リーフレタスを露地栽培比で80倍生産できる「ガラス温室」の革命 〜舞台ファーム(仙台市)

2021年10月、宮城県美里町に人手による管理作業を大幅に省いた大型のガラス温室が竣工した。定植から収穫まで栽培ベッドだけが施設内を移動し、各区画で生育段階に応じた管理が自動でされる仕組みだ。

施設内には栽培ベッドを隙間なく収容でき、リーフレタスの単位面積当たりの生産量は露地栽培と比べて約80倍程度になるという。運営する舞台ファーム(宮城県仙台市)は「野菜生産で革命を起こしたい」と意気込む。

2021年10月に竣工したガラス温室(提供:舞台ファーム)

建屋面積5haという国内最大級の園芸施設


美里町の田園地帯を走る車の窓の向こうに、突如として屏風のように立ち並ぶ巨大なガラス温室が出現した。

運用するのは、米や野菜の生産や加工、販売を手がけ、グループの売上高が40億円を超える舞台ファーム。案内してくれた伊藤啓一常務は「屋根には“ロボット掃除機”みたいな掃除機があって、自動できれいにしてくれるんです」と話す。それで光の透過率が経年的に下がらないようになっているそうだ。

施設内を移動するのに使う2台の自転車
規模はざっと敷地面積が7.5ha、建屋面積が5.1ha。国内では最大級の園芸施設である。

中に入ると管理棟で、まず目に入ったのは2台の自転車だった。

「広すぎるので、みんなこれで移動するんです」(伊藤さん)。


栽培棟に隙間なく敷かれたガターが場内を移動


圧巻なのは、その奥にあるリーフレタスを育てている栽培棟だ。入ると、通路の向こうがどこまで続いているか見えず、ガラス温室の側面に沿ったこの通路は500mあるという。栽培棟で通路があるのは、こちらの側面と反対側の側面に沿ったものだけ。あとは人が通れる隙間はない。

では、他に何があるのかといえば、これがもう一つ、目を見張る点である。新型コロナウイルスの影響で工期が遅れている場所を除いて、栽培棟をほぼ隙間なく埋めるのは、ベンチに載った長細い栽培ベッドの「ガター」だ。

ガターの規格は培地の幅が約12cm。長さは約12mで、そこに植栽できる本数は50株になる。このガターが片方の通路から反対側の通路までこれまた隙間なくゆっくりと移動していく。いわゆる「ムービングベンチ」だ。

どれくらいゆっくりかといえば、品種の違いによって23~25日もかかる。前段の育苗も含めれば、収穫までにかかる生育日数はおおむね50日だ。

ムービングベンチ
ベンチに載ったガターは緩やかな傾斜を持っている。というのも、ガターの高い側から養液が供給されるためである。傾斜をつけることで、供給する側の反対にある苗にまで養液が届くようにする工夫となっている。

ガターは23~25日かけて移動する間、生育段階に応じて養液や光などの管理が微妙に変わる。


リーフレタスの露地栽培と比べて作業時間は30分の1に


そうしたきめ細かい管理を経て向こう側に到達したガターは、ベルトコンベアーに乗って栽培棟の横にある管理棟に向かう。そこに収穫の区画があり、待機している20人がいっせいに摘み取る。収穫が終わったガターは、洗浄されて再び栽培棟に戻って定植される。これを繰り返していく。人が摘み取ったリーフレタスはその場でコンベアーに落として、別の区画に運んで調製する。

以上でわかる通り、ベルトコンベアーでガターを輸送することで、あらゆる作業で人の往来を極端に減らした仕組みになっている。伊藤さんは「露地栽培でレタスを作る場合、10a当たりにかかる作業時間は90時間近い。対してこのガラス温室では3~4時間で済んでしまう」と語る。

培地にも特徴がある。

「うちは培地にはスポンジを使いません。これを使うと根の張りが全然違うんです」そういって伊藤さんが見せてくれたのは培養土を製造する機械だ。かくはん機が培養土を混ぜて、その後に別の機械で長細い板状に整形する。最後に自動で種をまく。1時間で1万株分を作れるそうだ。

培養土をつくる機械

吸い残した溶液も再利用する、SDGsを体現した施設


「ここはSDGs(持続可能な開発目標)を体現したガラス温室でもあります」。

こう語る伊藤さんによれば、このガラス温室では作物が吸い残した排液はすべて回収して、紫外線で殺菌した後、不足する肥料分を補って液肥にすることを繰り返すらしい。

「使った肥料は外には一切出しません。二酸化炭素も還元しています。将来はクリーンエネルギ―を使うことも計画しています」

施設がフル稼働した時に働く人数は、30人を想定している。基本的には地域の住民を雇用することで、人が住み続けられるまちづくりにも貢献する。これもまたSDGsに則っている。

このガラス温室の仕組みは、主にオランダやベルギーの技術を組み合わせて、舞台ファームが独自に設計したものだ。フル稼働は12月になる見込みだが、一部稼働しているところを見るだけでもその迫力は十分だった。

ガラス温室内(提供:舞台ファーム)

野菜の周年栽培をリアルに実現する“革命”となるか


舞台ファームがこのガラス温室を建てたのは、野菜を周年で安定して供給するため。

伊藤さんは「温暖化で安定的にレタス類が収穫できなくなり、数量と価格が大きく上下しています。それでも消費者の皆さまのニーズに応えていきたい」と語る。

続けて「キノコはかつて、今のように周年で安定して手に入るものではなかった。それが工場生産が始まって変わった。同じことを野菜でやりたいと思っているんです」と重ねた。

舞台ファームは早くも同様のガラス温室を別の場所で建てることを計画している。野菜生産の革命が起きるのか、楽しみである。


株式会社舞台ファーム|仙台の農業生産法人~原菜・カット野菜・米・農業コンサル~
https://butaifarm.com/

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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