「子ども食堂」に農業界が果たすべき役割とは?

今、全国で「子ども食堂」が増加している。「子ども食堂」とは、地域住民など民間発の取り組みとして、栄養のある食事を無料もしくは安価で提供したり、家族での共食(きょうしょく)が難しい子供たちに対して暖かな団らんを経験させたりするものだ。

そして、この子ども食堂には「食育」という側面もある。 2005年に食育基本法が制定され、国としての取り組みも進められている。また、食育アドバイザーといった資格も誕生しており、バランスの取れた食事を、保育園・幼稚園から小学校に通う子どもたちに提供する役割も担っている。

子ども食堂の食材の提供には、地域の農家や企業からの提供はもちろん、フードバンクなども利用されている。食料自給率の問題が取りざたされる一方で、大量に食品が廃棄され続けている日本で、必要とする人に適切な食材を提供するために、今後IoTやAIといった技術も応用されていくだろう。

今回は、この子ども食堂の展開について見ていこう。



子ども食堂が増えている理由

そもそも子ども食堂が広まってきた背景には、家族で食事を取りながらコミュニケーションを図る共食が難しくなってきたことが挙げられる。両親が共働きの世帯はここ10年で上昇し続け、全体でもマジョリティになりつつある。特に、子どもを持つ世帯では顕著に上昇しており、中には世帯の貧困化の影響から、満足な栄養を得られるような食事を子どもに与えることができない家庭もある。

政府は2015年に発表した第3次食育推進基本計画で、重点課題の一つとして「多様な環境に対応した食育の推進」を掲げている。高齢者や子どもを含む全ての国民が、健全で充実した食生活を実現できるよう、地域や関係団体が連携・協働を図って共食を推進することが謳われている。

これを達成するために、現在各地域で食育を目的とした子ども食堂の展開が進められているというわけだ。課題解決のため、行政や法人といった大きな組織だけでなく、地域に住む一個人も参加して様々な形態で運営がなされている。

子ども食堂の意義

2018年3月に公開された「子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集」には、子ども食堂のメリットと運営に関する課題などがまとめられている。この中で、子ども食堂の意義について以下の3つが挙げられている。

1.コミュニケーションを図る機会を増やす

“共食”というキーワードがあるように、食事を共にすることでコミュニケーションの機会を増やす。普段忙しく家族団らんの時間を過ごせない両親や地域の住民と、会話や食事を共にすることができる。子どもたちにとって有意義な時間を過ごせる場所と時間を提供する。

また、食事だけでなく、調理を通じてコミュニケーションを図ることも行われている。調理方法や食材に関する知識を得ることができ、食への理解がより一層深まる。

2.食文化の継承

日本各地には、その土地に根付いた文化がいくつもある。そして、それに付随した食文化も脈々と伝承されている。子ども食堂は、この食文化を継承していく場としても機能している。

文化の継承では、世代を超えてやり取りをすることになる。食事という共通点を持って、子どもから高齢者まで、農家や企業など様々な立場の人が関わることも大きな意義といえる。

3.農業体験を通じた食への理解

地域の農家などが協力して、収穫から料理までを体験できるようなプログラムを実施しているところも多い。食事で使用される材料への理解も、子ども食堂に参加することで深めることができる。

地域で生産される農産物がどのようにできているかを知ることで、子どもたちが農業に接する機会が生まれる。もしかしたらそこから、将来の農業の担い手として活躍してくれる子どもも出てくるかもしれない。

子ども食堂の運営上の課題

このように様々な意義がある子ども食堂だが、事例集のアンケート結果からは、運営上の課題も浮き彫りになってきている。

その一つが「来て欲しい家族に参加してもらえない」というものだ。子ども食堂は「生活困窮家庭の子どもの居場所作り」を一つの目的としているが、そのような家庭もしくは子どもの参加を促すことは、家庭の事情に踏み込む側面もあり非常にデリケートな問題となっている。子どもたちに共食の機会を提供するために、地域によっては保育所・幼稚園や学童クラブ、児童館、PTAなどと連携して参加を呼びかけつつ、必要とする家庭や子どもの参加を待っているという。このような連携が促進されることは、子ども食堂の意義に大きく関わってくるだろう。

そして、もう一つが運営資金面での国や都道府県との連携だ。事例集のアンケートによれば、食材の提供を農林水産業の企業・個人から受けているという割合は、全体の97%にも及ぶ。地域ごとの企業や農家の協力なくしては、子ども食堂の運営は難しい。そして、運営資金の確保に課題があると感じているのも全体の30%に達する。運営財源は個人が出資している場合もあるが、多くは社会福祉協議会、民間、市区町村などの補助金で、国や都道府県からの支援を得ている比率はまだまだ少ない。こうした補助金に関する点は、今後改善の余地があるだろう。

子ども食堂のために農業ができること

食育という観点だけでなく、農業体験などを通じて農業に触れてもらい、子どもたちがその魅力を発見する場にもなりうる子ども食堂という取り組み。食材の提供や農業体験などを通して、農業の醍醐味や農作物の魅力を子どもたちに積極的に伝えることはとても大きな意義があるだろう。

全国の子ども食堂では、食材の提供や農業体験などをサポートしてくれる企業・個人を募集しているところも多い。興味を持たれた方は、近所の子ども食堂にぜひ声をかけてみてはいかがだろうか?


<参考URL>
「子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集」の公表について
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/hyoji/180412.html
子供食堂と連携した地域における食育の推進
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomosyokudo.html
子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/00zentai.pdf
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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