本格始動した「みどりの食料システム法」とは? 支援対象となる取り組みや内容を紹介
2022年7月1日に施行された「みどりの食料システム法」の本格運用が開始しました。
今回は、「みどりの食料システム法」とはどんな法律であるかをはじめ、対象となる取り組みや支援内容など、申請を検討している生産者や事業者が知っておきたいポイントを紹介します。
「みどりの食料システム法」とは、食料の生産・加工・流通・消費までをひとつの仕組みとしてとらえて、持続可能な食料生産を可能にするための政策である「みどりの食料システム戦略」の実現を目的とした法制度です。
この法律では、環境負荷低減に取り組む生産者や新技術の提供等を行う事業者に対し、環境負荷低減の取り組みの促進として認定制度を設けているのが特徴です。生産者や事業者は取り組みに関する計画を申請し、認定されればさまざまな支援措置を受けることができます。
こうした支援制度を設けることで実践していく関係者を増やすことが狙いですが、残念ながら、戦略自体の認知度は高いとは言えない状況にあります。
また、目標として掲げられている有機農業の拡大をはじめ、化学農薬や化学肥料の使用削減については、次世代のために推進したいと考える生産者は多いものの、実現が難しいのではといった現実的な声も。
なお、実施計画の作成については、支援措置の1つである「みどり投資促進税制」の対象期間が2024年3月31日までとなっています。申請を考えている方は今から準備を始めてみましょう。
2021年9月に行われた「国連食料システムサミット」の開催に向けて、「みどりの食料システム戦略」が策定されました。これには、気候変動といった環境問題への対応強化が世界で叫ばれる中、日本に先立ちアメリカやEUで農林水産業の持続可能性に関わる目標が掲げられたことも強く影響していると考えられています。
また、2020年5月にEUが発表した食料環境政策である「Farm to Fork戦略」が、2030年までに化学農薬の使用半減、有機農業を全農地の25%に拡大など、「みどりの食料システム戦略」で掲げられている数値目標とほぼ同じ内容になっていることからも、諸外国と比べて農薬の使用が多い日本においても世界の流れに対応していく姿勢を見せています。
そして、今回本格的に運用が始まった「みどりの食料システム法」は、生産者だけでなく事業者や消費者がそれぞれの活動の中で食料生産における環境負荷低減への対応を促進するために作られました。欧米とは気象条件などが異なるアジアモンスーン地域の取り組みモデルとして、持続可能性と生産性向上を確立するための法律となっています。
では、生産者や事業者が支援を受けるにはどのような活動を行う必要があるのでしょうか。対象となる具体的な取り組みを見ていきましょう。
なお、申請を考えているものの現段階でどう進めて行けばいいかわからないという方は、農水省が紹介している環境負荷の低減に取り組む生産者の事例や、現段階で利用可能なスマート農業技術などを参考にしてみるのもおすすめです。
環境負荷低減事業活動
特定環境負荷低減事業活動
特定環境負荷低減事業活動は、特定の区域内において2戸以上または相当程度の共同で取り組み、生産方法などの共通化を図り、地方自治体と連携して地域内の環境負荷低減を高める事業活動を行うことが要件となっています。具体的な取り組み内容は以下の通りです。
有機農業の栽培管理に関する協定
有機農業の栽培管理に関する協定は、特定区域内で市町村長の認可を受けて、農業者同士が栽培管理についての協定を締結できる制度を創設し、地域ぐるみで有機農業の団地化を促進するためのものです。
協定の締結には、対象となる農地の区域、栽培管理に関する事項、最長で5年の協定の有効期間、協定に違反した場合の措置等が含まれています。例えば栽培管理に関する事項では、有機農業者と慣行農業者との間に緩衝地帯の設置、病害虫が発生した場合の対応や化学農薬の飛散防止など、有機と慣行の両者が取り組むべき内容が示されています。
基盤確立事業
スマート農業技術をはじめ、環境負荷低減につながる技術の開発を行い事業化を目指す取り組みや、新品種の育成、農林水産物の流通の合理化などが対象です。
資金調達
日本政策金融公庫による無利子・低利融資が受けられるようになります。
設備投資の初期負担を軽減
「みどり投資促進税制」という制度を利用して、機械などの導入にかかった費用の16~32%を特別償却として適用することができます。
行政手続きが簡単に
