日本の「おいしいコメ」を世界で売るためのアイデアとは?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.9】

海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦しながら、オリジナルブランドを開発し定着・普及させた株式会社田牧ファームスジャパンの代表取締役、田牧一郎さんによるコラム

今回は、これからの日本のコメ作りに対しての考え、関連技術の開発と発展について。

日本政府の考えるコメ政策、進まない「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」などに対して、悲観的な見解にも思えるかもしれません。

しかし、「日本のおいしい米」ならば世界でも引く手数多でニーズがあるというのは理想論でしかありません。世界で流通している「日本米」の現実を知った上で、日本が世界に向けてとるべき方法を、田牧さんにうかがいました。


世界では「日本のおいしい米」は戦えない


カリフォルニアでのコメ作りの様子
カリフォルニアの一般的な中粒品種の価格は、2020年産までは低めで安定し、毎年白米で100万トンの生産と出荷が可能です(実際に、日本政府はその約3分の1を、毎年ミニマムアクセスで輸入しています)。

カリフォルニアは世界中の日本食レストランへの輸出も行っており、世界の日本食はカリフォルニア産米で支えられていると言っても過言ではありません。このカリフォルニア産中粒品種と競争して日本産のコメを販売するには、少なくともその価格をカリフォルニア産米の1.5倍以内で売らないと、販売量を伸ばすことは難しいでしょう。

品質の良いおいしい「ゴハン」だとしても、カリフォルニア産の2倍以上するコメを購入してくれるお客さんを探すのは、簡単ではありません。もちろん、日本の生産者は再生産可能な価格で販売しないと経営が成り立たないので、価格は白米1㎏200円が納得できるところではないかと思います。

カリフォルニア産日本米の価格


ここで、カリフォルニア州オークランド港のFOB価格(日本の港渡し価格)を例にして、価格比較の計算をしてみましょう。

オークランド港を使用し、販売先は主に業務用あるいは消費量の多い家族向けの小売用。カリフォルニア産中粒種白米の輸出用22.68kg袋入りだと、FOB価格は約1ドル/1kg(約110円)になります。

現在、22.68㎏入りの袋に詰めたカリフォルニア産中粒種白米を、コンテナ単位約20トンに積み、ヨーロッパと中東の食品卸業者に輸出販売をしています。カリフォルニアの精米会社に輸出用の準備をしてもらい、港まで運んでもらう条件で購入し販売しているので、実態に近い数字です。


日本産日本米の価格


安価な肥料散布のしかたは、肥料屋さんから台車のタンクで、1回に約3トンの化成肥料をバラで受け取り、ブロードキャスターで水田に散布します
今も2か月に1回程度ですが、日本のコシヒカリをアメリカの高級レストランに卸すために輸出しています。そこで、アメリカからの輸出コストと日本からの輸出コストを比べてみましょう。

日本において、生産者が玄米を販売するときの価格は、1万円~1万2000円/60kgです。この玄米を白米にして考えてみました。

  1. 販売価格……1万2000~1万4400円/60kg (200~240円/1kgで算出)
  2. 運賃(産地から輸出港までの国内トラック運賃)
  3. 輸出通関費用……20~30円/1kg

玄米を白米にすると、約10%の重量減と、10%程度の精米包装費が加わります(実際はこれに港までの運賃や輸出通関費用など、経費のみでも10%程度は必要だと思います)。上記の合計がFOB価格になります。


日本産米の海外での価格競争力


それでは、FOB価格を比較してみます。

●日本の港から日本産白米を小袋入りで輸出
250~300円/1kg

●カリフォルニア州オークランド港からカリフォルニア産中粒品種を輸出
110円/1kg


日本からの輸出は、カリフォルニアからと比べると2~3倍近い価格になってしまうことがわかります。私が日本から輸出しているのは、月平均2トン弱の量です。産直のようなもので少量の輸出のために運賃が割高になってしまい、実質的な利益は非常に小さいです(将来国産玄米価格が下がった時のために、お客さんを確保しておく目的もあって継続しています)。

味と品質は非常に良いのですが、価格が競合品の2倍高い食品が、世界のマーケットで販売量を伸ばすことは不可能です。

日本のように価格に寛大(?)な消費者は、海外には多くはいません。商売として、海外マーケットでコメを売ってきた私から見れば、「日本のおいしい米」の輸出は、「政府補助金の切れ目が輸出の終わり」になると思います。


価格競争力を高めるための直播技術


そうならないためにどうすればいいのか、私からの提案です。

まずは、コメの生産技術とそのシステムの開発・普及に資金と能力をつぎ込む必要がありますが、「低コスト生産」で「価格競争力」を高めてはどうでしょうか。

スマート農業実証事業などの中間報告や新技術の紹介などを、ウェブサイトで読んでいますが、新技術開発とその普及の厳しさだけが伝わってきます。この事業は始まったばかりですが、残念ながらこの状態を何年続けても抜本的な解決は無理ではないでしょうか?

