ICTで大規模稲作経営の作業時間&効率を改善──有限会社フクハラファーム

琵琶湖に面した200ヘクタールという日本有数の広大な水田で農業を経営する有限会社フクハラファームは、富士通株式会社が扱う営農を支援するクラウドサービス「Akisai(秋彩)」の開発に協力したことで知られる。

なぜICT(情報通信技術)に興味を持ったのか。利用してみてその価値をどう考えるのか。大規模水田農業経営体におけるICTや農業用ロボットの意義を探るため、滋賀県彦根市にある同社に、会長の福原昭一さんを訪ねた。


目指したのは農地の大区画化

福原さんがICTを取り入れた理由について知るには、会社の歴史を少し知っておいたほうがいい。

はじまりは1989年。この年、福原さんは地元の土地改良事務所を退社し、専業農家に転身する。4ヘクタールからのスタートだった。

当初から目指してきたのは「コメ専業として県内一」になること。そのために意識して実行してきたのは、農地の集積と大区画化だ。作業時間効率を上げるためである。

そのために、三角形で小さいといった条件の悪い農地でも、依頼されればすべて引き受けてきた。大区画化とは一見矛盾しているように思われるかもしれないが、そんなことはない。条件の悪い農地でも文句を言わずに引き受けているうちに、隣の田も任せられ、つながってきた。それらを合筆していけば、大きな農地に生まれ変わる。

フクハラファームが拠点を置く彦根市の稲枝という地区では、合筆に対して地権者の大きな抵抗がほとんどないそうで、話せば理解が得られるそうだ。だから福原さんは地権者には感謝している。

「いままで合筆を断られたのは1、2件だけ。全国でも非常に恵まれているのでしょう」

経営で大事なのは家族経営的チームワーク

同時に、増えてきたのが雇用者数だ。これだけ規模を広げてきた福原さんだが、理想はいまでも家族経営にある。家族という関係だけであれば、仲さえよければ、意思の疎通を図り、作業計画を立て、それを実行しやすいからだ。

「僕は農業経営において大事なのはチームワークだと考えています。家族であれば、朝飯を食うときでも『おやじ、後でこれやってくれ』って言っておけばそれで済んでしまう。ところが人を雇用するとそうはいかなくなってきます」

フクハラファームでも現実的に面積が拡大し、それに連れて雇用が増えてきた。農作業に従事する人数は13人に及ぶ。

従業員が次々に入ってくるに従って感じたのは、家族経営のようにはいかなくなってきたことだった。経営者が全体を把握すると同時に、個々の従業員と意思疎通を取りながら、こまめに指示することが難しくなってきたのだ。要は経営者の思った通りに事が進まないことが多くなってきた。


「そのせいで仕事に慣れず、辞めていった従業員もいたかもしれない。こちらとしては時間をかけて育ててきた彼らに、長くうちで仕事を続けてもらいたいたかった。

では、どうすれば僕の思っていることをうまく伝えられるか。そんなことを考えている時に、生産に関するデータを数字できちんと残して、いい悪いを数字で教えることが重要だと考えるようになったんですよ」

「Akisai」の開発に協力

そんなとき、ちょうどタイミングよく富士通から「ICTを水田農業経営にも展開したいので、その開発に協力してほしい」という依頼が舞い込む。

ここで、このICTのうちフクハラファームが取り入れたAkisaiのうちの「生産マネジメント」サービスについて簡単に説明しておこう。

Akisai 農業生産管理SaaS 生産マネジメントSの概要

まず、利用者(経営者)はパソコンを使って、圃場一枚ごとに栽培する品種のほか、誰がどこで、何の作業を、どういう順番でするのか、といった計画を立てる。各従業員はその計画に基づいて作業をこなし、投じた農薬や肥料の量や種類、農機の稼働時間など、日々の営農に関するデータを入力、クラウドで管理していく。もちろん、その結果である収量や品質に関するデータも蓄積する。つまり、計画や作業の進捗を「見える化」するのだ。


フクハラファームでは従業員は仕事を終えると、事務所のパソコンで1日の作業内容を入力する。それを適宜分析することで、翌年以降の営農に活かしている。

とはいえ、自分の欠点は自分ではなかなか気づけないもの。そこで毎月1回、全従業員と半日の「ミーティング」を設け、今後の計画と過去の反省について話し合っている。

ICTで作業時間を短縮し、作業を平準化

Akisaiを導入した効果の一つは、従業員ごとに作業の時間を短縮できたこと。日々どんな作業があり、誰がどの作業にどれだけかかっているのか──データを基にそれぞれをつぶさにみていくと、誰がどの作業に余計に時間をかけてしまっているかが見えてくる。従業員にはそれぞれ目標を設定してもらい、どうやったら早くこなせるかを話し合いながら、過去の経験を踏まえて伝えていく。

結果、たとえば田植えにかかる時間が、2013年に10アール当たり0.42時間かかっていたものが、2018年には0.31時間で済むようになった。

もう一つの効果は、作業を平準化できたこと。言うまでもなく、週や月、季節ごとの全体の作業時間は個々の従業員のその累積で決まる。雇用型の農業経営体が往々にして悩むのはその波をなくすこと。フクハラファームでは、年間300項目の作業がある。数が多いこともあり、従業員の配置や作業の組み立てがうまくできなかった。それが「見える化」したことで変わった。

「たとえば、12月後半から2月までの冬の空いている時期には、農機のメンテナンスや作業場の整理に当てていました。でもそれは日常的にやっていれば、冬場に集中的にやらなくてもいい。データを見ながら作業を平準化できないか検討していき、それが可能になった。おかげで冬場はキャベツの収穫に注力でき、面積を広げられました」という。

ICTで確かな結果を出しているフクハラファーム。次回はそれを使いこなせる経営体の条件について聞く。

<参考URL>
食・農クラウド Akisai(秋彩)|富士通クラウド
有限会社フクハラファーム

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。