コメ生産を諦めないための「低コスト生産」の条件を考える(前編)【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.18】

日本の水田は時間をかけて、コメを作るために水田の区画をそろえつつ、アクセス道路を整備し、用水と排水を分離した水路も同時に整備されてきました。また、イネを栽培するために使う水の水源として、ダム(貯水池)や河川からの取水設備も整備。これらの整備は日本人の主食の増産を主たる目的として、長い年月と国家予算を使って実行されてきました。


2020年10月30日更新の農林水産省資料によると、国内の全耕地面積437万haのうち、54.5%にあたる238万ヘクタールが水田です。

2015年の農林水産省「作付面積統計」資料では、日本の水田の標準的な区画である長さ100m×幅30m=30アール(3,000平方メートル)以上に整備されているのは、水田全面積245.8万ヘクタールのうちの156.4万ヘクタールで、63.8%になっていました。

この水田全面積があれば、これから強く要求される「コメの低コスト生産」を行うために必要な比較的大きな区画の水田がそろいます。そしてそれらをまとめて耕作できる面積が、日本には十分にあると言えるでしょう。

今回から2回にわたって、日本のコメ生産を持続可能なかたちで進めるための方法を、より具体的に生産面積、生産量、担い手などに分けて考えてみたいと思います。


コメの低コスト生産可能な面積と生産量を考える


まずは、国内のコメの総生産量を見てみましょう。

30アール以上の水田156.4万ヘクタールで収穫できる玄米総収穫量は、10アール当たりの全国平均反収550kgで換算すると、860.2万トンになります。

これに加え、30アール未満の区画の水田、未整備の水田などは89万ヘクタールあります。区画が小さいことで生産に多くの時間がかかりますが、同じ反収で計算すると約490万トンの玄米が生産可能です。

つまり、日本全国の水田でイネを栽培すると、合計約1350万トンの玄米が生産可能となる計算です。

ただ、農地面積は毎年2万ヘクタール前後減少し続けており、2015〜2022年までの7年間を見ると約14万ヘクタールの田が消滅しています。

同時に、人口の減少と国民1人当たりのコメ消費量も減りつつあり、2022年の年間総消費量(予測)は約700万トン。単純計算ですが、2015年当時の水田面積の50%でイネを作付けると、日本の年間国内消費量はほぼ満たされます。



コメ作り生産者にとって「転作」はそれほど簡単ではない


国内消費が落ち込んでいながら従前どおりにコメを生産し続ける生産過剰状態は50年以上続き、多くのコメ生産者はコメ以外の作物への生産の転換を求められてきました。

本業としてコメ作りを行い、新しい生産技術を毎年学びながら経験を積んできた多くの生産者にとって、コメ以外の作物生産に取り組むには、栽培技術も機械設備もすぐに使えるものが少なく、何も作物を栽培していない「管理転作田」や、最悪の場合は「耕作放棄」となってしまうケースも増えてしまいました。

国がコメの作付面積を制限しコメの生産量を抑えたことによって、コメ産地の生産者は、
  1. 自らのイネ作付面積を減少させる
  2. 生産を地域の他の生産者に任せる
  3. 機械を使う必要のある作業を委託して、自らのコメづくり経営を縮小する
といった選択をしてきました。

この現象はコメ作り経営の2極化を年々進め、主たる生計をコメの生産・販売に依存する生産者数の減少と同時に、水田と栽培作業を集約した大規模経営者を増加させてきました。

このような変化は、国内のコメ生産者に対して生業としてのコメ生産から事業経営としてのコメ生産と販売に目的を変化させ、経営の方法も変化させてきました。

コメ作りに必要な機械類の購入においても、新機能を持った新型機械価格は当然高額になっています。投資対象機械の償却年数と毎年の稼働時間による、時間当たりの償却費と機械を使うことで作業面積の拡大や、生産量の増加による売上増加を考慮し、投資の有無を決定するようになりました。

そして、生産物の販売単価についても、かつての国が決めた「米価」での販売から、単価がコメの需給によって上下するようになりました。生産量と在庫量の増加に伴う売買価格の低下も、否応なく経験させられています。販売価格の変動を回避するため、新しいツールを使って個別消費者へ直接販売する「ネット販売」や、大規模な生産であるがゆえに可能となる実需家との「直接取引」まで多様なルートで販売する経営も出てきています。


