「農業大学校」で学んでいること【さわちんの「リアルタイム新規就農日記」第6回】


「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。

さわちんと申します。現在37歳で、妻と小学生の子ども2人の4人家族です。

第3回で、農業の技術を習得するために「農業大学校」への入学を決断するところまでお伝えしました。

農業大学校という、あまり聞き馴染みのない教育機関にて、どのようなことが学べるのか? 現在、実際に通っているさわちんの目線で紹介したいと思います。


「農業大学校」は農業のイロハを学べる専門学校


まず、徳島県立農業大学校には、さまざまなコースが用意されています。2年間しっかり通学して勉強する本科コースとして「農業生産技術コース」と「6次産業ビジネスコース」があり、それ以外に6次産業化に特化した週1回のコースなどの分科コースもあります。きっと他の農業大学校でも同じようなカリキュラムが用意されていると思います。

農業大学校はいわゆる「大学」とは異なり、専門学校のような位置づけです。そのため、キャンパスライフを謳歌する! といったイメージとは少し違います。サークルや修学旅行は残念ながらなく、9時から16時までの授業以外は、学校内に設けてある直売所の運営や、年間を通じた課題レポートなどがあります。

また、農業を自分の仕事にしたい、と考えた人が通うため、私のように社会人経験を経て入学するなど、生徒の年齢もさまざまです。

非常に実践的で、育てた作物は実際に農協に出荷したり、上述の直売所等で売ることで、収益を上げます(※収益はポケットには入りません。残念!! )。

卒業後の進路としては、独立就農する、農系企業に就職する、親の経営を引き継ぐなどさまざまですが、「就農する」という点で共通しています。

卒業するだけで取得できるような資格はないのですが、学校での経験はもちろんのこと、同じ志を持った仲間達、農業大学校を運営する県の農業関係の職員さんと知り合えるということが、何よりのアドバンテージになります!


実家のゆず栽培が学べる「かんきつアカデミー」を選択

いろいろなコースがある中で、私は分科コースの「かんきつアカデミー」を選択しました。その名の通り、徳島県で盛んに生産されている柑橘類「みかん・すだち・ゆず」の栽培に焦点をあてたコースです。

受講期間は2020年4月~2021年3月の平日9時~16時まで(お盆とお正月はお休み)。受講料は年額7440円(2020年度)でした。

私自身、どのコースを選ぶかとても迷いました。1年間という長い時間を過ごすので、確実に身に着けたい技術を選択する必要があります。

ただ、野菜の栽培技術については、地域の皆さんや加茂谷元気なまちづくり会の会長のような、ベテラン農家さんがたくさんいるため、教えてもらうことができそうです。

そこで、私が就農を目指すきっかけにもなった、両親が栽培しているゆずについて詳しく知るために「かんきつアカデミー」を選択しました。

これは後々知ることになるのですが、「かんきつアカデミー」で学ぶことの中に、野菜の栽培に繋がる内容もあります。例えば、農業機械の操作方法や、農薬の使用方法などは、農業の種類を問わず必須の知識となります。

かんきつアカデミーの受講者は私と、みかん農家を継ぐ予定の方、将来地元で独立就農をする予定の方の計3名。みんな30代のおじさんばかりですが、わきあいあいとやっています。


農業大学校での1日

前置きはこれくらいにして、農業大学校での日々のパターンをいくつか紹介します。

1. 柑橘類の剪定<講義+実習パターン>



9:00 学校到着
「かんきつアカデミー」の校舎はさわちんの自宅から10分くらいの山の中にあります。周りに駅なんかあるわけないので、自家用車で急な坂をぐんぐん上っていきます。

9:00~10:30 柑橘の生理についての講義
「柑橘類は1年中葉っぱが茂っている常緑果樹であり、逆に冬になると葉っぱが落ちる桃やりんごなどは、落葉果樹と呼ばれます」といった、果樹類の基礎的な知識を授業形式で、教えてもらいます。

先生は農家さんに技術指導をするような、経験豊富な県の職員の方です。

10:30~12:00 柑橘の剪定についての講義
剪定とは、木を剪定ばさみで切ることを指します。庭師さんが松を切ることを想像するとわかりやすいですよね。
剪定をすることで、効率よく果実をつけるためのコントロールができるようになるそうです。

