食料の次はエネルギーの自給率 農業がカギを握る 「バイオマス活用推進基本計画」の取り組み事例を知ろう

いま世界では地球温暖化や海洋汚染などの環境問題が深刻化し、企業や個人においても解決に向けた取り組みが行われています。その中でも特に自然と密接に関わっている農業では、使用する資材やそれらの使い方によっては環境へ負荷をかけるものも少なくないことから、環境への影響を考慮しつつ生産活動を行うことが求められてきています。

日本でも環境問題に対するさまざまな取り組みが行われる中で、エネルギーなどで利用可能な「バイオマス」にも注目が集まっているのをご存じでしょうか。

今回は、農業と関係の深いバイオマスの基礎知識をはじめ、2022年9月に閣議決定された新しい「バイオマス活用推進基本計画」について紹介します。

バイオマスとは



バイオマスとは、主に植物に由来する資源のことを指します。これまでの化石燃料(石油、石炭など)に代わる資源として、注目されています。

家畜排せつ物や食品廃棄物からなる産業廃棄物系、稲わらやもみ殻などの未利用系、さとうきびやとうもろこしなどの資源作物の3つに分類されていて、エネルギーや製品の素材に変換して利用することができます。

農業生産に由来するバイオマス資源と活用例
  • 農作物残渣(稲わら・麦わらなど):バイオエタノール・メタンガス・木質固形燃料・木炭など
  • 家畜排せつ物:メタンガス
  • 資源作物(さとうきび・とうもろこし・なたねなど):バイオエタノール・バイオディーゼル燃料など

最近では、とうもろこしデンプンなどを利用した「バイオマスプラスチック」も見られるようになってきましたが、農業由来のものをはじめ、バイオマス資源のほとんどが暖房や発電のための燃料として利用されています。

バイオマスは植物を原料とするため、太陽と水と二酸化炭素さえあれば持続的に生産可能であることが大きな特徴です。また、地球温暖化の要因となるCO2を大気中で新たに増加させない、カーボンニュートラルな資源としても注目が集まっています。

「バイオマス活用推進基本計画」とは


バイオマス活用推進基本計画は、それぞれの地域が主体となり行うバイオマスの活用に関する施策の推進を図るために策定されたものです。

環境負荷の少ない持続可能な社会、農山漁村の活性化、新たな産業創出といった3つの観点から、バイオマスの利用拡大や推進計画の策定、新産業の規模に関する目標が設定されています。

この基本計画は2009年に成立された「バイオマス活用推進基本法」を基に2010年に初めて閣議決定され、概ね5年ごとに内容を検討し直し必要に応じて変更していくもので、2016年に決定した第二次基本計画について見直しが行われ9月に新たな基本計画が策定されました。

全都道府県で国産バイオマス産業の拡大を目指す


新たな基本計画では、2030年までに国が達成すべき目標として、バイオマス年間産出量の利用率を約80%まで上げていくことを中心に、全都道府県での推進計画の策定や国産バイオマス関連産業で市場シェアを2倍に伸ばすことなどが掲げられています。

2021年に策定された「みどりの食料システム戦略」でも示されているとおり、生産力向上と持続性の両立を推進しつつ、地域資源を最大限活用することが重要として、農山漁村だけでなく都市部も含めたバイオマスの総合的な利用を目指す内容になっています。

第二次基本計画で設定された目標の達成状況については、バイオマス利用量の炭素量換算値で2025年までに年間約2600万炭素トンの利用を目指すところ、年間約2400万炭素トンと達成率は92%。2016年以降は横ばいで推移しているのが現状です。

種類別に設定されているバイオマス利用率については、家畜排せつ物(利用率87%・目標値約90%)、黒液(100%)、紙(利用率81%・目標値85%)、製材工場などから出る残材(利用率97%・目標値約97%)、建設現場で発生する木材(利用率94%・目標値約95%)でほぼ目標を達成しています。

今後は、利用率が目標値よりも低い下水汚泥や食品廃棄物をはじめ、これまで主要指標に含まれていなかった農産物の残渣などについても活用を進めることができれば、年間産出量の約80%利用という目標の達成も可能なのではないでしょうか。

農業生産者への影響は?


