農業ICTやロボットを取り入れるべき農家の規模とは──有限会社フクハラファーム

農業の経営面積が200haと全国でも有数の規模を誇る、有限会社フクハラファーム(滋賀県彦根市)。その広大な農地や従業員の仕事を管理するため、富士通株式会社が扱う営農を支援するクラウドサービス「Akisai(秋彩)」をいち早く導入したことは前回述べた。

■前編はこちら
大規模水田農業経営にICTを導入し、作業時間&効率を改善──有限会社フクハラファーム

会長である福原昭一さんは、このICT(情報通信技術)サービスを実際に活用した経験から、どのような経営体であればICTを取り入れるべきだと考えているのか。はたまた農業ロボットも含め、スマート農業アグリテック)の価値をどう考えているのか。


農業ICTの大半は大規模経営体向け

「ICTはあくまでも道具。使う側はそれで何をしたいのか、それがはっきりしていないと無意味。要は経営者の問題なんじゃないでしょうか」

「農業×ICT」が流行り文句のようになっている中、農家が自らの判断ではなく、メーカーや自治体から言われるがままにそれを導入するケースが出ている。もとより明確な目的がないので、役に立てられるはずもない。「メーカーから貸与されたタブレットは神棚に飾ったままになっている」といった、嘘のような本当の話を聞いたこともある。

ICTを取り入れるべき経営体の規模については、土地利用型作物に限った場合、100ヘクタールを超えるようなメガファームだと、福原さんはみている。

「ICTの利用料は決して安くはありません。費用対効果からすれば、投資ができるだけの規模がある経営体じゃないと難しい。50ヘクタールでも小さいんじゃないかという気がします。100ヘクタールはないといけないでしょう。それに、そもそも20ヘクタールや30ヘクタールなら使う必要はないんじゃないでしょうか」

その理由は前回触れた通り。家族という関係だけであれば、意思の疎通を図り、作業計画を立て、それを実行しやすい。経営者の頭の中にあるそのための情報を伝えるだけなら、普段の会話でできてしまうという。それが、農業ICTへの関心が業界全体に広がらない理由の一つでもあるのだろう。

府県で農業ロボットは普及するのか

もうひとつ、農業ロボットについても聞いてみた。TBSのテレビドラマ「下町ロケット」の影響もあって、いまだに世間では実用化に期待がかかっているようだが、使う側にとってその価値はどう映るのだろうか。

こういう質問をしたかったのは、土地利用型で使う大型農業ロボットが普及するかどうかに関しては、私自身が半信半疑でいるからだ。某大手農機メーカーの実演を見たとき、日本のような小さな区画の農地で効率的に使いこなせるのか、と思った。


福原さんは「北海道では早く普及するんじゃないでしょうか。向こうは本当に人がいないからね。自動化しないとやっていけません」という。

では、府県はどうだろう。

「しばらくは普及しないんじゃないかな。なぜって、全国で区画整理の整備率は6割強しかありませんから。区画整理していても、一枚当たりの面積は30アールとか40アールに過ぎない。こんな小さなところで本当にロボット農機が使えるのか。1ヘクタールや2ヘクタールの畑を一つ抱えるくらいの経営体が大半を占めないと、投資効果が出てこない気がします」

さらに、福原さんの眼は圃場の外にも及ぶ。

「現状だと、ロボット農機は圃場の外は無人で走れません。人が乗ってとなると、それだけ手間がかかってくる。だから、頭の中ではあの無人トラクターが動くことは想定できないんですよね。うちで使うかって? なかなか難しいでしょう」

■関連記事・クボタが開発中の無人・自動走行トラクターの例
農機の無人化に向けた現状と課題 ~クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第3回】

農業ロボットは大規模圃場での利用が前提

一方、田植え機などに搭載されている自動直進の技術については「早くから使いたいと思っていた」そうで、今年から試すという。

「うちは圃場が大区画化しているので、使える条件が整いつつあります。水稲はもちろん、麦やキャベツにも使い回せるでしょう。費用対効果は度外視して、とりあえず試してみたいという気持ちが強くあります。府県で普及することには懐疑的ですけれどね」

■参考・自動直進技術・自動走行技術を搭載した農機の例
井関農機の直進アシストシステム「Operesta」搭載田植機「さなえNP80」
ヤンマーのオートトラクター(有人)/ロボットトラクター(無人)
トプコンの後付け可能なオートステアリング&ガイドシステム

農業ロボットについても、使える条件としてそれなりの広さを持った農地が必要というわけだ。

しかし、それだけの農地を用意できる農場が、府県には果たしてどれだけあるのか。現実をみれば、日本における農地の平均的な面積は1枚当たり2アール強に過ぎない。

「スマート農業」を声高に叫ぶ前に、国を挙げてやるべきことがあるようだ。

<参考URL>
有限会社フクハラファーム

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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