農地転用許可や補助金等交付財産の目的外使用などの行政手続きをワンストップ化できます。
「みどりの食料システム法」では、環境負荷の低減に向けてスマート農業技術の活用が推奨されています。現段階で効果が期待されている技術をいくつかピックアップして紹介します。
トラクターなどの農機を自動走行させることで、高精度な位置情報を活用して作業の無駄をなくすことができます。その結果、省エネや農薬・肥料の削減が可能です。
AIの画像解析を活用して害虫の位置を特定しピンポイントで散布するので、ムラがなく農薬使用量を大幅に削減することができます。
ドローンや衛星のセンシングで得たデータを活用して土壌や生育状況に合わせた施肥を行うことで、高精度な施肥が可能になり収量向上や環境負荷軽減効果が期待できます。
「みどりの食料システム法」を活用する上で忘れていけないのは、この法律の本質です。
それは、環境負荷の低減につながる有機農業の推進、新技術の開発といった取り組みを後押しすることを目的に作られた法律であり、補助金などの支援を受けるためのものではないということ。有機農業を進めていくうえでの理解や消費者の意識の醸成など課題はありますが、世界中で環境問題に対する取り組みが求められている中で、農業分野でもこうしたニーズに対応した取り組みを行うことが重要になってきます。
まずは肥料や農薬の使用が過剰になっていないかなど、自身が行っている農法を見直し、できるところから持続可能性の高い農法へと転換していくことが求められています。
農林水産省「みどりの食料システム法について」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/houritsu.html#QA
農林水産省「みどりの食料システム戦略におけるスマート農業の果たす役割」
https://www.maff.go.jp/hokuriku/seisan/smart/attach/pdf/forum-4.pdf
今回は、「みどりの食料システム法」とはどんな法律であるかをはじめ、対象となる取り組みや支援内容など、申請を検討している生産者や事業者が知っておきたいポイントを紹介します。
「みどりの食料システム法」とは
「みどりの食料システム法」とは、食料の生産・加工・流通・消費までをひとつの仕組みとしてとらえて、持続可能な食料生産を可能にするための政策である「みどりの食料システム戦略」の実現を目的とした法制度です。
この法律では、環境負荷低減に取り組む生産者や新技術の提供等を行う事業者に対し、環境負荷低減の取り組みの促進として認定制度を設けているのが特徴です。生産者や事業者は取り組みに関する計画を申請し、認定されればさまざまな支援措置を受けることができます。
こうした支援制度を設けることで実践していく関係者を増やすことが狙いですが、残念ながら、戦略自体の認知度は高いとは言えない状況にあります。
また、目標として掲げられている有機農業の拡大をはじめ、化学農薬や化学肥料の使用削減については、次世代のために推進したいと考える生産者は多いものの、実現が難しいのではといった現実的な声も。
なお、実施計画の作成については、支援措置の1つである「みどり投資促進税制」の対象期間が2024年3月31日までとなっています。申請を考えている方は今から準備を始めてみましょう。
そもそもなぜ「みどりの食料システム法」ができたのか
2021年9月に行われた「国連食料システムサミット」の開催に向けて、「みどりの食料システム戦略」が策定されました。これには、気候変動といった環境問題への対応強化が世界で叫ばれる中、日本に先立ちアメリカやEUで農林水産業の持続可能性に関わる目標が掲げられたことも強く影響していると考えられています。
また、2020年5月にEUが発表した食料環境政策である「Farm to Fork戦略」が、2030年までに化学農薬の使用半減、有機農業を全農地の25%に拡大など、「みどりの食料システム戦略」で掲げられている数値目標とほぼ同じ内容になっていることからも、諸外国と比べて農薬の使用が多い日本においても世界の流れに対応していく姿勢を見せています。
そして、今回本格的に運用が始まった「みどりの食料システム法」は、生産者だけでなく事業者や消費者がそれぞれの活動の中で食料生産における環境負荷低減への対応を促進するために作られました。欧米とは気象条件などが異なるアジアモンスーン地域の取り組みモデルとして、持続可能性と生産性向上を確立するための法律となっています。
どんな取り組みが対象?