農業者は、バイオマスの供給と活用の両方を実施していくという役割を担っていますが、活用しきれていないという実態があります。

たとえば、稲わらやもみ殻などの農作物の非食用部で年間約1200万トンも発生しているバイオマスは、収集や運搬、管理などに手間やコストがかかることから、利用率が約31%と進んでいないのが現状です。新たな基本計画では、これらについても活用の可能性や推進方法を検討することで、2030年時点での利用率約45%という目標が示されています。

また、バイオマスの供給に関しては、供給時期や品質、量などバイオマス製造事業者のニーズに対応する努力を行うことが求められていますが、食料を生産するという本来の農業の目的と、バイオマスとして活用するための農作物の生産のバランスも課題です。

規格外や副産物などのうち食料や飼料用として使用できないものを供給し、食料などの安定供給に支障がないよう配慮することも大切です。

農業での活用事例


農作物などからバイオマスをエネルギーとして活用するためには特別な施設や設備を必要とすることから、農業の過程で発生したバイオマスを活用していくには、地域で原料の収集・運搬・加工・利用するまでの一貫したシステムを構築することが必要です。

ここでは、バイオマス産業を軸にした地域づくりを目指す「バイオマス産業都市」で行われている取り組み事例を紹介します。

富山県射水市のもみ殻の燃料としての活用事例

出典:農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況 分割版 5.主な取組事例(3)」
富山県射水市ではJAや民間企業と連携して「もみ殻循環プロジェクトチーム」を発足しました。もみ殻に含まれるシリカは高温燃焼で結晶化し発がん性物質になるなど、バイオマスとして活用するには課題を抱えていましたが、同プロジェクトチームの研究開発によって結晶化しない可溶性シリカを含む「もみ殻灰」を作ることに成功しました。

もみ殻を燃焼させたときの熱やCO2は農業用ハウスの加温に利用され、もみ殻灰はケイ酸肥料や工業資材などで活用されています。

栃木県さくら市の荒廃農地を活用した燃料用植物の栽培の事例

出典:農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況 分割版 5.主な取組事例(2)」

栃木県さくら市の取り組みでは、再生させた荒廃農地を利用して亜熱帯地域などに自生するイネ科植物「エリアンサス(JES1)」を栽培しバイオマスとして活用しています。

JES1は、農研機構が地域自給燃料として活用するために育成した品種で、九州以北であれば種ができないので雑草化する心配もないというのが特長です。収獲されたエリアンサスは製造施設でペレット化され、市の温泉施設でシャワー用熱源などに利用されています。

地域ぐるみで取り組むことで意味のあるものに


バイオマスは、うまく活用することで農山漁村の活性化や地球温暖化の防止、循環型社会の形成につながるなど持続可能で豊かな社会を築くための取り組みとして期待されています。

原料の収集・運搬・管理にかかるコストなど課題もありますが、地産地消型のバイオマスプラントなどの施設整備の導入支援をはじめ、利用技術に関する研究開発も進んできています。燃料資源に乏しい日本は石油、石炭、天然ガスなどを輸入に頼らざるを得ませんが、ロシア・ウクライナの情勢不安により、コスト以上に自給しなければならない状況が強く現れてきていることから、こうした技術開発の進展にも注目が集まります。

また、ひとりの農業者としてできることは少ないと思われがちですが、小規模農家が多い日本においては、個々の農業者の意識改革と、小さな地域ごとの取り組みが将来の農業問題、エネルギー問題を解決するためには不可欠と言えます。

農業との相性がいいバイオマスを効率的に活用していくためにも、地域や地元企業の情報を積極的に確認しながら連携を進め、できることから取り組んでいきましょう。


農林水産省「バイオマス活用推進基本計画の変更について」
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/bio_g/attach/pdf/220906-2.pdf
農林水産省「バイオマス活用推進基本計画の進捗状況」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-12.pdf
農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況 分割版5.主な取組事例(2)」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-123.pdf
農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況 分割版6.主な取組事例(3)」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-125.pdf

【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
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    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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