その上で、今回は実際にコメの販売現場を見るために、カリフォルニアの西海岸のコメ消費地を訪ねてきました。


カリフォルニアのコメ生産者との話


水田に倒れてしまったイネ

ついでに、収穫作業の終盤になった稲作地帯で、ひどく倒れた稲刈り風景も見てきました。知り合いのカリフォルニアの兼業コメ生産者と昼食を食べながら、今年のコメ生産と価格についても詳しく聞かせてもらい、日本では知りえない生産現場の情報もたくさん得られました。

以前からの情報のとおり、2022年もカリフォルニアでは水不足のためイネの作付面積が大きく減少していました。そのため、生産者が生産した籾価格も大きく値上がりし、その籾を原料として販売用に精米した白米も当然、値を上げていました。

しかし、今年(2023年)の作付面積が期待以上に増えたため、作付面積が確定した6月以降、白米価格がじわじわと値下がりして売買されています。


水不足の解消により、2023年の作付・収穫は順調


私は2年ほど前から、アメリカ農務省が毎月発表してるコメの価格、作付け面積、取引価格の動きの調査結果をネット上で確認し、どうやったら日本産米の価格競争力がアメリカ国内で増すかを考えていました。カリフォルニア産米の価格が変動する原因は、主にカリフォルニア州内の水の供給量です。生産量の減少によって、市場に出回る量が品薄し値上がりが起きていました。

2023年にはカリフォルニアの山岳地帯にある大小の貯水池に水が溜まり、以前のように水田地帯の水田面積のほとんどにイネを作付けできるような状態にまでカリフォルニアのコメ生産は回復していました。その結果、精米の売買価格は2023年のコメの生産量が増える予測に転じ、在庫を販売しつつ相場を見ながら新米を販売。取引価格は横ばいから次第に下がり気味になってきたと言われています。

20万へクタールを超えた作付となり、反収は平年並み。精米歩留まりの高いモミが収穫できたため、白米の市場に出回る量は過去3年来の最大量になると見込まれていました。ただ、今回の出張中、私が水田地帯に入った次の日から強い北風が吹き荒れて刈り遅れの稲が立毛中にさらに乾き、胴割れ粒の多発から精米時に砕米が増えるデメリットも見えてきました。

2023年10月末時点のダムの様子。水量は十分に確保できている

世界に販路を拡大するカリフォルニアのコメ業界


一方で、2023年のヨーロッパではかつて経験したことのないような干ばつによって、収穫量が極端に減少。その減少分をカリフォルニア産中粒種を輸出することで取引価格を維持できないかと、輸出を計画している業者たちが真剣に検討中でした。カリフォルニア産の過剰とも思われる供給量を削減する狙いもあったようです。

ただ、カリフォルニア産米の価格高騰はピークを過ぎたとの認識を持つ業界人は多いようです。ピーク時にはオーストラリアから中粒種商品も輸入され、スーパーで販売されていました。日系食品卸売り業者の中にはベトナム産の短粒米を輸入して販売していた時期もあったと話していました。

輸入された日本産米も店頭で販売されてはいたのですが、カリフォルニア州内での販売量は「予想していたより小さい」のではないかという印象を受けました。


日本産米の安価な価格設定、販売の少なさの理由


サンフランシスコ周辺のコメを販売しているスーパーに足を運んだことで、日本産米やカリフォルニア産米「コシヒカリ」「あきたこまち」の白米商品価格について知ることができました。近年、日本も海外への日本産米輸出について力を入れており、“新しいコメ商品が店頭に並んでいるのか?”にも興味がありチェックしてみましたが、残念ながら10年前と同じような商品が棚に並んでいました。

店頭販売価格については、日本産米の価格がカリフォルニア産米より低いことに驚かされました。考えられる原因は、カリフォルニア産米の相場です。生産量、輸出量などからアメリカ国内販売に向けた量によって相場が変動し、高い状態が続いているようでした。

政府からの補助金を受けている「日本から輸入された米の価格」が影響しているわけではないことも確認できました。これらの情報によって、福島県産米の販売価格もわかりやすい設定ができそうです。ただ、国内で報道されている日本産米の認知度拡大、輸出量拡大という印象は、少なくとも私が見た小売店の店頭からはあまり感じられませんでした。

次回は、日本産米とカリフォルニア産米の、各都市での小売店での販売状況や価格などを、より詳しくご紹介したいと思います。

【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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