ドローン防除を体験! 未来が少し近づいた一日【農家見習い・さわちんの「リアルタイム新規就農日記」第13回】

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。さわちんと申します。

現在38歳で、妻と小学生の子ども2人の4人家族です。

前回は、ユズの収穫について、お伝えしました。その独特な香りと爽やかな酸味をお試しいただけたでしょうか? 冬至にはお風呂にユズを浮かべるという方もたくさんいらっしゃると思います。ぜひ、日常の癒しにユズをお使いくださいね。さわちんは毎晩のようにユズ焼酎で酔っ払っています(笑)

さて、たまにはSMART AGRIのコンセプトに沿った内容をお届けしたい! ということで、今回は、かんきつアカデミーの授業にて、防除ドローンの講義と防除デモがありましたので、その様子をお伝えしたいと思います。

イラスト:ヤマハチ

かんきつアカデミーの空を舞う! 防除用ドローン「DJI AGRAS T20」

やっぱり実物を見るとワクワクが止まりませんね! 今回使用したドローンはこちらです。


DJI社の「AGRAS T20」というずっしりとした重厚感のあるドローンで、計6枚のプロペラがついており、16リットルの農薬散布用タンクを搭載しています。ちなみに1枚プロペラが壊れても、飛行を続けることができるのだそう。それにしてもこんな重いタンクを搭載して飛べるんだろうか……という、さわちんの不安を払拭するかのごとく、華麗に空へ舞い上がるドローン。しかも音が思ったよりも静か!

今回はたくさんの木にまんべんなく農薬を散布するモードと、1本の木に重点的に農薬を散布するモード、2つのデモを見せてもらいました。

リモコンを持って操縦している担当者の方に、「やっぱり操縦は気を使いますか? 」と質問したところ、「いえ、全然! 」との答えが。

というのも、今回のデモでは、予め圃場全体を3Dマップとして取り込み、飛行ルートをプログラミングした「自動操縦モード」。よほど不意なアクシデントが起こらない限りは、手動で操縦することはないそうです。

す、すげぇ……と思いつつ、その性能を見学することに。


やっぱりすごい! 防除対象としている木の真上でぴったり静止し、農薬を散布し始めました。ダウンウォッシュ(ドローンのプロペラの回転によってできる下降気流のこと)を利用して農薬を散布するため、目的の木に対して的確に散布できているように見えます。

農薬を的確に散布することは、農薬使用料の節約だけではなく、周囲への影響も少なく済むので、まさに一石二鳥。

デモを目の当たりにして、これは便利だと心から思いました。こんなに便利なドローン防除、なぜ果樹業界では普及が遅れているのか、その原因を解明するヒントを担当の方からもらいました。


登録農薬が少ない

ずばり、これが果樹業界においてドローンの普及が遅れている大きな理由の一つです。人力の散布では使える農薬も、ドローンで使用するとなると、新たに使用登録を申請する必要があります。

なんで? と思う方に、順を追って説明しますね。

今回のドローンが1度の飛行で搭載できる農薬は16リットル。この量である程度の広い面積の防除を行えなければ、省力化にはつながりません。そのため、濃度を濃くして散布する必要があります。

例えば、黒点病にとても効力を発揮する「ジマンダイセン」という農薬があります。ミカンの木に人力で散布する場合、濃度は400~800倍で、「10aあたり200~700リットル散布する」という基準が定められています。

もし、ドローンでこの農薬を使用する場合、濃度は5倍で、10aあたり4リットル散布すると定められているのです。

この基準を作るのは農薬メーカーさんの仕事ですが、これがとてつもなく大変なんです。この濃度で散布したときに、効果はちゃんと出るのか? 農薬散布による薬害は出ないか? 果実に農薬が残留しないか? ……などのさまざまな懸念点をすべて確認する必要が出てきます。テストにテストを重ねるため、使用できるまでに数年かかることもざらにあるそうです。

この手間と時間をかけてまで、ドローンでの使用登録が必要か? という判断を農薬メーカーさんが慎重に行っているところも、登録農薬が少ないという原因の一つ。

逆に言うと、ここまで確認しているからこそ、しっかり基準を守って使うことで日本の農薬はほとんど影響がないといえるんですね。


上空からの散布なので、農薬がかかりにくい部分がある

これもなかなかの問題の一つです。今回のデモで、どれだけ木や葉に農薬がかかっているか、試験をしてみました。

試験方法として、葉の表側と裏側に、水がかかると色が変わる試験紙を取り付け、ドローンでの散布を実施してもらいました。結果を確認してみると……葉の表側の試験紙は、しっかりと色が変わっており、農薬がかかったことが確認できましたが、葉の裏側の試験紙はほとんど色が変わっていませんでした。

先に記載した「ジマンダイセン」のような、病気に対する農薬であれば、葉の表側にかかっていれば、その効力をしっかり発揮できるのですが、害虫駆除を目的とした場合、特にダニ対策の防除をする際は、葉の裏や木の幹にもしっかりと農薬を散布しなくてはいけません。環境や条件によって結果は変わると思いますが、今回の結果から考察すると、害虫駆除を目的とした場合、しっかりと防除ができたとはいえないでしょう。

せっかく防除をしたのに、害虫の被害を受けては元も子もありません。この辺りにどういった改善ができるか、今後の注目ポイントですね。


課題は見えつつもメリットたっぷりのドローン防除

稲作や大規模な露地栽培では、すでに取り入れられているドローン防除。果樹に関しては、上記のような課題が見えつつも、実は年間の防除の半数以上が、ドローン防除で十分効力を発揮できると想定されています。

従来の動力噴霧器を使う防除の回数がゼロになるわけではありませんが、省力化の効果は抜群といえます。 担当者の方の話を聞くと、今まで防除に丸2日かかっていたミカン農園にて、ドローンを使って防除を実施したところ、1時間半で終了したそう。人体への影響も少なく、農薬使用量も削減できたことで農家さんはとっても喜んでくれたそうです。

今回のデモを体験して、未来が今になった感覚を覚えたさわちんです。まだまだ改善する余地はありそうですが、すべての防除をドローンに置き換えるのではなく、半分人力での散布、半分ドローンでの散布のような使い方でも、十分な省力化につながると思います。

これからも自分のアンテナを伸ばして、最新の情報を収集していくつもりです。

さて次回は、お借りしたハウスのビニール張りが完了し、ついに動き出したさわちんのチンゲンサイ栽培の状況と、今後の展望をお伝えしようと思います。果たしてうまく育てることができるのか、不安がいっぱいの農家見習いにご期待ください!

【農家コラム】さわちんの「リアルタイム新規就農日記」
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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