農家のスマート農業導入を支援する全国組織を──株式会社ヤマザキライス(後編)
株式会社ヤマザキライス 代表取締役の山﨑能央さんは、農業のスマート化の技術の社会実装があまり進んでいない現状に物足りなさを感じている。
スマート化に対応した農機やシステムは、往々にして農家が求める以上にハイスペックで、しかも高価。メーカーから農家にスマート農業を下ろしてくるのではなく、農家からメーカーや研究機関に提案する流れをつくるため、新たな組織を作ろうとしている。
コンバインを収量を計測できるセンサーを搭載した機種に変えたり、トラクターのキャビン内にカーナビのように走行すべき軌道を表示するガイダンスシステムを取り付けたり、田植え機を自動運転対応機にしたりしている。最新技術の吸収と経営の合理化は、ヤマザキライスの経営の両輪をなすもの。「農業者も『MOT』をする時代が来ている」と山﨑さんは断言する。
キャビン内に走行経路を示す後付けガイダンスシステムを取り付けたトラクター 写真出典:ヤマザキライス
農業IoTを活用したヤンマーのスマートアシスト搭載コンバイン
「MOT」とはManagement of Technologyの略で、「技術経営」「技術マネジメント」という意味だ。技術を理解する人間が経営をし、技術革新をビジネスに生かす。次々と生まれる農業技術をいかに経営に取り込めるかで収益は変わってくるし、そういう農業経営者をどれくらい育てられるかで、日本の農業の未来が変わると指摘する。
「今の農業のスマート化というのは、どちらかというとメーカーから下りてきたもので、農家の必要としているものになっていない。もっとロースペックで、シンプルで安いものでいいんです」
今の技術は、メーカーが国内を代表するような大規模かつ効率的な経営をしている農業者と組んで開発したものが多く、先端的な農業経営でしか使えない高度なものになっていると感じている。
「スマート化は、一部の人だけに使われるものではなく、たくさんの人に使われる技術開発をしないといけません。今はお金がある人、経営環境がいい人だけの話になってしまっている。社会実装するには、価格がものすごく下がって、使いやすくならないと」
■ヤマザキライスが開発した水田センサーの例
農家が求める水田センサーを農家自ら企画──株式会社ヤマザキライス(前編)
新しいものを好んで取り入れる「イノベーター」は市場全体の2.5%、初期の段階で取り入れる「アーリーアダプター」は13.5%、平均より早く取り入れる「アーリーマジョリティ」は34%、後になって追従する「レイトマジョリティ」は34%、そしてイノベーションが伝統になるまで採用しない「ラガード(遅滞層)」は16%とする。
山﨑さんはこの理論を引き合いに、現状のスマート農業は「最先端農業者であるイノベーターだけの技術が上がっていって、後ろの人たちがどんどん遅れていく」状態だと指摘する。少なくとも、アーリーマジョリティとアーリーアダプターに技術が浸透しなければ、真のイノベーションは起きないとの考えだ。
センサーや農機などの開発の提案はもちろん、新組織では「MOT」を実践できる農家の育成にも力を入れる。
「スマート農業の技術を農業経営に取り入れて、価値を生み出していける人材を育てていきたい」
こう前を見据えている。
株式会社ヤマザキライスの山﨑能央さん
<参考URL>
株式会社ヤマザキライス
スマート化に対応した農機やシステムは、往々にして農家が求める以上にハイスペックで、しかも高価。メーカーから農家にスマート農業を下ろしてくるのではなく、農家からメーカーや研究機関に提案する流れをつくるため、新たな組織を作ろうとしている。
農家が求めるスマート農業は“ロースペック、シンプル、低価格”
埼玉県杉戸町で350枚にもなる90ヘクタールの水田でコメを作る山﨑さん自身は、作業の効率化にスマート農業の技術を積極的に使っている。コンバインを収量を計測できるセンサーを搭載した機種に変えたり、トラクターのキャビン内にカーナビのように走行すべき軌道を表示するガイダンスシステムを取り付けたり、田植え機を自動運転対応機にしたりしている。最新技術の吸収と経営の合理化は、ヤマザキライスの経営の両輪をなすもの。「農業者も『MOT』をする時代が来ている」と山﨑さんは断言する。
キャビン内に走行経路を示す後付けガイダンスシステムを取り付けたトラクター 写真出典:ヤマザキライス
農業IoTを活用したヤンマーのスマートアシスト搭載コンバイン
「MOT」とはManagement of Technologyの略で、「技術経営」「技術マネジメント」という意味だ。技術を理解する人間が経営をし、技術革新をビジネスに生かす。次々と生まれる農業技術をいかに経営に取り込めるかで収益は変わってくるし、そういう農業経営者をどれくらい育てられるかで、日本の農業の未来が変わると指摘する。
「今の農業のスマート化というのは、どちらかというとメーカーから下りてきたもので、農家の必要としているものになっていない。もっとロースペックで、シンプルで安いものでいいんです」
今の技術は、メーカーが国内を代表するような大規模かつ効率的な経営をしている農業者と組んで開発したものが多く、先端的な農業経営でしか使えない高度なものになっていると感じている。
「スマート化は、一部の人だけに使われるものではなく、たくさんの人に使われる技術開発をしないといけません。今はお金がある人、経営環境がいい人だけの話になってしまっている。社会実装するには、価格がものすごく下がって、使いやすくならないと」
■ヤマザキライスが開発した水田センサーの例
農家が求める水田センサーを農家自ら企画──株式会社ヤマザキライス(前編)
スマート農業はまだイノベーターだけのもの
マーケティング分野には「イノベーター理論」という、消費者の購入態度を5つに分けた理論がある。新しいものを好んで取り入れる「イノベーター」は市場全体の2.5%、初期の段階で取り入れる「アーリーアダプター」は13.5%、平均より早く取り入れる「アーリーマジョリティ」は34%、後になって追従する「レイトマジョリティ」は34%、そしてイノベーションが伝統になるまで採用しない「ラガード(遅滞層)」は16%とする。
山﨑さんはこの理論を引き合いに、現状のスマート農業は「最先端農業者であるイノベーターだけの技術が上がっていって、後ろの人たちがどんどん遅れていく」状態だと指摘する。少なくとも、アーリーマジョリティとアーリーアダプターに技術が浸透しなければ、真のイノベーションは起きないとの考えだ。
スマート農業を農業経営に取り入れるための全国組織
そこで、農業界でオープンイノベーションを起こすため、「日本農業技術経営会議」(仮称)という全国組織の立ち上げを目指している。農家と農林水産業の関連団体、大学研究機関、スタートアップやメーカーなどがメンバーになり、秘密保持契約を結んで、さまざまな技術の開発と社会実装のための活動をする。1月9日に立ち上げのためのワークショップを開いたばかりだ。センサーや農機などの開発の提案はもちろん、新組織では「MOT」を実践できる農家の育成にも力を入れる。
「スマート農業の技術を農業経営に取り入れて、価値を生み出していける人材を育てていきたい」
こう前を見据えている。
株式会社ヤマザキライスの山﨑能央さん
<参考URL>
株式会社ヤマザキライス
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