では、生産者や事業者が支援を受けるにはどのような活動を行う必要があるのでしょうか。対象となる具体的な取り組みを見ていきましょう。
なお、申請を考えているものの現段階でどう進めて行けばいいかわからないという方は、農水省が紹介している環境負荷の低減に取り組む生産者の事例や、現段階で利用可能なスマート農業技術などを参考にしてみるのもおすすめです。
生産者
環境負荷低減事業活動
- 堆肥を活用した土づくり、化学農薬や化学肥料の低減等を一体的に行う取り組み。有機農業も含む。
- 施設園芸用ヒートポンプの導入、メタンガス削減のために行う家畜の排せつ物の強制発酵や脂肪酸カルシウム飼料の給与、水稲栽培の中干し期間延長の取り組みなど。
- 土壌への炭素貯留や、生分解性マルチの使用など、地域の生物多様性保全につながる技術を用いた取り組み。
特定環境負荷低減事業活動
特定環境負荷低減事業活動は、特定の区域内において2戸以上または相当程度の共同で取り組み、生産方法などの共通化を図り、地方自治体と連携して地域内の環境負荷低減を高める事業活動を行うことが要件となっています。具体的な取り組み内容は以下の通りです。
- 有機農業による生産活動
- 廃熱など地域資源を活用し、温室効果ガス排出量の削減に資する生産活動(工場の廃熱などを活用した園芸団地の形成など)
- 環境負荷の低減につながる先進的技術の活用(地域内でのスマート農業技術のシェアリングなど)
有機農業の栽培管理に関する協定
有機農業の栽培管理に関する協定は、特定区域内で市町村長の認可を受けて、農業者同士が栽培管理についての協定を締結できる制度を創設し、地域ぐるみで有機農業の団地化を促進するためのものです。
協定の締結には、対象となる農地の区域、栽培管理に関する事項、最長で5年の協定の有効期間、協定に違反した場合の措置等が含まれています。例えば栽培管理に関する事項では、有機農業者と慣行農業者との間に緩衝地帯の設置、病害虫が発生した場合の対応や化学農薬の飛散防止など、有機と慣行の両者が取り組むべき内容が示されています。
事業者
基盤確立事業
スマート農業技術をはじめ、環境負荷低減につながる技術の開発を行い事業化を目指す取り組みや、新品種の育成、農林水産物の流通の合理化などが対象です。
申請するメリットは?
資金調達
日本政策金融公庫による無利子・低利融資が受けられるようになります。
設備投資の初期負担を軽減
「みどり投資促進税制」という制度を利用して、機械などの導入にかかった費用の16~32%を特別償却として適用することができます。
行政手続きが簡単に
農地転用許可や補助金等交付財産の目的外使用などの行政手続きをワンストップ化できます。
スマート農業技術がカギに
「みどりの食料システム法」では、環境負荷の低減に向けてスマート農業技術の活用が推奨されています。現段階で効果が期待されている技術をいくつかピックアップして紹介します。
自動走行技術
トラクターなどの農機を自動走行させることで、高精度な位置情報を活用して作業の無駄をなくすことができます。その結果、省エネや農薬・肥料の削減が可能です。
ドローンによるピンポイント農薬散布
AIの画像解析を活用して害虫の位置を特定しピンポイントで散布するので、ムラがなく農薬使用量を大幅に削減することができます。
データを活用した可変施肥
ドローンや衛星のセンシングで得たデータを活用して土壌や生育状況に合わせた施肥を行うことで、高精度な施肥が可能になり収量向上や環境負荷軽減効果が期待できます。
農業経営について見直すきっかけに
「みどりの食料システム法」を活用する上で忘れていけないのは、この法律の本質です。
それは、環境負荷の低減につながる有機農業の推進、新技術の開発といった取り組みを後押しすることを目的に作られた法律であり、補助金などの支援を受けるためのものではないということ。有機農業を進めていくうえでの理解や消費者の意識の醸成など課題はありますが、世界中で環境問題に対する取り組みが求められている中で、農業分野でもこうしたニーズに対応した取り組みを行うことが重要になってきます。
まずは肥料や農薬の使用が過剰になっていないかなど、自身が行っている農法を見直し、できるところから持続可能性の高い農法へと転換していくことが求められています。
農林水産省「みどりの食料システム法について」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/houritsu.html#QA
農林水産省「みどりの食料システム戦略におけるスマート農業の果たす役割」
https://www.maff.go.jp/hokuriku/seisan/smart/attach/pdf/forum-4.pdf
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
- 「無農薬野菜」「オーガニック野菜」「有機野菜」はどう違うのか
- いまさら聞けない農業の「単位」のハナシ。「一反」や「一町歩」ってどういう意味?
