「TPP」が日本の農業に与える影響とは?

ニュースでもたびたび耳にする「TPP」。2018年5月25日に、衆議院本会議でその関連法案が可決された。いよいよ、TPPが日本でも動き出す。

TPPについては、ポジティブなものからネガティブなものまでさまざまな情報が錯綜している。TPPによって私たちの暮らし、そして日本の農業はどう変わるのか。ここではTPPが締結されるまでの過程を追いながら、今後の展望を考えてみたい。

TPPが目指す「新たな経済圏の構築」

TPPとは、「環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership Agreement)」の略称だ。その地域に属する国々の間で締結を目指す経済連携協定のことを指す。一言で言えば、TPP加盟国間での輸入関税を撤廃し、より自由に貿易を行えるようになる。


内閣官房ホームページによれば、TPPが実現することで、ヒト、モノ、資本、情報が自由に行き来するようになり、環太平洋地域を世界でもっとも豊かな地域にすることに資する、とされている。

たとえば、TPPの中ではデジタル・コンテンツへの関税賦課を禁止している。また、ソースコードの移転やサーバーの現地化要求を禁止し、協定を結んだ国々で情報を自由に流通できる環境を構築することが可能になる。農作物の輸出・輸入に関しても同様だ。

TPPが目指すのは、モノの関税以外にもさまざまな分野で自由化を進めるとともに、新たなルール作りを実現することだ。具体的には、サービス、投資、電子商取引、知的財産など幅広い分野に渡る。

2015年10月に開催されたアトランタ閣僚会合において大筋で合意しており、2016年2月にニュージーランドで署名された。また、日本は2017年1月に国内手続きの完了を寄託国であるニュージーランドに通報して、TPP協定を締結した。

こうした流れの一方で、世界最大の貿易大国・アメリカが2017年1月に離脱を表明。TPPの実効性に疑問を持つ声も上がっている。

日本をはじめ11カ国でTPP大筋合意へ。その経済効果は?

アメリカ離脱後、残りの11カ国でTPPの早期発効に向けて協議が行われた。そして、2018年3月、日本を含む11カ国の閣僚が署名して、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が合意された。

TPPを締結したことによる経済効果はどのような試算が出ているのだろうか。外務省の資料によれば、実質GDPは約8兆円、労働供給は約46万人押し上げる効果があると言われている。

日本のGDPが約500兆円であることを考えると、その効果は限定的ではないかという疑問も残る。しかし、TPPは現在の枠組みだけで動くことは想定していないと思われる。外務省の資料で、TPPについて「自由で公正な21世紀型のルールを作っていく上で重要な一歩であり、米国や他のアジア太平洋諸国・地域に対する積極的なメッセージになる」と説明されているように、今後TPPへ参画する国や地域を増やしていきたいという狙いがあると推測できる。そういう意味では、11カ国の取り組みが成果を上げられるかどうかが、今後のTPPを大きく左右するのではないだろうか。

現状のTPPは日本の農家にどのような影響を与えるか

これからさまざまな分野で日本に影響を与えるであろうTPP。特に、その影響が大きいと考えられる分野が農業だ。

農林水産省の資料では、2019年の農林水産物・食品の輸出額を1兆円にすると目標が掲げられている。TPPをはじめ日EU経済連携協定(EPA)といった経済連携協定によって輸出先国の関税が撤廃され、日本の高品質な農林水産物などの輸出拡大を図ることができると述べられている。いわゆる「攻めの農業」をグローバルで実現しようという政府の大目標である。

しかし、関税が撤廃されるのは輸出先国だけではない。日本が他国から農林水産物を輸入する際にも、一部の品目を除いて関税をかけることができなくなる。安い外国産の農作物や、付加価値の高い農作物が日本に大量に入って来る可能性もある。日本の農業界ではこの点を指摘して、高齢化や担い手不足といった問題を抱えている日本の農業が、さらに打撃を受けるのではないかと懸念されている。ただし、米や小麦といったに関してはこれまでの税率を維持する重要5品目のような例もある。

TPPによって農業がどのように変化するか、国と農業界では大きく見方が分かれているのが実情だ。

アメリカの離脱の影響は? TPPのこれから

農業分野を見てわかるように、TPPは楽観的な見方と悲観的な見方が混在している状態だ。はっきり言えることは、実際にTPPが機能しないことには、その影響はわからないということだ。

さらに、今後気になるのはアメリカの動向だ。世界最大の貿易国であるアメリカが抜けたことで、TPP締結による経済効果はGDPベースで約6兆円減少し、雇用の面でも34万人も減っているという。報道ベースでは復帰の可能性もあると言われているが、アメリカの影響力を失うことで、TPPそのものの価値が今後問われることにもなるだろう。

一方で、アメリカが離脱したことで、TPP参加11カ国の中でもっともGDPが大きい国は日本になる。そうなると、日本が主導権を握って、今後のTPPを前進させることが可能になるかもしれない。TPPをうまく機能させれば、「一帯一路」政策で世界的な影響力を増している中国に対抗できる可能性もある。

農業はもちろん、様々な産業界にとって影響が大きいTPP。今後のTPPの動向に要注目だ。


<参考URL>
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉 | 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/
TPP等政府対策本部
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000022863.pdf
TPPについて:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/
林業・木材産業分野における TPP対策 - 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/tpp/pdf/hp_rinsan_zentai.pdf
TPPの日本農業への影響と今後の見通し - 農林中金総合研究所
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1601re4.pdf
総合的なTPP等関連政策大綱 - 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/eu_epa/attach/pdf/index-11.pdf


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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