コメ生産者の高齢化と若者の参入を阻む状況


コメ生産・販売などの変化によって、大規模なコメ作りによる収入を柱としてきた生産者も、次の世代にコメ作り経営を引き継ぐことが可能なのか、悩みながら経営をしています。若い世代の生活をコメ作り経営で成立させるには、苦しい選択が必要な状況に置かれています。その結果、後継者としてコメ作りに参入する若い世代の数は減少の一途をたどっています。

コメ販売価格の低下や国内消費量の減少、コメ生産者の年齢による体力の衰え、高性能作業機械類の高額化といった諸事情からコメ生産者が減少し、否応なしに生産者1人当たりのコメ栽培面積が拡大してきました。この傾向はこれからも続くでしょう。

最近の経営環境の変化として、比較的経営規模の大きなコメ生産者にも後継者がなく、コメ作り面積の縮小か経営を止める生産者も出てきました。その経営と作業の引き受け手は年々減少し、規模を大きく経営している生産法人などが、唯一作業を引き継いできました。

生産法人の構成年齢(実際に作業をしている方々の年齢)も上昇し、どこまで新規に引き受けることができるか、不安を持ちながら毎年経営をしています。さらに追い打ちをかけるように、玄米の販売単価も確実に下がっています。生産過剰の状態が解消されたわけではなく、コメ加工品も含めた国内のコメ消費量は、毎年10万トン以上も減少しています。

特に、今年はイネ栽培には不可欠な肥料や燃料などの生産資材の価格上昇も非常に大きく、どこで利益を出せるのか見通しが立たないという経営者も、少数ではありません。50年におよぶ国内のコメ生産過剰と減反政策、そして後継者不足と国内消費が減少しているというのが事実です。

2022年はさらに、生産のための肥料や燃料などの費用の高騰もあり、利益を上げる見通しが立たない経営も多いと考えられ、国内のコメ作りに明るい未来が見えない状況とも言えます。

コメの生産規模拡大のためには、中小規模の生産者が大規模生産者や生産法人にコメ生産を集中させることが、国内コメ作りを強い経営に変えると私も思っていました。しかし、状況の変化は前述のように、改善の可能性をつぶすかのように、予想以上に早く進んでいます。

まず、コメ生産現場に人が少なくなりすぎました。コメ生産の未来を託すべき若い世代には、生計が立つかどうかも明確に伝えられず、コメ作り経営に魅力を感じてもらえなくなりました。これまでの国内コメづくりは、「ジリ貧で希望の持てない仕事」と感じられているとも言えるでしょう。



1人あたり50haを栽培するための低コストコメ作り


ただ、別の見方をすれば、現状の環境変化を、将来のために「どのように考え、対策をするかを真剣に考えるタイミング」ととらえることもできます。

私は、水田の整備が進んだことで、ある程度の機械力があれば生産者1人当たり30~50ha、2人の作業者が効率よく作業ができれば50~100haのコメの栽培が可能だと考えています。

仮に156万haの面積とした場合、30a区画の水田を1人あたり50ha栽培すれば3万人、(1人あたり100haの場合は1万5000人)の生産が可能になります。

とはいえ、アメリカやオーストラリアの大面積で、生産者が200~300馬力のトラクターやコンバインでの作業光景は想像できても、日本の水田で耕作者1人が50haでコメを作ることは、想像しにくいことです。

しかも、水田の区画が100m×30mの30aです。水田区画が小さすぎて効率よい作業ができないと考えられるかもしれません。コメの目標とする生産費との兼ね合いもあり、大きな機械類の導入は、その償却費負担などを考えると、経営的に成り立たせるにも困難です。

日本で50haのコメづくりをより広範囲で実現するには、水田区画や用水路と排水路のシステム、道路からのアクセス条件などに合った大きさの、作業機械を使って行う栽培体系でなければなりません。生産コストの削減には作業時間を大きく減らす作付け方式に、変えることが必要になります。

そのために大切なことは何か。次回は、1人50haのコメ栽培を実現するための具体的な栽培方法、栽培技術、活用できるシステムなどについて考えてみたいと思います。

【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。