- 日本の「食料自給率」はなぜ低いのか? 問題点と解決策を考える 【2023年度データ更新】
- 話題の「カーボンクレジット」って何? 環境保護とビジネスの両面で学ぼう
- IPM防除(総合的病害虫・雑草管理)とは? 農薬だけに頼らない最新取り組み事例
- 「遺伝子組み換え」の安全性とは? なぜ賛否両論を巻き起こしているのか
- 食料の次はエネルギーの自給率 農業がカギを握る 「バイオマス活用推進基本計画」の取り組み事例を知ろう
- 農家と消費者が支えあう「CSA(地域支援型農業)」とは? 事前契約とはどう違う?
- 本格始動した「みどりの食料システム法」とは? 支援対象となる取り組みや内容を紹介
- どう変わる? 「遺伝子組換え表示制度」改正で変わる食品選びのポイント
- 新たな指標「食料自給力」とは? 農地と労働力を加味した指標で見る日本農業の現状
- 「食品ロス」の原因と最新の取り組みとは? コロナ禍で変わる食への意識
- 日本の「一次産業」を支えるためのスマート農業の現状と課題
- 「リジェネラティブ農業」(環境再生型農業)とは? 日本と世界の現状を知る
- 話題の「パリ協定」から、脱炭素化へ向けた日本の取り組み、農業の役割を考える
- 農業向け「収入保険制度」を活用する方法 2020年分はコロナ禍特例として除外
- 「固定種」は安全、「F1種」は危険、はホント? 種子の多様性を知ろう
- 作りやすくなった「農家レストラン」制度見直しの要点とメリット
- ついに発効された「日米貿易協定」、日本の農業・農産物への影響は?
- 研究者たちはなぜいま、「土壌保全基本法」を起草したのか ――土壌学、環境学からの警鐘――
- 現役農家が改めて考えた「農業共済・農業保険」──今こそ知りたい制度と仕組み
- 肥料取締法が改正される理由
- 「減反政策」の廃止で、日本の稲作はどう変わったのか
- 農業と福祉の融合「農福連携」が注目される理由とは?
- 「循環型農業」の本質とは? スマート農業との両立は可能なのか
- 新規就農者の35%が離農する現実──未来の農業の担い手を定着させる方法とは?
- 「植物工場」は農業の理想型なのか? 現状と課題
- アジアも視野に入れた日本発のGAP認証制度「ASIAGAP」の重要性
- 「小農の権利宣言」とは? その意義と乗り越えるべき課題
- 「SDGs」(持続可能な開発目標)とは? 未来の農業にとって重要なキーワードを知ろう
- 種子法廃止は誰のためか──日本の農作物への影響と今後の課題
- 6次産業化とは|優良事例からみる農業収益アップと地域活性化のカギ
- 「地産地消」とは? 地方のブランディングと自給率アップを解決する原点回帰のアイデア
- 「ブロックチェーン」の農業における可能性
- 農地の貸し手と借り手をマッチングさせる「農地バンク」「全国農地ナビ」の課題
- 「JGAP」「ASIAGAP」とは|東京五輪で懸念される国産食材の立場
- 「TPP」が日本の農業に与える影響とは?
- 「子ども食堂」に農業界が果たすべき役割とは?
- 農家版ホームステイ「農泊」のブームは農村復興のカギになるか
- 若者の就農ブームを終わらせない、青年等就農計画制度とICT技術の進歩
- カメラ女子が地方で農業体験「農村カメラガールズ」ってなんだ?
SHARE