22haの果樹経営で「最も機械化を果たした」青森県のリンゴ農家(前編)

青森県の農業産出額の25%ほどを占めるリンゴを作るうえでの課題は、労働集約的であること。作り手の高齢化が極まる中、機械化やロボット化は喫緊の課題である。

いち早くその解決のために機械化を進めてきた鰺ヶ沢町の木村才樹さん(60)を訪ねると、ほかの果樹経営にとっても示唆に富む取り組みをしていた。

リンゴ園22haを経営する木村さんリンゴ園22haを経営する木村さん

経営耕地面積は県内平均の20倍


「リンゴの経営面積は22haだね」。木村さんに筆者が経営概況についてまずうかがうと、こう返ってきたので驚いてしまった。

青森県で農家がリンゴを作る平均的な面積は1.1ha。その20倍ほどの面積をこなす木村さんは「うちほどリンゴを作っている農家はいない」と語る。

これだけの規模をこなせる理由は、機械化しているからだ。しかし、その導入には前提となる条件がある。それを知るため、園地に連れていってもらった。


機械が入れる園地とは


国道から脇道に逸れて登っていくとすぐ、雪がひざ丈より高いくらいに積もった園地が左右に見えてきた。

雑然とした園地雑然とした園地
まず気がついたのは、右手の園地では樹が雑然と並んでいるほか、一部は伐採されているということ。一方、左手の園地では樹が整然と並んでいた。木村さんは左右の違いについてこう説明してくれた。

「左手はうちが前から作っているところ。右手は去年(2020年)買った園地。とりあえず2021年は収穫するけど、2022年は伐採して、左手の園地のように植え直して、機械が入れるようにするんだ」

道から左手の園地を見ると、樹が真っすぐかつ等間隔に並んでいる。

整然とした園地整然とした園地
「それに一番下の枝を高い位置に仕立てている」と木村さん。いずれも乗用の機械で蛇行せずに直進でき、なおかつ枝に引っかからないようにするための配慮だ。


SSと乗用草刈り機だけではない


県によると、県内でリンゴを作る農家が使う機械といえば、スピードスプレイヤー(薬剤噴霧器。SS)と乗用草刈り機くらいらしい。一方の木村さんはこれらに加えて、果実の枝落としや収穫、運搬、選果、剪定枝の回収などでも機械化を果たしている。

ここで1点補足すると、果実の枝落としをするのはジュース用である。木村さんはジュース用として生産量の7割を黒石市にある製造会社に出荷している。残りはプレザーブ用(果実の原型を残したジャム)やカット用、青果である。ジュース用以外の果実についてはすべて人が枝からもいでいる。

ジュース用の果実ジュース用の果実
「リンゴを作っている農家でうちほど機械化しているところはない。おそらく果樹経営全体を見渡してもね」

木村さんがなぜ誰よりも機械化を先んじて進めてきたのかというと、「ラクをしたかったからね」。

しかし、それは誰もが同じだ。違うのは、木村さんが40年にわたってジュース用のリンゴで契約栽培をしてきたことである。

「20歳の時に始めた契約栽培は単価が決まっているから、経費を減らすほどに儲けが生じる。では、いかに経費を抑えるかってなったとき、機械化しないとできないと思った。もちろん下手に機械化すれば、赤字が膨らむわけだけど……」

後段の含みは後編で説明する。では、機械化していない農家の経営の実態はどうなっているのだろうか。


家族4人で年商600~800万円というリンゴ農家の実態


木村さんによると、リンゴ農家が1人で耕作できる面積は50a。売上は青果で出荷する場合、10a当たり30~40万円。家族4人で2haをこなしても、売上は600~800万円。このうち手元に残るのは3分の1程度だという。

「リンゴ農家の時給って200円くらいなんだよね。土地や家など資産があるので、両親が年金生活者なら、それでも何とか暮らせる。でも子どもができて、進学させるとなるともう無理だね」

収入を補うなら出稼ぎやアルバイトの出番となる。リンゴの出荷を終えた11月中旬から翌年の3月まで別の仕事に勤しむ。木村さんの周りで出稼ぎをする割合は3割くらいだそうだ。

「それでもサラリーマンの方が稼ぎもいいし、きつくないから、後継者はなかなか育たないのが実態」


15km圏内で毎年15haが廃園に


後継者がいない老夫婦2人だけの世帯では、どちらかが亡くなれば廃業せざるを得ない。廃園にする園地は「どんどん出ている」とのこと。

木村さんがリンゴを作る農家の実情にとりわけ詳しいのは、農作業を受託したり、廃園にするため樹を伐採したりする有限会社白神アグリサービスを経営しているためである。

2004年に設立するに当たって半径15km圏内の農家に聞き取りしたところ、毎年15haほどが廃園となることがわかった。実際に会社を設立してからは確かにこの数字くらいの面積が廃園となり、「最近はむしろ増えているようだ」と感じている。

「稼げない→後継者ができない→夫婦のうち1人が亡くなったら廃園」といった流れを断ち切るには、「稼げない」を「稼げる」に変えるしかない。

木村さんはその一つの方策を機械化に見出した。

前置きが長くなってしまったが、「全国の果樹農家の中で最も進んでいる」というその中身について次回触れていきたい。


風丸農場 公式ホームページ
http://www.kazemaru-nojo.com/

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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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