12:00~13:00 昼休憩
校舎は山の中なので、なんと自動販売機すらありません! 車で5分程度のところにコンビニや飲食店はありますが、さわちんはお弁当派。しっかり節約します。

13:00~15:30 かんきつの剪定実習
実際に圃場に出て、みかんの木の剪定を行います。まず、先生がお手本を見せてくれて、午前中の授業で習った知識をもとにポイントを教えてくれます。

次に、さわちんが剪定を行います。慣れない剪定ばさみで枝を切っていくのですが、これがとっても難しい!! どの枝をどれくらい切ればいいのか、さっぱりわかりません。都度先生に聞きながら、剪定を進めていきます。

15:30~16:00 片付けと作業日誌の作成

16:00 解散

2. 地獄の人力農薬散布<防除実習パターン>


9:00 「かんきつアカデミー」の校舎に到着
今日は天気がいいので防除実習を行うとのこと。防除とは、病気や害虫への対策として、果樹に農薬を散布する作業のことです。農薬が体にかからないように、帽子、ゴーグル、農薬散布用マスク、カッパ上下、ゴム手袋、長靴に着替えます。真夏でもこの格好なんです……。

9:30~10:00 散布作業
まず、散布する農薬を準備します。例えば、4000倍で希釈して使用する○○という農薬を、500リットル作ります、といった具合です。

農薬は使用時の希釈倍数が定められており、誤った希釈倍数で農薬を散布してしまうと、その作物は出荷停止になります。そのチェックは、保健所の方が実際にお店で並んでいる商品を検査するそう。

必要とする農薬の量をきっちりと計り、水に溶いていきます。

10:00~12:00 防除作業
圃場にて防除作業を実施します。

動力噴霧器と小型のライフルのような噴口を利用して、一本一本丁寧に農薬をかけていきます。これがとても重労働で、斜面に生えている木の周りをぐるっとかけていくので、しっかり足腰を踏ん張る必要があります。

さらに、真夏の炎天下でも行うので、防護服の中は汗だくになるわ、ゴーグルは曇ってくるわで、とっても大変です。適宜休憩と水分補給をしながら、作業を進めていきます。

イラスト:ヤマハチ
12:00~13:00 昼休憩
とにかくぐったり……。

13:00~15:00 防除作業(続き)
防除作業の続きを実施します。この季節は午後からはさらに気温が上がることが多く、とても暑いです。
唯一の救いは、山の斜面を利用した圃場なので、吹き抜ける風がとっても心地よいことです。

15:00~16:00 後片付け
余ってしまった農薬を適切に廃棄したり、使用した道具を念入りに洗ったりと、これも大変な作業です。農薬の扱いはとても慎重になる必要があります。

16:00 解散
なんとなく、農業大学校の雰囲気は伝わったでしょうか。他にも草刈り実習や、農家さんにおうかがいしての体験実習など、さまざまなカリキュラムが用意されています。

さらに、7月にはIoTセンサーを圃場の一角に導入しました。残念ながら導入はセンサーだけで、連動してアクションを起こす装置はないのですが、土壌水分量や土壌温度、気温、照度などをスマホで確認し、経験と勘だけでなく、データをもとに適切な管理ができるか検証中です。


新規就農の大きな課題、農地探しに進展!?

実習をしていると、農家さんが大変な苦労をして私たちの食べ物を作ってくれていることがわかってきます。最近、ますます野菜や果物を美味しく感じるようになりました。

特に、新規就農で果樹を対象とするのはなかなか難しいことがわかってきました。果樹は野菜とは違い、果実ができるまで生育するのに3~5年の時間が必要です。その間、農業収入はゼロになってしまいます。

よっぽど貯金がない限りは、就農パターンとしては、両親またはリタイアする方から園地を引き継ぐしか方法がありません。私の場合、ゆずについては両親の園地を利用するので、初年度から収益を上げることができる想定です。

自身が就農するための農地探しというのは、非常に重要になります。育てる作物によっては、ビニールハウスを用意する必要があり、新しく建設するのに約1千万円かかる場合も。初期投資を最大限抑えつつ就農するためには、いろんな工夫が必要です。

【農家コラム】さわちんの「リアルタイム新規就農日記」
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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