若者の就農ブームを終わらせない、青年等就農計画制度とICT技術の進歩

国内の生産年齢人口は減少の一途を辿っている。

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によれば、「15歳から64歳までの男女」と規定された生産年齢人口は、1995年の約8,717万人をピークに減少が始まり、2012年には8,000万人を割り込んだ。この推計によれば、2025年には約7,100万人にまで減少すると見られている。

こうした状況のなか、農業における労働人口も厳しい現実に直面している。



高齢化が加速する農業人口

農林水産省の発表によれば、国内の農家戸数は、生産年齢人口の減少よりもずっと早く、1950年には減少が始まっている。農業に従事していた人々が都市部の雇用に流れたことや、高齢による離農が続いていることが大きな要因になったと分析されている。

一方で、基幹的農業従事者全体に占める65歳以上の割合は増加傾向にある。特に中国地方では、7割を超える従事者が65歳以上というのが現状だ。労働人口が減るばかりでなく、高齢化が加速しているのである。

こうした傾向にある以上、そう遠くない将来に、高齢の彼らが次々に引退し、深刻な農業労働力の不足を招くのは明らかだ。

しかし、国内の農業において語られるのは、こうした暗い話ばかりではない。新規に就農しようという者の数も増加傾向にある。

農林水産省の統計によれば、2016年の新規就農者数は6万150人。6万人を超えたのは前年に続いて2年連続だ。このうち、49歳以下は2万2,050人となっており、3年連続で2万人超えとなった。若者の間で就農ブームが起こっている、とする根拠のひとつである。


農林水産省の制度が新規参入者の就農資金と農地確保を下支えする

こうした動きを後押ししているのが、行政の用意する就農支援の制度だ。

現状、農業を開始する際に大きな課題となって希望者たちを足踏みさせているのが、資金と農地確保の問題だ。農業もビジネスである以上、いずれも大きな課題だが、農林水産省では、これらを下支えすべくさまざまな制度を用意している。

新規就農における資金については、自己資金を充てている割合が9割を占めているが、就農支援資金などの制度資金を活用するケースが少しずつ増えてきている。

また、農地の確保においても、自分で直接確保する人が4割近くであるのに対し、農業委員会や農協などの農業関連機関、農地保有合理化法人などのあっせんによって確保する事例も3割を超えるほど高くなっている。こうした制度が、新規就農者の獲得に一役買っていることは間違いない。


各市町村で行われている支援制度「青年等就農計画制度」とは

これまで見てきたような状況のなか、2014年度から推し進められているのが「青年等就農計画制度」である。

青年等就農計画制度とは、新たに農業経営を営もうという青年等に具体的な就農計画を作成させ、それを市町村が認定することで、早期に経営が安定化させられるようなメリットを付与していくというものだ。ここでいう青年とは、原則18歳以上45歳未満の者をいう。

また、「青年等」としているのは、対象となるのが青年のみならず、知識・技能を有する65歳未満の者、あるいは知識・技能を有する者が役員の過半を占める法人を含むからだ。

作成する就農計画には、次の要件が必須となる。

  1. その計画が市町村の基本構想に照らして適切であること
  2. その計画が達成される見込みが確実であること
  3. 目標を達成するための知識・技能を有する

適切な就農計画を作成し、それが認定されれば、就農者は無利子の就農資金の融資をはじめとした数々のメリットが受けられる。
その支援措置はいずれも、就農の段階から経営の改善・発展段階まで一貫した支援を意図したもの。地域農業の担い手となってもらえるよう、支援を手厚くすることで、新規就農者を大幅に増やそうという狙いがある。

参考サイト:農林水産省青年等就農計画制度について(http://www.maff.go.jp/j/new_farmer/nintei_syunou.html


支援制度とICTが若者の就農をブームで終わらせない

農業における人材確保のために、あらゆる場面でさまざまな試みが行われている。

政府の掲げる「女性の活用推進」をもとに、女性農業者と企業を結びつけようという「農業女子プロジェクト」が2013年より開始されていたり、北海道や愛媛県、沖縄県などでアルバイトや派遣社員という形で働き手を確保しようという動きが広がっていたりするのは、その一例といえる。

そんななか、ここ数年で農業に対するイメージが変わりつつある。かつてはきつい、汚いという印象の強かった農業だが、食の安全性に対する意識の高まりや、ICT技術の進歩などが、就農を希望する若者たちの背中を押している。

特に、ICTを用いた農業は、生産の劇的な効率化が図られるばかりでなく、生産物の高付加価値化、低コスト化を可能にし、重労働、低賃金を嫌う若者たちを惹きつける理由のひとつとなっている。従来の販売ルートに頼らず、インターネットによる販路が開かれているのも、新規の就農者にとって心強い可能性のひとつだ。

行政による新規就農者に対する支援措置の広がりと、ICTによるスマート農業の進化は、若者の就農ブームが一過性のもので終わらせないための鍵を握っているといえよう。


<参考URL>
(2)農業従事者、新規就農者の動向 ア 農業従事者の動向:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_2_1_02.html
新規就農者調査:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sinki/
青年等就農計画制度について:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/new_farmer/nintei_syunou.html
農業にもバイト・派遣 JA・農業法人活用進む 人材確保へ他地域からも :日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKASDJ06H0A_W7A500C1MM0000/

ICT農業の現状とこれから(AI農業を中心に)| 食料産業局知的財産
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/sosyutu/aisystem/pdf/ict_ai.pdf
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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