中玉トマトで国内トップの反収を上げる最先端園芸施設──北杜市農業企業コンソーシアムの実践<上>

山梨県北杜市で農業団地が誕生している。企業が次々に農業へと参入し、環境制御型の園芸施設を設置しているのだ。

それぞれの企業は資本や労働を集約させた経営を展開すると同時に、労働者の不足や農業残渣の処理、商品の輸送といった共通の課題を克服するための「北杜市農業企業コンソーシアム」を形成している。同地を訪れたのでレポートする。

フェンロー型を進化させたセミクローズド型

北杜市の農業企業コンソーシアムの会員となっているのは17企業。その顔ぶれを見ると、イオンアグリ創造株式会社や株式会社明野九州屋ファーム、株式会社村上農園など、すでに農業外で馴染みとなっている法人に加え、ディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドや日通ファーム株式会社といった意外な名前もある。


今回最初に訪れたのは、広大な敷地面積の中に2haの環境制御型の園芸施設を運用している有限会社アグリマインド。もともとは大豆の生産と、それを原料にした豆腐づくりを主な事業としてきた。それが2014年、突如としてカゴメ株式会社と契約し、中玉トマトの生産に着手。いまや10a当たりの平均収量は65トンと国内トップレベル。

経験値がなかったトマトの栽培で、参入から数年にして、なぜこれだけの実績を上げられるようになったのか。

ひとつは、国内では導入事例のなかった世界最先端の園芸施設をいきなり建てたことにある。

環境制御型の園芸施設といえば「フェンロー型」が一般的。フェンロー型というのは、施設園芸の先進国であるオランダ発祥の園芸施設を指す。軒高は5m以上で、内部の骨材が細いために採光性が高い。

一方、アグリマインドが北杜市に建てたのは、その進化版ともいえる「セミクローズド型」。アメリカはカリフォルニアの大規模生産者と、オランダの温室メーカー、Kubo社が開発したものだ。

害虫の侵入を防ぎ、外気に影響されにくい栽培環境を実現

セミクローズド型はフェンロー型の2つの欠点を克服している。1つは害虫の侵入を防ぐこと。もう1つは室内の栽培環境が外気に影響されにくいこと。

フェンロー型では、室内の温度や湿度の調整を天窓の開閉にゆだねている。室内の栽培環境は開閉の度合いによって微妙にコントロールするわけだが、それでも突然の強い風や風向きの急速な変化にはどうしても影響されてしまう。その変化が大きいと、植物体はそれについていけず、たとえば外気の影響で室内が過度に乾燥すれば葉が萎れる。

さらに、天窓を開けておけば、害虫の侵入も許してしまう。もちろん天窓にネットを張れば防げるが、そうなると今度は換気しにくくなる。

こうした問題を一挙に解決したのが、アグリマインドが今回導入したセミクローズド型だ。

セミクローズド型は、天窓の面積がフェンロー型と比べてかなり小さい。それも外気を取り込むためではなく、あくまでも温室内の空気を逃がすためだけに存在する。では、温室内の空気はどこから来ているのか。ここが重要なポイントになる。

セミクローズド型では、温室に隣接する「空気の調合室」とでも言うべき別の部屋がある。ここでトマトの生育にとって最適な空気を作り出しているのだ。


施設内に入れてもらって、ヤシ殻が培地になっている養液栽培のベッドの下を見ると、長細い風船のような格好をした透明のエアダクトがある。エアダクトには細かな穴が無数に空いており、最適な空気が吐き出される。ここからはボイラー燃焼時に発生する二酸化炭素も供給される。

暑さ対策では「パッド&ファン」も設置している。これは栽培室の側面に張った網目状のパッドに外側からファンで送風する際、パッドに水をたらして、その気化熱で室内を冷却するもの。ただし、藤巻公史社長は「湿度が上がるので気を付けないといけない」と語る。

人材の育成

アグリマインドの藤巻公史社長

最新鋭の設備が整ったところで、そこで働く人に技術が伴わなければ、国内トップクラスの収量は上げられない。

この園芸施設を稼働させる前、アグリマインドの社員は、1年に渡ってカゴメの直営農場や契約農場で研修を受けている。もちろんそれだけでは心許ない。そこでカゴメは、アグリマインドに営農指導をする専門のスタッフを無償で送り込んだ。そのスタッフは1年間アグリマインドに常駐し、ガラス温室の制御方法や病害虫の管理などあらゆる場面で面倒を見てきたのだ。

栽培室には気温や湿度などの環境を計測するセンサーを設置し、加温機の稼働やカーテンの開閉などすべてコンピューターで制御している。収量や品質の結果のデータを見ながら、よりよい環境を設定しているのだ。外気の影響という不確定要因が少ない分、PDCAのサイクルを回しやすいのかもしれない。

課題は年明けの出荷量が減ること。現状は12月に株を入れ替えるため、1〜2月はどうしても生産量がぐっと落ちてしまう。

これを解消するために今年試しているのが、10月になったら古い株が植えてある培地に新しい株を植えて同時に育て、12月になったら古い株だけを取り除く方法だ。新しい株は2カ月もすれば本格的に収穫できるようになるので、出荷量の谷間をなくすことができるのではないかとみている。

(後編へ続く)

<参考URL>
北杜市農業企業コンソーシアム
有限会社アグリマインド
【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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