農家のスマート農業導入を支援する全国組織を──株式会社ヤマザキライス(後編)

株式会社ヤマザキライス 代表取締役の山﨑能央さんは、農業のスマート化の技術の社会実装があまり進んでいない現状に物足りなさを感じている。

スマート化に対応した農機やシステムは、往々にして農家が求める以上にハイスペックで、しかも高価。メーカーから農家にスマート農業を下ろしてくるのではなく、農家からメーカーや研究機関に提案する流れをつくるため、新たな組織を作ろうとしている。


農家が求めるスマート農業は“ロースペック、シンプル、低価格”

埼玉県杉戸町で350枚にもなる90ヘクタールの水田でコメを作る山﨑さん自身は、作業の効率化にスマート農業の技術を積極的に使っている。

コンバインを収量を計測できるセンサーを搭載した機種に変えたり、トラクターのキャビン内にカーナビのように走行すべき軌道を表示するガイダンスシステムを取り付けたり、田植え機を自動運転対応機にしたりしている。最新技術の吸収と経営の合理化は、ヤマザキライスの経営の両輪をなすもの。「農業者も『MOT』をする時代が来ている」と山﨑さんは断言する。

キャビン内に走行経路を示す後付けガイダンスシステムを取り付けたトラクター 写真出典:ヤマザキライス

農業IoTを活用したヤンマーのスマートアシスト搭載コンバイン

「MOT」とはManagement of Technologyの略で、「技術経営」「技術マネジメント」という意味だ。技術を理解する人間が経営をし、技術革新をビジネスに生かす。次々と生まれる農業技術をいかに経営に取り込めるかで収益は変わってくるし、そういう農業経営者をどれくらい育てられるかで、日本の農業の未来が変わると指摘する。

「今の農業のスマート化というのは、どちらかというとメーカーから下りてきたもので、農家の必要としているものになっていない。もっとロースペックで、シンプルで安いものでいいんです」

今の技術は、メーカーが国内を代表するような大規模かつ効率的な経営をしている農業者と組んで開発したものが多く、先端的な農業経営でしか使えない高度なものになっていると感じている。

「スマート化は、一部の人だけに使われるものではなく、たくさんの人に使われる技術開発をしないといけません。今はお金がある人、経営環境がいい人だけの話になってしまっている。社会実装するには、価格がものすごく下がって、使いやすくならないと」

■ヤマザキライスが開発した水田センサーの例
農家が求める水田センサーを農家自ら企画──株式会社ヤマザキライス(前編)

スマート農業はまだイノベーターだけのもの

マーケティング分野には「イノベーター理論」という、消費者の購入態度を5つに分けた理論がある。

新しいものを好んで取り入れる「イノベーター」は市場全体の2.5%、初期の段階で取り入れる「アーリーアダプター」は13.5%、平均より早く取り入れる「アーリーマジョリティ」は34%、後になって追従する「レイトマジョリティ」は34%、そしてイノベーションが伝統になるまで採用しない「ラガード(遅滞層)」は16%とする。

山﨑さんはこの理論を引き合いに、現状のスマート農業は「最先端農業者であるイノベーターだけの技術が上がっていって、後ろの人たちがどんどん遅れていく」状態だと指摘する。少なくとも、アーリーマジョリティとアーリーアダプターに技術が浸透しなければ、真のイノベーションは起きないとの考えだ。

スマート農業を農業経営に取り入れるための全国組織

そこで、農業界でオープンイノベーションを起こすため、「日本農業技術経営会議」(仮称)という全国組織の立ち上げを目指している。農家と農林水産業の関連団体、大学研究機関、スタートアップやメーカーなどがメンバーになり、秘密保持契約を結んで、さまざまな技術の開発と社会実装のための活動をする。1月9日に立ち上げのためのワークショップを開いたばかりだ。

センサーや農機などの開発の提案はもちろん、新組織では「MOT」を実践できる農家の育成にも力を入れる。

「スマート農業の技術を農業経営に取り入れて、価値を生み出していける人材を育てていきたい」

こう前を見据えている。

株式会社ヤマザキライスの山﨑能央さん

<参考URL>
株式会社ヤマザキライス

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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