話題の「パリ協定」から、脱炭素化へ向けた日本の取り組み、農業の役割を考える

第46代アメリカ大統領に就任したジョー・バイデン氏は、就任初日から15件の大統領令に次々と署名し、トランプ政権時に脱退した「パリ協定」に復帰する方針を示しました。

これにより世界の気候変動対策は重要な一歩を踏み出したことは間違いありません。画期的とも言われている「パリ協定」ですが、一体どのような取り決めが行われているのでしょうか。

この記事では、「パリ協定」における日本の方向性や取り組み、農業関連で考えるべきことについてまとめました。

「パリ協定」とは



パリ協定は2015年にパリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にて合意された、2020年以降の気候変動に関する国際的枠組みです。

「55カ国以上が参加すること」、「世界の温室効果ガス総排出量のうち55%以上をカバーする国が批准すること」、この2つがパリ協定の効力を発揮するための要件となっていましたが、当時の米大統領であったバラク・オバマ氏が中国やインドなどに呼びかけを行い、2016年11月4日に発効されました。

パリ協定の長期目標


パリ協定では以下の2つを長期的な目標としています。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること
  • できる限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトさせ、21世紀後半には温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとること


画期的といわれる2つのポイント


  • 途上国を含むすべての参加国に対して温室効果ガスの排出削減を求めることができる枠組みとなっている
  • 削減目標についてはその国の情勢などを考慮し、各国で自主的に取り組みを策定することが認められている

各国で決めた削減目標は従来よりいい方向に進むよう、5年ごとに提出・更新する必要があります。


「京都議定書」と「パリ協定」の違いは?


環境問題への取り組みに対する大きな節目ともなったのが1992年の「地球サミット」でした。この時に「気候変動枠組条約」が作られましたが、当時は地球温暖化についてよくわかっていない部分も多く、具体的な目標については触れられていませんでした。

そこで1997年に京都で行われた国連気候変動枠組条約締約国会議にて、「温室効果ガス排出削減」、「深刻化する温暖化に対応すること」を目的に細かなルールを定めたのが「京都議定書」です。

「京都議定書」も「パリ協定」と同じく気候変動枠組条約の一部であり、2020年までを対象にしたもので、「パリ協定」では2020年以降の目標を定めています。

ただし、この2つには大きな違いがあります。それは、すべての参加国に対して排出削減を求めることのできる「パリ協定」に対し、「京都議定書」は排出責任のある先進国に課した目標であったこと、法的拘束力があったことでした。

なお、「京都議定書」では2012年までが第一約束期間、その後は改正案として2013年から2020年を第二約束期間としていましたが、日本は不参加となっています。


日本における気候変動対策の方向性


国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)が2018年に発表した報告書では、約1℃温暖化していて、このままのペースでいけば2030年から2052年の間に1.5℃まで上昇する可能性があると見ています。これを止めるには2030年までに2010年の水準から45%の排出削減、2050年ごろまでに排出量を正味ゼロにする必要があるようです。

この報告を受け、日本では2030年度までに温室効果ガスの排出量を、2013年度比で26%削減することを中期目標としています。

経済活動と低排出型社会の両立を目指すにはどのような対策を取ればよいのでしょうか。それぞれの分野で推進されている施策を紹介します。

産業分野
  • 低炭素社会実行計画の着実な実施と評価・検証:BAT※の導入をもとに削減目標の策定、評価・検証
  • 設備・機器の省エネとエネルギー管理の徹底:省エネ性能の高い設備導入、エネルギーマネジメントシステム(FEMS)の導入
※Best Available Technology(経済的に利用可能な最善の技術)

業務その他部門
  • 建築物の省エネ対策:新築建造物省エネ義務化やネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の導入
  • 機器の省エネ:LED照明やトップランナー制度による省エネ性能向上
  • エネルギー管理の徹底:エネルギーマネジメントシステム(BEMS)の活用

