農家研修で身をもって知った、かんきつ農家の苦労【さわちんの「リアルタイム新規就農日記」第7回】

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。

さわちんと申します。現在37歳で、妻と小学生の子ども2人の4人家族です。

前回は、かんきつアカデミーでの一日をご紹介しました。真夏の炎天下での作業だったということもあり、とっても大変な作業なのだということを身に染みて感じた次第です。

さて今回は、農業大学校のカリキュラム「農家研修」で経験した、夏のかんきつ農家の大変さについて、農家見習いのさわちん目線からお伝えしようと思います。


農家研修その1 スダチ農家で摘果に挑戦!

皆さん、「スダチ」ってご存じですか?


とても鮮やかな緑色の果実で、大きさはゴルフボールくらい。その爽やかな香りと、スッキリした酸味は、焼いたサンマにさっと搾ったり、焼酎に搾ったりとさまざまな素材の本来の風味を豊かにしてくれる、まさに“縁の下の力持ち”な名脇役。知ってしまったら欠かせない存在です。

そんな名脇役「スダチ」の生産量日本一を誇るのが、徳島県なんです。「スダチ 生産量」のようなキーワードで検索してみてください。見事な日本一っぷりにビックリすると思いますよ(笑)

農家研修で訪れた先は、徳島県内を代表するスダチの一大産地「神山町」。こちらで昔からスダチ栽培を行っている農家さんのもとで、2020年7月に5日間研修させてもらいました。

農家さんはとても優しい方で、「遠いところよく来てくれたね~、5日間よろしくね。」と、とっても温かく迎えてくれました。


高品質な果実を作るため! でもトゲが痛いスダチ

5日間のメインの作業は、スダチの摘果(=果実をちぎること)でした。せっかく実った果実を、なぜちぎってしまうのでしょうか? 実は、そこに高品質=高値で取引されるスダチを作る秘密がありました。

摘果の大きな目的として、収穫する果実の大きさを調整することが挙げられます。大きすぎず、小さすぎず、ちょうどよい大きさのスダチが最も高値で取り引きされるのです。

例えば、料亭で出される焼き魚にスダチが添えられているといった場合。そのスダチがあまりにも小さかったり、大きかったりすると、見た目が美しくありませんよね。スダチはあくまで脇役、料理を引き立たせるための色と香りと大きさが大事なんです。

摘果を行うことで、一本の木に実らせる果実の数を調整し、ちょうどよいサイズのスダチの数を増やすことができます。

しかし、摘果を行ったからといって、すべてがちょうどいいサイズになるわけではありませんし、これだけ摘果すれば問題なし! といった正解もありません。一本一本の木を見ながら、適切な量の摘果を行うといったところに、農家さんの腕が問われるわけです。

最初に摘果のやり方、考え方を農家さんから教えてもらい、摘果用のはさみを握りしめ、いざ摘果スタート!! ……したのはよかったのですが、開始一分もしない間に「いてっ!!」と叫ぶことになります。

実は、スダチの木はトゲだらけなんです。ユズやレモンほどトゲは長くないのですが、逆にトゲを見つけにくいという難点が。摘果するために枝をつかんだときに、トゲがブスッと……。これが、とっても痛いんです。

イラスト:ヤマハチ
それなら、分厚い手袋をして作業に取り組めばいいじゃないと思うのですが、そういうわけにはいかないんです。なぜなら、分厚い手袋の素材が、知らないうちにスダチの皮に傷をつけてしまい、商品価値を落としてしまうから。

そのため、農家さんも私も薄い手袋でひたすら摘果を続けていきます。手は傷だらけになり、帰ってお風呂に入るとしみるしみる……。農家さんに対処方法を聞いてみましたが、「もう慣れたよ~。」とのこと。慣れるしかないそうです(笑)。

5日間ひたすら、実をつかむ、はさみで切る、トゲにささる、を繰り返し、研修は無事に(? )終了となりました。私やお手伝いさんを含めると、総勢9名でこの作業にあたっていたので、「あとどれくらい残ってるんですか? 」と質問したところ、「そうだねぇ、半分終わったくらいかなぁ」との回答が。まだまだこの作業続くんだ……と唖然としたことを思い出します。


農家研修その2 ミカンの摘果

次の農家研修は、ミカンの摘果です。かんきつ農家さんにとって、夏は摘果の季節なのです。

農家研修で訪れた先は、貯蔵ミカンで有名な「勝浦町」という場所の農家さんで、お盆明けの5日間お邪魔させていただきました。

摘果の目的は、スダチと同じく果実の大きさを調整することもありますが、糖度の高い甘いミカンに仕上げるために、木からの栄養=糖分を受け取る果実の数を減らすという目的もあります。

実は他にも、摘果にはたくさんの目的があることを農家さんから教わったのですが、とてもマニアックになってくるので割愛します(笑)


暑い! とにかく暑い!!

ミカンの木は、スダチのようにトゲがあるわけではなく、また一つ一つの果実がある程度の大きさになっているので、手でちぎっていきます。ちぎり方のコツを教わり、黙々と作業を進めていくこと30分、あることに気づきます。

あ、暑い……、とにかく暑い……。

ミカンは甘い果実を作るために、日当たりがとても重要なため、太陽光がよく当たる山の斜面で栽培されることが多いのです。そのため、お盆明けの猛暑の中、背中に直射日光を浴びながらの作業になります。

夏のミカン。まだオレンジに色づいてはいません。
梅雨明けからほとんど雨の降っていない圃場は乾ききっていて、さらに暑さを倍増させます。さらにさらに、山の中のため、やぶ蚊やアブなどの虫に刺されないよう、長袖長ズボンでの作業。

もちろん、水分補給も忘れずにしていますが、全部汗として出てしまうので、全身びっしょり。

木の根元に潜り込んだり、はしごを使って高い木の上に登ったり、あちこちのミカンを摘果していくため、ゆっくりする時間はありません。熱中症にかかるかも……と本気で思った5日間でした。

最後に、全体のどれくらいが終わったのですか? と質問したところ、「おかげさまでもうすぐ全部終わるよ! 」とのこと。少しは役に立てたかな、と思ったのも束の間、「きっと取り残しがあるから、また最初からチェックしていくけどね! 」と爽やかな回答が返ってきましたとさ。


真夏の炎天下でも関係なく、数えきれない大変な思いをして、皆さんの食べ物を作っている農家さん。さわちんはリスペクトがやみません。自分が農業を始める前に、たくさんの経験ができる農業大学校という選択肢、間違いじゃなかったなぁとしみじみ思います。

でも、こんな作業がずっと続くとなると、体がもたないかもなぁ……という本音に対して、少しでもITの力で楽にできないか、いわゆるスマート農業について、農業大学校で取り組む予定でいます。

次回は、その取り組みについて、ご紹介したいと思います。

【農家コラム】さわちんの「リアルタイム新規就農日記」
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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