画像認識とAIで柑橘の腐敗を選別、防止──愛媛県のスマート農業事例

柑橘類の生産量日本一を誇る愛媛県は、温州ミカンに加え、中晩柑の高級品の生産も盛んだ。

そんな同県にとって悩みの種は、流通段階での腐敗の発生。腐敗を減らすために重要になるのが、農家の目視による選別だ。この部分にAI(人工知能)を取り入れる試みが始まった。

AIにミカンを認識させているところ

筆者の愛媛の実家では、冬になるとミカンを段ボール箱でドカ買いする。そうすると、周りのミカンが食べごろなのに、一つだけ先に腐ってしまうものが必ずと言っていいほど出てくる。

箱買いした温州ミカンなら、緑色に変色したミカンを見ても「ああ、またか」と思う程度で済む。だが、贈答品にするような高級な柑橘となると、わずか一個の腐敗でも、ブランドイメージを大きく損なうことになりかねない。


流通段階の廃棄ロス削減に画像分析とAI

そもそも、みかんのカビが発生する理由はどこにあるのか。

「付着したカビ菌が果皮の傷口から入って、腐敗が発生する。これが柑橘の流通段階の課題です。温州ミカンだと、収穫から店頭に並ぶまでの約14日間で、約10%を廃棄するといわれています」

愛媛県産業技術研究所技術開発部副部長の亀岡啓さんはこう説明する。この長年の悩みを解消すべく、流通段階でのロスを減らす研究が、県を挙げて進められている。抗菌機能のある果実袋や段ボールなどの開発に加え、画像判別とAIを使った選果技術を確立しようとしている。


腐敗の原因は、病気や浮皮(収穫前の高温・多雨により果肉と果皮が離れて実がブカブカする現象)が多い。こうした問題のある柑橘は、産地の共同選果場などに持ち込む前に農家が行う「家庭選別」と呼ばれる段階ではじかれる。

共同選果場で使われる選果機は、大小の選別をしたり、光センサーで糖度や酸度などの選別はするけれども、家庭選別と同様の機能はない。家庭選別は、人の目で判断するものなので、当然ながら精度に個人差が出る。


高齢化と人手不足でニーズが増加

生産現場の高齢化が進む中、熟練者でなくとも選別できるようにできないか、そもそも人手不足なので家庭選別に人手を割かなくても済むようにできないか──といった、機械化や自動化を望む声が寄せられるようになった。

そこで、県とJA全農えひめ、県内の選果機メーカーなどが共同でAI選果の技術開発に乗り出したのだ。

ミカンの向きを変えながら箱の上部に設置した一眼レフカメラで撮影

2018年冬から、柑橘類の研究拠点である県のみかん研究所(宇和島市)の圃場で、「紅まどんな」と温州ミカンの良品と病気などの問題のあるものを収集。それを県の産業技術研究所(松山市)で一眼レフカメラで写真を撮り、データベース化した。撮影した枚数は3000枚以上で、写真の画質をわざと下げたり、色味を変えたりして3万枚まで増やした。

ソウカ病のミカン(愛媛県産業技術研究所提供)

データベースの作成を今後も続けつつ、病気を判別するシステムを構築する。ミカンをカメラの前に置けば、病気のエリアを表示できるよう、パソコンのGPU(画像処理装置)を使って設定している。試験的にカンキツそうか病(表皮が荒れる)、ハナアザミ(表皮が部分的に変色する)、カンキツ黒点病(表皮に黒い斑点ができる)の三つの病気の早生(わせ)ミカンについて、AIを使って判別できるか試したところ、静止状態を撮影すると95%正しく認識できた。

「AIを使うには、少なくとも1万枚の写真が必要で、データが多いほど認識率が上がるのが通例。今後も、どんなデータでも集めたい」

データの蓄積と、システムの構築を進める産業技術研究所技術開発部の菊地敏夫さんはこう話す。


ゆくゆくは選果機にAI搭載の可能性も

愛媛県産業技術研究所の亀岡啓さん(左)と菊地敏夫さん

2019年度から2020年度にかけて、病害の診断ができるプログラムを開発したいという。その後、技術をどう実用化するのか。

「最終形態は、可能であれば、AIを選果機に組み込んでしまう。つまり、家庭選果の機能を選果機に付加する」(菊地さん)

ただし、課題もある。

「選果機の処理能力は高く、1秒間に10個、20個を処理してしまう。AIがこの処理速度に追いつけなければ、選果機とは分離して、一つのシステムとして売っていくことを考えています」(同)

選果機に組み込めず、家庭選果用のシステムつくって販売する場合でも、需要はあるという。県は、AIを使ったシステムや腐敗防止の資材などの組み合わせで「物流段階での果実腐敗を大箱輸送では半減、高級柑橘では“0(ゼロ)”」という目標を掲げる。始まったばかりの開発の今後に期待したい。


【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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