家庭部門
  • 国民運動の推進
  • 住宅の省エネ対策:新築住宅の省エネ義務化やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)導入
  • 機器の省エネ:LED照明や家庭用燃料電池を導入
  • エネルギー管理の徹底:エネルギーマネジメントシステム(HEMS)やスマートメーターの利用

運輸部門
  • 次世代自動車(EV、FCV等)の普及、燃費改善
  • 交通流対策やエコドライブ、公共交通機関利用推進

エネルギー転換部門
  • 再生可能エネルギーの最大限導入:固定価格買取制度の適切な運用や系統整備
  • 火力発電高効率化など:BATの採用、小規模火力発電への対応
  • 安全性が確認された原子力発電の活用

その他温室効果ガスおよび吸収源対策
  • 非エネ起源CO2、CH4、N2O、代替フロン等4ガス、森林吸収源対策の推進


農業分野で行われている取り組み


こうした各分野の取り組みと並行して、農業分野でもさまざまな取り組みがされています。直接的には施設園芸などで使われる化石燃料を用いた加温技術やCO2生成装置を、自然エネルギーなどを用いたものに転換していくことが挙げられます。また、営農型ソーラーシェアリングなどを活用した環境保全型農業などもあるでしょう。さらに、間接的な取り組みとしては、食品ロスを削減することも大事な取り組みのひとつです。

  • 省エネルギー生産管理の普及啓発
  • 施設園芸省エネ設備や、燃油に依存しない加温技術の導入推進:ヒートポンプ、木質バイオマス利用加温機、太陽熱や地熱を利用した加温システム
  • 省エネ技術を活用した産地形成に向けた取り組み:実需者と連携した強みのある産地づくり
  • 環境保全型農業の推進:直接支払交付金など
  • 食品ロスの削減


日本の温室効果ガス総排出量


2019年度の総排出量は12億1300万トンで前年と比べて2.7%、2013年と比べると14%の減少となっているようです。要因としては省エネの推進、電力の低炭素化などが挙げられています。

出典:「2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量」(環境省) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/index.html
表を見てもわかるように日本の温室効果ガス排出量の90%以上がCO2であり、そのうち84%がエネルギー起源によるものです。日本の中期目標である2030年までに26%の排出削減では、2050年までに排出量をゼロにするのは不可能だという指摘もあり、目標設定の引き上げを求める声も出てきています。


パリ協定の本格運用開始



近年日本では異常気象による台風や大雨の被害が頻発していますが、これらの異常気象が地球温暖化の動きと一致しているという発表もあります。

2020年から「パリ協定」の本格的な運用が始まりましたが、日本だけでなく世界中で地球環境をめぐる危機感がさらに高まっていることは明白です。これらの目標を達成するためには企業だけでなく、個人レベルで脱炭素化に対する意識を高めていくことが必要になってきます。

パワーが求められる農業機械においては、まだまだ化石燃料によるエンジンが使われていますが、自動車と同様に今後はこれらも代替エネルギーを用いたものに変わっていくでしょう。ハイブリッドエンジンを流用した農機の研究や、

そしてなにより、温室効果ガスを吸収する役目を担う植物を扱う農業という産業の存在自体も、大きな意義はあります。自然の力を最大限活用して、地球環境を守ることも、農業の意義とも言えるかもしれません。

持続可能な農業により、持続可能な環境と地球を支えることも、農業を将来に渡って存続させる上で大切な考え方になっていくでしょう。


地域における取組事例(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/jirei_ondanka.html

農林水産省「農業分野における気候変動・地球温暖化対策について 生産局農業環境対策課」(pdf)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/index-99.pdf
環境省「環境省における気候変動対策の取組」(pdf)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/pdf/001_s01_00.pdf
環境省 令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第1節 近年の異常気象と気候変動及びその影響の観測・予測
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/html/hj19010201.html

WWFは、菅総理「2050年温室効果ガス排出量ゼロ」表明を歓迎する ~実現には、2030年の削減目標の大幅引き上げが必須~(WWFジャパン)
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/4454.html
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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