野菜の「美味しさ」につなげるためのスマート農業の取り組み〜中池農園(前編)

中池農園(広島市)は園芸施設で栽培するコマツナについて、播種日を入力すれば、以後の作業の日程が自動で算出される独自のソフトを活用している。切れ目なく出荷するために使う箱は野菜が傷みにくい構造を採用。自ら土壌診断をして施肥をすることで「美味しさ」につなげ、市場から高い評価を得てきた。

中池農園が野菜の「美味しさ」につなげるために採用している工夫について聞いた。

中池哲平さん

土壌のミネラル分の分析とタイムロスの削減


経営者の中池哲平さん(34)は県立農業技術大学校を卒業後、2年ほど農家のもとで研修を受けてから、農業の経営を始めた。2019年までは125aでコマツナを栽培。2020年からは後編で述べるようにコマツナを減らして、観光農園でのイチゴの栽培に着手している。

中池農園のコマツナ(提供:中池農園)

そんな中池農園が大事にしてきたのは毎作の土壌診断。公的機関に委託するのではなく、自分で機器を取りそろえて分析をこなしてきた。その理由は、ミネラルの分析とタイムロスの削減のため。

「うちは美味しい野菜をつくるため、ミネラル分を意識している。光合成を活発にするためには鉄が大事だけど、多すぎれば生理障害が出てしまう。だからきちんと分析したいけど、公的機関では鉄までは調べてくれない」

一方、中池さんはタイムロスの削減については次のように説明する。

「公的機関はEC(電気伝導度)やpH(酸性度)はすぐに結果を知らせてくれるけど、そのほかの成分については1カ月近くかかることもある。自分で分析すればすぐに結果が出ますからね」

ただ、最近は土壌分析の頻度は減った。中池さんは「作っているうちに現状がわかるようになってきたので。だから土壌分析はもう1年はしていないですね」と話す。


播種日の入力で防除と収穫の適期を自動算出するソフト


中池さんが「美味しさ」にこだわるのは独自のブランドで販売しているから。系統出荷であるものの、実施的には個選個販。JAには伝票を通すだけだ。

市場での評価を得るためには切れ目なく出荷することは大事だ。そのためにプログラマーの兄に頼んで制作してもらったのは作業日程を自動で算出するソフト。エクセルに播種日を入力すれば、2回の防除と収穫の適切な日付を示してくれる。

防除と収穫の時期を予測する(提供:中池農園)
算出に使っているデータは過去3年間の作業記録。その平均値を基に播種日から防除と収穫にかかる日数を自動ではじき出す仕組みだ。

中池さんが管理する施設は9棟。このソフトを活用することで、各棟から途切れることなくコマツナが収穫できるようになっている。


市場で評価されるオリジナル段ボール箱


もう1つ商品に対するこだわりが表れているのが、「出荷用の段ボール箱」。通常は包装したコマツナを寝かして入れる。一方、中池さんは縦長の箱を採用して、立てた状態で入れられるようにした。

中池農園が独自に発注する段ボール箱
立てた状態での出荷にこだわった理由は2つある。1つは寝かすと上からの重量で下の商品がつぶれてしまうことを避けるため。もう1つは立てて入れる方が、段ボールのふたを開けて上から覗いた時に「統一性があって、ビジュアル的に美しい」から。

これに関しては少し付け足したい。中池さんが採用した段ボール箱はガムテープを使わずに、ふたを開け閉めできる構造になっている。しかもそのふたが付いている場所は、側面ではなく、上部だ。

ガムテープを使わずに済む構造を採用したのは、市場関係者が検品する手間を省くため。確かに検品するたびにガムテープをはがしたり、貼ったりするのは面倒だ。

開閉するふたの位置については、側面にすると、開けたときに見た目が「ぐしゃぐしゃとした感じで印象が良くない」。上部にすれば、先に述べたように見た目で好印象を与えられる。


空調服やミストファンで快適な作業環境づくり


ところで中池農園を訪ねたのは真夏だった。ハウスを見せてもらうと、中で働いている従業員が空調服を着ていることに気づいた。空調服とは、服に取り付けてある小型のファンが内部に外気を送り込んで、汗を気化させる特殊な服のことである。中池農園で購入して、すべての従業員に配っているとのこと。

また、快適な作業環境をつくるという観点からミストファンも活用している。といっても施設に固定しているわけではなく、既製品のミストファンを運搬車に取り付けている。発生する霧状の水は、作業をしている人に降りかかるような向きにしている。

中池さんは「ミストファンを使うかどうかで快適さがまるで違いますね。使うと、まるで水浴びをしながら作業をしている感じ」と語る。

中池農園が抱える従業員は常時雇用が9人、臨時雇用が4人の計13人。いずれは法人化することを検討している。そのために経営理念をつくることに思案する毎日だ。

「経営理念は大事。会社がどちらの方向に向いているかわからない状態の中、仕事をしたくないでしょ。少なくとも自分はそうです」

ではどんな経営理念にするのか。

「人の喜びを自分の喜びと感じられるような言葉がつくれたらいいですね」。

中池さんがこう語るのは理由がある。これからは「感動産業」といえる農業の経営を築いていきたいのだ。

次回は2020年産から始めたイチゴの観光農園とデータ活用について紹介したい。


小松菜・ほうれん草なら広島市の中池農園 | 広島市・安芸高田市で小松菜・春菊・ほうれん草を生産する農家です。
http://nakaikefarm.com/

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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