具体策/空から種をまく直播栽培をイネの栽培技術として確立する


2020年に行った、ドローンでの種撒き栽培の生育調査。かなり順調に育っています

空から種をまく直播はカリフォルニアで長年行われている栽培方法で、低コストで生産し世界にコメを販売している実績があります。これを日本向けにアレンジすれば、日本式栽培方法を確立することができるはずです。

移植栽培の育苗と移植のための代かき作業は、誰が見てもコストがかかります。代かきのために大量の水を泥水にしてしまうこともあり、褒められた栽培技術ではないと思います。

直播栽培の優位性は、育苗の必要がなく移植作業も必要ないことです。乾田状態の水田に種をまいてイネの栽培を始めることも可能な、良い方法だと思います。種をまくための本田の準備も、耕起から種まきまで乾燥状態で行えます。乾燥状態での作業は、トラクターと作業機の消耗も痛みも少なく、作業の効率も良くなります。


日本で直播栽培が増えない理由


もちろん、日本でも直播栽培は長年研究され、多くの方式が開発されてきました。しかし、なかなかその面積が増えないのも事実です。

普及しない理由を分析すると、以下のようになります。

1. 乾田状態で種を撒くための「播種機」が高価であること
田植機と同じ程度の高価な機械であり、この機械で種を撒いて高反収が得られるかどうか、大きい不安があると思います。

2. 乾田直播栽培での成功例が少なく、その成功した技術を取得することは難しいと感じている生産者が多い
生産者は「コシヒカリ」や「あきたこまち」などの“おいしいコメ”、すなわち高く販売できる品種を栽培したい意向が強いのですが、「コシヒカリ」での高反収栽培の成功例はほとんどないことが大きな理由と思われます。

3. 現状維持で緊急に解決すべき経営上の問題がないため、新しい技術に取り組むモチベーションがない方が多い
生産規模さえ大きければ、なんとなく儲かるという現状から抜け出せず、新技術の導入や機械設備への投資リスクを取れないコメ作りを行っているのではないかと思います。

直播栽培が普及しない理由のそれぞれに対し、その開発者も普及者もどこまで本気で解決策を示そうとしているのか? そこで、ドローンを使った湛水直播栽培はどうか、考えてみます。


ドローンによる直播栽培の可能性


ドローンの農業利用は近年注目され、液剤農薬を散布するために使う実例が増加しています。近年、粒剤散布装置が開発され除草剤や肥料などの粒状剤の散布が可能になってきました。

しかし、もっとも重要な種子の散布は、いまだ良い装置を確立したとはいえません。種子を播いたとしても、どのような水田の状態(乾田状態、湛水状態、そのどちらでもないなど)に種を撒くのか、さらにその後の栽培の方法についてはほとんど情報がなく、取り組み例の紹介も少ないため、成功例も出てこないのが現状だと思います。

時間をかければ少しずつ良くなっていくのでしょう。ただこの状況を少しでも早くクリアするため、ドローンでの種まき装置の開発と栽培方法の確立を目指し、研究と開発を急ぐ必要があると思います。ドローン播種の作業例を多く紹介し、問題点を出しながらその解決策も検討と研究をして、ドローン播種技術を確立すべきです。

国の補助事業として現場と技術開発が一緒になり、現場で使える技術の開発に期待を持っての「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」があり、ドローンでの種まき栽培も新技術開発と普及としていくつか採択されています。

この補助事業とは別に石川県とオプティムで開発している、代掻き後の水田にドローンから種子を打ち込む方式の「ドローンの直播装置」などの開発も進められています。普及可能な新しい技術や、稲の種まきに適した装置がなかなか出てこない中での直播ドローンの開発は、将来の低コストイネづくりの核となる技術として、大きな期待を持たせてくれるものだと思います。

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    田中克樹(たなかかつき)。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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